キミの記憶
🗡ジャンヌ&💍アリソン
キミの記憶
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第5節 彼の人は譲れぬ想いを胸に走り続ける
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ジャンヌは北の国の貴族であるフォーサイス家に生まれた。その誕生は多くの人々に祝福された。騎士団長を務める厳しくも公明正大な父と病弱だが美しく心優しい母に囲まれジャンヌは幸せに過ごした。
──魔力が目覚める10歳までは。
「本当にあやつは私の娘なのか!?」
「なんてことを言うのですか!魔女であろうと貴方の娘であることは変わりないのですよ……!?あの子はきっと心優しい素晴らしい魔女になるはずです!」
家の中では毎日両親の争う声が聞こえるようになった。そして、心労のためかしばらくして母親は帰らぬ人となってしまった。
母親の亡骸の横でジャンヌは泣き暮らし、そして家を出ることを決意した。母親が信じてくれたように立派な魔女にならなくてはならないと思ったのだ。
それでも、いつも母の影に隠れていた引っ込み思案なジャンヌにとって、両親の元を離れて暮らすということは辛いことだった。ソルとルナの授業が終わった後に、森の中でこっそり泣く日々が続いた。
「そこで何してる。何故泣いてる?」
そんな時に出会ったのがアリソンだった。初めはぶっきらぼうな喋り方が少し怖かったが、アリソンは親切で優しいからすぐ仲良くなった。
アリソンは幼い頃に両親を亡くしたらしい。自分より大変な環境で育ったにもかかわらず、アリソンは泣き言も言わず暮らしていた。自分もアリソンのような強い心になりたいと思いジャンヌは修行に打ち込んだ。きっとアリソンがいなければ、ジャンヌは途中で修行を諦めていただろう。だから感謝の気持ちを込めて、1番の宝物である母親の形見の指輪を渡したのだ。
「ありがとうジャンヌ。遠くに離れても私たちの心はずっと一緒よ。私もきっとジャンヌと同じように立派な魔女になってみせるから」
その言葉にどれだけ救われていたのか、きっとアリソンは知らないだろう。
北の国に帰ってからジャンヌは懸命に国のために尽くした。心優しいジャンヌに騎士の仕事は向いておらず、人に厳しい言葉をかけるのも、剣を持って争うのも好きではなかった。それでも「良い魔女」となるため国を護り続けた。
やがて騎士団長となり、父親にレイピアを授けられた時これが「正解」なのだ、やっと報われたのだとジャンヌは思っていた。
世界対戦が始まるまでは。
「南の国の軍の後方では魔女が兵士の回復にあたっているということだ。我が国は資源や食料が乏しい。戦いが長引けば長引くほどこちらが不利になる」
「南の国のアリソンだったか?ならばその魔女を始末するしかあるまい」
「ならば……僕がその魔女を戦場に出られぬように致します……どうか僕にお任せを……!」
軍の会議でそう告げた言葉は弱虫な自分を表すようにみっともなく微かに震えていた。
そしてジャンヌは固有魔法でアリソンの「視力」の概念を破壊した。それならアリソンの固有魔法でも治すことは出来ないからだ。
「ごめんなさい……アリソン……」
小さく呟いた言葉はきっとアリソンには届かなかっただろう。届かなくていい。
アリソンは優しいから自分を許してくれるかもしれない。けれど北の国と何より大切な人を天秤にかけ、そして自分勝手に傷つけた自分なんて以前のように言葉を交わすことも、許されることも望んではならない。だからジャンヌはずっとアリソンに会うのを避け、ヴィオレットのお披露目でもアリソンを振り切り帰ったのだ。
こんな幼い頃から臆病で愚かで忌み嫌われる存在は、牢屋に繋がれて処刑されても仕方ないだろう。500年の努力は無駄だったのだ。
所詮自分は──大切な人を不幸にしてばかりの「悪い魔女」なのだ。
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それなのにアリソンは地下牢に現れた。
ジャンヌがあっけにとられている間に、アリソンはどこで手に入れたのか鍵で牢を開け、枷も外そうとするので慌てて声をあげる。
「アリソン、どうして……!僕のことなんて助けたら君に迷惑がかかる!やめてくれ!これ以上の迷惑をかけるのは……」
「放っておける訳ないでしょう!」
ジャンヌの悲痛な声はアリソンの叫び声にかき消された。
「どうせ国のために大人しく殺されるつもりだったのでしょう!?」
「それは……」
「ジャンヌは国のために誰よりも頑張っていたのをわたくしは知っています!そんなジャンヌを傷つける人からの評価なんていりません!それがジャンヌ自身でも許しません!」
アリソンは涙を流して激昂する。どんな辛い修行でも泣かなかったアリソンの涙にジャンヌは激しく動揺した。
「お願いジャンヌ……わたくしのためというなら一緒に逃げて……!」
「けれど……」
人を傷付けるだけの要らない存在。そんな自分がアリソンの手をとることは出来ない。
ジャンヌが躊躇しているとそこに大勢の足音が聞こえてきた。ガチャガチャという鎧の擦れる音から騎士たちだろう。ジャンヌは慌ててアリソンに逃げるように促すが、アリソンはジャンヌを守るように牢の前に立ちはだかった。
駆けつけた10人ほどの騎士たちは白金の甲冑と白い軍服を身につけている。北の国の騎士だ。そしてこちらは2人。そのうえジャンヌは杖を持っていない。地下牢にぴんと緊張が走る。
「南の国のアリソン様ですね?」
「……その通りよ」
騎士からの問いかけに、アリソンは警戒を解かず冷たい声で答える。騎士たちはお互いに目配せをすると、そのうちの1人が前に進み出て何かを2人へと差し出した。
「こちらをお持ちしました」
「……ッ!これは!?」
兵士から渡された布の包みを解くと、中からジャンヌの杖であるレイピアが姿を現した。
「何故これを……?」
「杖は魔女にとって大切なものであると以前にお伺いしておりましたので。偽物とすり替えておきました」
「東の国の不興を買わずに団長を逃がす手立てがなく、このようにアリソン様の救出に便乗するような形で申し訳ございません……」
申し訳なさそうに頭を下げる騎士たちにジャンヌは驚いたが、東の国という言葉にアリソンは全てを理解したらしく頷いた。
「なるほど……いま東の国は最も勢力を持つ国ですもの。北の国は寒さのせいで農業は出来ず地下資源と工芸品が産業の要ですから、お得意先の東の国の言うことを聞くしかなかったというわけですわね」
それでもジャンヌを牢に入れて悲しませた罪は重いのだが。不満は残るが、感極まった様子のジャンヌを見たアリソンは口を噤んだ。
「こちらは女王陛下から預かっております変装用の服です。女王陛下は『長年国を護ってくれたはずのお前を護ってやれず、情けない王ですまない。身勝手な願いだと思うかもしれないがどうか健やかに』と」
「そう、か……女王陛下が……」
「どうぞお気を付けて!北の国の一同はジャンヌ・フォーサイス隊長のお帰りをいつまでも待っております!」
敬礼をする北の国の兵士たちの姿に、ついにジャンヌの瞳からずっと耐えていた涙が零れた。
「ありがとう皆……」
無駄だと思った500年をもう一度信じてみても良いだろうか?
そう思った瞬間、ジャンヌの手がそっと優しく握られた。母の形見をつけた指。横を見れば優しく微笑むアリソンがすぐそばに立っていた。
「アリソン、君の言う通り逃げよう。そして君が良ければ、東の国に行って……」
「ええ、この騒動を解決しなくてはね」
その言葉にジャンヌは手を握り返し、初めてアリソンへと微笑み返したのだった。
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💍願うこと 🗡辛くても
🗡(💍)立ち向かう勇気キミにもらった
だから行くね
💍夢の中 🗡目覚めたら
💍また逢えるよ
💍🗡(🗡)遠い記憶 胸に秘め うたう
🗡(💍↑🗡↓)はかなくたゆたう世界を
キミの手で守ったから
💍今はただ翼をたたんで
ゆっくり眠りなさい
💍🗡永遠の安らぎに 包まれて
💍🗡(💍)Love through all eternity
💍(💍↑🗡↓)優しく見守るわたしの
この手で眠りなさい
🗡笑ってた泣いてた怒ってた
キミのこと覚えている
💍🗡忘れない いつまでも 決して
💍🗡(🗡)Until my life is exhausted
ハモリ・コーラス担当:💍🗡
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🗡ジャンヌ・フォーサイス
北の国唯一の魔女。騎士団長も兼任する男装の麗人。元は北の国の貴族の娘。ストイックな性格と威力の強い固有魔法から人間達には頼られながらも恐れられているが、本来は涙脆く心優しい性格をしている。とてつもない努力家。
かつてアリソンとは深い友情を育んだが、北の国の兵達に殺されるのを防ぐため、戦場でやむを得ず彼女の視力を破壊した。アリソンへの罪の意識から彼女を避け続けていた。
【好き】大切な人達から貰った温かく柔らかな思い出、北の国
【嫌い】堕落、卑怯な行為
【特技】剣術、料理
【ステッキ】父親に貰ったレイピア
【固有魔法】
「我が身には勝利のみ(バイト·ザ·ダスト)」
あらゆるものを壊すことが出来る魔法。概念や感情など形のない物を壊すことも出来る。
💍アリソン・フローレス
常に優しく微笑み、困っている人々を魔法で助ける「博愛の魔女」として尊敬されているが、実際はかなり芯の強い性格をしている。
元は戦火の中で両親を亡くした孤児だった。100年前の大戦でジャンヌに視力を破壊され、使い魔の燕を肩に乗せて視力を補っている。
ジャンヌを誰より大切に思っており、国を守るため無理をするジャンヌを常に心配し、傷付けるものは決して許さない。
【好き】仲間、ジャンヌのような頑張り屋さん
【嫌い】ジャンヌを傷付ける戦争、権力争い
【特技】調薬
【ステッキ】ジャンヌに貰った指輪
【固有魔法】
「貴方に与える愛(オール·フォー·ワン)」
あらゆる怪我や病を癒すことのできる魔法。ただし心の傷を癒すことはできない。
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☪︎第1章 プレイリスト☪︎
①→https://nana-music.com/playlists/3770346
②→https://nana-music.com/playlists/3840176
☪︎素敵な伴奏ありがとうございました☪︎
せいじ様
https://nana-music.com/sounds/03a6aa5c
☪︎ 𝕋𝕒𝕘 ☪︎
#魔女ジャンヌ #魔女アリソン
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