夏が嫌い
うちはもう水泳なんて辞めたんだ
もう二度と泳ぎたくないんだよ
🦈
橋の下の河川を覗き込むと、水面の宝石が顔を照らす。鯉の鱗が水中で優雅に揺らめくのを妬み、額の汗を拭いつつ視線を逸らした。包帯に篭もる熱が不快だ。
蛙の声が寂しい梅雨明け。未だ蝉も鳴かぬというのに茹だるような暑さ。初夏にしては凄まじい日照りで、日傘や扇子を手に歩く生徒も多く見かけるようになった。先週辺りから学園内でも冷房設備が稼動し始めている。
炎天下、額に貼りつく前髪が鬱陶しい。朝方に似合わぬこの気候にうんざりするばかりだ。
『 おはよ〜。あついねえ 』
「 先輩…… 朝からアイスすか? 」
透華先輩は急ぐ様子もなく現れた。始業時間まで数十分だが、この気候では急ぐ気になろうにもなれない。先輩に合わせ気ままに歩を進める。溶けた紫がワッフルコーンの模様をつたってゆっくり彼女の白い手に向かって垂れていくのを声をかけることもなくただ眺めた。メンヘルな色がぽたりと地面に滴って『あ、』と声を漏らしたのが聞こえたが、後輩の意識は上の空のだった。日焼けを知らない白い肌に、彼女が夏に染まっていない安心感を覚える。
先輩も夏を嫌いになってくれればいいのに。漠然としていた意識とぼやけた焦点が彼女の言葉で私に帰ってきた。
『 アゼ、夏期の体育、なにやるの 』
「 何が選択出来たんでしたっけ 」
『 んと… ソフト、バスケ、サッカー、水泳… 』
「 ……、」
『 の、4つだったとおもう〜 』
ふと意識が水中に沈む。
鮫の群れ。濁る海水。あがる飛沫と嗚咽。偏る視界。
去年の夏、海水浴を楽しんでいた女子高生が鮫の群れに襲われて右目を失明する重症を負った事故があった。足にも軽傷を負っていた。当時水泳部のエースだった彼女は来月8月にインターハイに出場予定だった。
足の治療が済んでも右目の処置をしても、深く刻まれた心的外傷には魘され続け、欠場を決めた。
そこから水泳、生の魚、そして水族館にまで苦手意識を持つようになった。あの大きな水槽の前に立って見上げた時の、真っ青な美しい世界に吸い込まれて戻れなくなってしまいそうな感覚がたまらなく怖い。足が竦み、動悸が起こり、目を奪われてしまう。
『 アゼ、 きこえる? 』
「 ………うちはバスケにします 」
先輩に呼び戻され、"息継ぎ"ができた。
体育の種目選択だが、水泳はまず除外だ。引退前の自分であれば迷いなく選択していた。
正直今でも、以前のように泳げるのなら泳ぎたい。辞めたくて、引退したくて競泳界から身を引いた訳じゃない。
追いかけ続けていた夢が鮫に食い散らかされちまった気持ちが、
夢を諦めたヤツの気持ちが
一体、部外者にどう理解できるというのか。
『 とーかと一緒だ〜。 へへへ、たのしみ。』
この人がいなければ、一体私は今ここに生きて立っていたのか。
「 うちも、楽しみです 」
全く想像もつかない。
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🦈どこかへ置き忘れた夢 遠い物語
「叶わない」 そうやって自分に
🦈🍬言い聞かせていた
🍬それでも聴こえてくる この声はどこから
🍬心の奥で鳴り響く
🦈突然突き動かす
🍬抑えきれない衝動
🦈🍬始まり告げる音何度でも
🦈まだ間に合うかな
🦈🍬僕らは新しい光を探しここにいる
🍬重ねた時よ いつの日にか
🍬🦈ヒカレ 輝くためこの瞬間
🍬🦈ヒラケ 未来へ勇敢に行こう
原曲
https://youtu.be/MKINc7Rs6v8
甘草 透華 🍬 3008
https://nana-music.com/sounds/0656e186
Azel Vega 🦈 2007
https://nana-music.com/sounds/0652379d
#リーリエ学園
#ゆず #ヒカレ #ピィステレオ伴奏
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