誰ガ為ノ世界
The Epic of Harmosphere 第1章
誰ガ為ノ世界
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第5節 彼の人は譲れぬ想いを胸に走り続ける
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その決意はいつか誰かを傷付けるだろう
その信念はいつか自身を傷付けるだろう
けれど歩み続けるしか道はない
何故なら過去に戻ることは出来ないのだから
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東の国、王城。
国の繁栄を示すかのように夜でも煌々と光を灯す壮麗な城の、その外見と対象的な薄暗い地下では巨大な機械が轟音をあげていた。
水槽のような2つの透明な箱を膨大な量の歯車で繋ぎ合わせたかのような奇妙な装置だ。片方の箱には大量の宝石が敷き詰められ、もう片方にはルナが閉じ込められている。
「何だこれは!ソフィアとかいう魔女との思い出話が書かれているだけではないか!ここに書かれている天候を操作する魔法が書かれている頁が重要だろう!探してこい!」
「は、はっ!」
叫んでいるのはこの国の宰相の男だが、ヒステリックに騒ぐ様子は威厳があるとは言い難い。
ルナがため息をつきながら、男が投げ捨てた紙に目を向ける。黄金色に輝く紙に綴られた癖字には見覚えがある。アビゲイルのものだ。
「これは……アビゲイルの杖の一部じゃな」
おまけに一部は暗号になっているらしい。ソフィアはよくアビゲイルの書いた魔法式を夢中で読んでいたがよくこんなものを読めたものだ。
頭の中までこんな風になっているのかとルナは呆れつつ、せっかくこんな厄介なものを解読したのに怒鳴りつけられた部下に少し同情した。
「ふん、そうだ。あのいかれた魔女の記憶の一部だ。空飛ぶ船に、馬よりも早く走る乗り物、どこでも音楽が流せる装置……魔女どもはこういった発明をどうして独り占めするんだ?そのせいで私たち人間は、お前たち魔女に常に怯えて暮らし続けなくちゃならん!」
「アビゲイルの考えはワシにも分からんのう」
ルナは肩をすくめる。そればかりは恐らく世界中の誰も分からないだろう。
「……ということはこれもアビゲイルの発明の1つなのか?」
ルナは自分が閉じ込められている装置を眺めつつそう問いかける。
不思議な装置だ。魔力を使って逃げようとしても柔らかな粘土を押すように手応えなく、魔力が装置に吸い込まれてしまう。その魔力はもう1つの箱の宝石に貯められているらしい。
すると男はニヤリと品のない笑みを浮かべる。
「ははは!その通り!我々人間にお前たち魔女はもう必要ない。だが『有効活用』はしてやろうと思ってな」
「有効活用……?」
「それはお前ら魔女たちから魔力を吸い取る装置だ。吸い取った魔力は宝石に流れ込み、我々人間の魔術科学の機械を動かす原動力として役立つというわけだ」
「我々を家畜のように飼い慣らして、魔力を絞りとるというのか……!?」
ルナはあまりの事に絶句するが、男はそんな様子を見て鼻で笑う。
「化け物を人扱いしてやる必要はなかろう。準備が整ったら、まずは手始めにお前から魔力を吸い取ってやる。お前が終わったらもう1人の方だ!ハハッ!」
男が指示を出すと、部下たちが慌ただしく装置の計器をいじりはじめる。不気味な唸り声のような音とともに機械は蒸気を吹き出す。
「東の国が魔術科学の研究を進め、北の国の宝石を買い占めている、か……なるほどアビゲイルの言った通りこのままでは1000年前の大戦と同じことになってしまうな」
他の国は東の国に比べれば国力が劣る。東の国が魔女狩りに協力しろと言えば、反抗することは難しいだろう。きっと全ての国が魔女を捕らえようとしているはずだ。
「どうか、どうかソルだけでも無事で……」
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一方、北の国の王城ではジャンヌが地下牢の中で鎖に繋がれていた。両手足には魔力を封じる枷がはめられている。
「はっ、騎士団長サマがざまあねぇな」
「…………」
「何か言ったらどうなんだ?」
「…………」
「チッ!忌々しい!化け物のくせに!」
牢番の東の国の兵士は無反応なジャンヌに苛立った様子で鞘で檻を殴りつけると、足早にどこかへと去ってしまった。
(化け物、か……)
誰もいなくなった暗い牢屋でジャンヌは一人で思いに耽ける。
(やはり人間にしたら僕は化け物か。こんな何でも壊せる力を持った僕はきっと恐ろしい存在んだろうな。お父様も僕を騎士として評価して下さったけれど、娘としては……)
それでも生まれて初めてかけられた父からの褒め言葉と、与えられたレイピアは何にも変えがたく嬉しかった。しかしそのレイピアも既にジャンヌの手には無くなってしまった。
(故郷のために尽くせばいつか分かってもらえると思っていたが、無理だったか。アリソンを傷つけてまで国を護ったのに、僕の今までやってきたことは何だったんだろう……)
王城で捕らえられ、城内の檻に入れられているということは女王がそれを許しているということに他ならない。そして、自分が捕らえられたときの部下たちのよそよそしい態度。
忠誠を誓い続けた母国に裏切られたという事実が何よりジャンヌの心を打ち砕いていた。
「ごめんなさい、お母様……僕は貴女の望むような立派な魔女にはなれなかったらしい」
子どもの頃のように鼻がつんと痛んだが、ジャンヌは涙を流すのをぐっと堪える。
涙は流さず、恨み言も零さず、女王が死ねと言えばその命令に従って潔く死のう。それがたった一つ残されたジャンヌの矜恃だった。
そして、そんなジャンヌの様子を小さな明り取り用の窓に止まった燕が見ていた。
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「全く、なんで俺があんな化け物の見張りなんかしなきゃならないんだ……」
ジャンヌの見張りを抜け出してきた牢番は地上へ向かう階段を荒々しい足取りで登っていた。
厨房で少し酒をくすねてこよう。こんな暗い場所で魔女の寝ずの番など酒でも飲んでいないとやっていられない。なに、少し料理人を脅せば良い酒を貰えるだろう。どうせ北の国のような貧乏でしみったれた国は東の国に逆らえない──
と、そこまで考えたその時。
目の前の地上へ繋がる扉が吹き飛んだ。
文字通り吹き飛んだのだ。辞典ほどの厚みがありそうな鉄の扉が紙のように。階段の途中で腰を抜かす男の所にその破片が飛び散ってくる。
「あらあら。魔力をグーッと集めて指先からドーンって打つのはできるけれど、どうしてもコントロールが苦手なのよねぇ」
「な、なん……な、なに……?」
その後に姿を現したのは豊かな金髪を持つまるで絵画から抜け出してきたような美女だった。
その女は歪んだ扉を踏みつけ、階段に踏み入ると兵士の方に目を向ける。薄暗い地下を照らし出す松明が女の顔に赤い光と深い影を落とす。
「誰かいるのですね?今、燕を『あの子』の所にやっているので見えませんが魔力の流れで分かりますよ」
「ま、まさか、魔女……?」
「ええ、その通り。南の国の魔女のアリソンと申します」
南の国のアリソン。
確か人間に友好的で慈悲深い魔女だと噂で聞いている。けれど、確かに優しげな笑みを浮かべてはいるが。これは。この雰囲気、気迫は。
「さてと……≪変形(リシェイプ)≫」
「ヒ、ヒィッ!」
アリソンが呪文を唱えると、地面の扉の破片たちは剣へと形を変える。数多の剣は全て兵士の男にその切っ先を向けている。
「さぁ、串刺しになりたくなければ、さっさと牢の鍵を寄越しなさい。残念だけどわたくしは『あの子』ほど優しくはないわよ」
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🧸ソル・アルレッキーノ(cv.あんに。)
🎀ルナ・アルレッキーノ(cv.あかりん)
✒️アンネ・クリストファー(cv.中条瑠乃)
📓アビゲイル・ヘルキャット(cv.憂沢時雨)
🕛ソフィア・クラーク(cv.はいねこ)
🗡ジャンヌ・フォーサイス(cv.なぎ)
💍アリソン・フローレス(cv.香流 紫月)
🗝ヴィオレット・ホワイト(cv.朔)
✒️🗝森の海を 漂うのは
憂いたたえ 揺れる小舟
📓🕛彷徨える魂と
澄みわたる 刹那の静寂
🧸🎀枝葉つたう 時の滴
震え落ちる 無垢な祈り
🗡💍水鏡に映るのが
潰えぬ哀しみの輪だとしても
all:誰もが傷つき 痛みを背負って
🗡誰かを傷つけ ひた走る
all:酷く残酷な風が 吹き荒れてもなお
💍譲れない想い その胸に秘めたまま
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☪︎第1章 プレイリスト☪︎
①→https://nana-music.com/playlists/3770346
②→https://nana-music.com/playlists/3840176
☪︎素敵な伴奏ありがとうございました☪︎
ゆめ希様
https://nana-music.com/sounds/0308072b
☪︎ 𝕋𝕒𝕘 ☪︎
#魔女ソル #魔女ルナ #魔女アンネ #魔女アビゲイル #魔女ソフィア #魔女ジャンヌ #魔女アリソン #魔女ヴィオレット
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