カルマ
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
カルマ
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__𝕂𝕟𝕠𝕨 𝕥𝕙𝕖 𝕞𝕖𝕒𝕟𝕚𝕟𝕘 𝕠𝕗 𝕓𝕖𝕚𝕟𝕘 𝕓𝕠𝕣𝕟.✩₊*˚
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星巫女全員が集められた日の、数日前。
琉歌はいつもと同じように、星空の下で歌声を響かせていた。
星巫女になった日と同じで、今日も世界はキラキラと輝いている。冷えた空気に吐き出した息が、白く染まっていくのが見える。
世界は変わらずこんなにも綺麗なのに、ここ数ヶ月、他の星巫女達はずっと悲しそうな顔をしている。
星巫女達の笑顔を見ることがほとんどなくなった。昔は話しかけると言葉を返してくれていた星巫女の子達も、最近はお話してくれなくなった。
みんなの笑った顔を見るのが好きな琉歌は、それがすごく寂しく思えるのだ。
それでも、叶夜ちゃんは前よりもずっと琉歌に優しくしてくれるようになった。叶夜ちゃんに会えるとすごく嬉しくて、心が飛び跳ねる。
叶夜ちゃんが琉歌に向けてくれる柔らかい微笑みを見るだけで、心の奥が満たされて、幸せでいっぱいになる。
だから前よりも、星巫女のお役目を楽しみにするようになった。叶夜ちゃんに会えるのは、星天界だけだったから。
いつもは優しい叶夜ちゃんだけど、それでも時々すごく苦しそうな顔をしている時がある。琉歌が話しかけたら、それは消えてなくなるのだけれど――それでも、ちょっとだけ心配だ。
何か悩んでいることがあるのだろうか? 尋ねても叶夜ちゃんは答えない。高校生の世界は難しいことが多くて、琉歌には分からないのかもしれない。
一つだけ引っ掛かることがあるとすれば、ずっと昔に紅愛が言っていたことだ。
他の星巫女達は、死ぬのが怖くて泣いているのだと。
琉歌には、「死ぬ」という言葉がどういう意味なのか分からない。周りの人たちが、どうしてそんなに恐れているかが分からない。
絵本の中では、死んだら天国という幸せな場所に行けるんだ、と描かれていた。お星さまになってみんなを見守ってくれるんだ、と描いてある本もあった。
幸せな場所に行けるのも、お星さまになれるのも、すごく素敵なことだと思う。怖いことだとは思わない。紅愛もそんな風に言っていた。
話を聞いても本を読んでも、琉歌にはみんなの考えていることを理解することが出来ない。琉歌がまだ子供だからだろうか。学校の友達と、そんな話をしたことはなかった。
「死ぬ」についてずっと考えていると、頭がぐるぐるしてくるのだ。底なしの真っ暗な沼に飲み込まれていくみたいな、変な感じに襲われる。
その感覚があまり好きではないから、「死ぬこと」についてはなるべく考えたくなかった。だからお友達に話したことも、お母さんやお父さんに相談したこともなかったのだろう。
もしかすると、みんなが死ぬことを嫌がるのはその感覚を避けたいからなのだろうか? 琉歌は頭がぐるぐるするのが嫌だなあ、と思うだけなのだけれど、大人になるとそれがもっと酷くなるのかもしれない。
他のことを考えれば、ぐるぐるももやもやも消えてしまうから、あまり深く考えたことはなかった。だけど、大人になれば消えなくなるのだろうか? なんだかそれは気持ち悪い。重い荷物を抱えた時みたいに、心がぎゅっと握られるような感じがする。
大人には憧れるけれど、そんな風になるのなら琉歌はずっとこのままでいたい。甘くて幸せなこの世界に、黒い絵の具は必要ない。
そうやって避けられない黒いインクが、琉歌の世界に落ちてくるのなら。琉歌はそれを掻き消すくらい、もっともっと幸せでいたい。黒い色ごと大好きなピンクで塗り潰せるくらいの幸せを、両手いっぱいに抱えていたい。
ああ、そうか。だから琉歌は、そのために星巫女になったんだ。
未来の琉歌の、みんなの黒いもやもやを消し去るような幸せを、世界に振りまくために。
導き出した答えに満足して、琉歌は満面の笑みを浮かべた。
不意に、歌っていた背後のドアが開いた気配がした。ドアが開いた勢いで風が吹き込んで、金属の擦れる高い音が鳴る。
誰か来たのかな?と思って振り向くと、そこには射手座の星巫女、刹那がいた。艶やかな緑色の長髪が、風に靡いていて綺麗だった。
ここに来たのは琉歌と刹那だけらしい。誰かと二人きりなんて珍しいな、と琉歌は胸を弾ませた。
刹那さんは他の星巫女に比べて、なんとなく雰囲気が違う感じがする。
三年生の頃の担任の先生に似ているなあ、と見るたびにこっそり思っていた。いつもぴっしりと背筋を伸ばしていて、いかにもカッコいい大人、という様相だ。
それは刹那さんと一緒にいる柊葉さんも同じで、二人が話しているとお母さんの見ているドラマみたいだなあ、と思う。
名前の後ろに付けるのが「ちゃん」じゃなくて「さん」が似合う雰囲気、とでも言えばいいのだろうか。琉歌の学校の友達にも、近所のお姉さん達にも、そんな雰囲気を醸し出している人はいない。
柊葉さんは話しかけるとちょっと困ったように笑うけれど、刹那さんはいつでもにこやかに話に答えてくれる。叶夜ちゃん以外では、最近も琉歌とお話してくれる数少ない星巫女だ。
一人で考え事をしている時の表情はぴしっとしていて、ちょっと厳しい人なのかな、と思っていたけれど。笑った顔はすごく優しくて、やっぱり先生みたいだと思うのだ。
扉を開けて儀式場に入ってきた刹那はすぐに琉歌に気が付くと、いつも通りの優しい笑顔を浮かべて言った。
「琉歌、こうして会うのは久しぶりだな。相談したいことがあるんだが、大丈夫か」
突然そんな風に声をかけられたので、驚いてしまった。ちょっとだけ目がまんまるになってしまったかもしれない。慌てて返事をするように大きく頷く。
刹那さんは笑っているけれど、その声はすごく真剣だったので、琉歌もつられてきちんと背筋を伸ばした。集会で先生のお話を聞く時よりも、ずっと真っ直ぐに。
「……琉歌に、星巫女を救って欲しいんだ」
続いたのは、もっとびっくりするような言葉だった。てっきり、今日の儀式の話とかだと思っていたのに。
それよりももっともっと重大な、爆弾みたいな言葉だった。
この前に見たアニメにも、こんな展開があった。可愛い動物に突然世界を救って欲しい!と声をかけられて、正義の戦士に変身するお話。
刹那さんは可愛い動物ではないけれど、誤差の範囲だろう。
アニメの中でヒロインが言われていた台詞が、琉歌に向けられている。それが嬉しくて、思わず口元が綻んだ。
真面目な話だったというのを思い出して、慌てて刹那さんを真似するように神妙な表情を作る。先程よりも和らいだ口調で、刹那は話をつづけた。
「星巫女は、儀式を行うたびに……そうだな、すごく疲れるようになってしまうんだ。私を含め、他の星巫女も皆そうなっている。だけど、琉歌。君は違うだろう?」
すごく疲れるようになってしまう。告げられた刹那の言葉は、すとん、と腑に落ちた。
そうだったのか。だから、みんなあんなに辛そうな顔をしていたのか。考えても分からなかったことが一気に納得出来た。
「うん、琉歌は疲れてない! 今日の体育だって、すっごく頑張ったよ!」
元気なことをアピールしたくて、いつもよりちょっと大きな声でそう返すと、刹那さんは口元を微かに緩めた。
琉歌だけが疲れていないのだろうか? よく分からなかったけれど、元気なことは間違いない。
寒い季節だから体育ではマラソンをしているのだけど、一生懸命走ったので先生に褒められた。
「なら、お願いしたいことがある。他の星巫女達の儀式を、琉歌に任せたいんだ」
すごく真剣な顔で頼まれたから、琉歌も真剣な顔をして頷いた。
星巫女全員がこれ以上苦しまないためには、琉歌の協力が必要なのだという。
星巫女の儀式をすると、普通は沢山ストレスが溜まってしまう。人はみんなそれを溜めておくコップを持っているのだけれど、そのサイズはバラバラで。琉歌のコップは、特別に大きいらしい。
琉歌は星巫女のことも世界のことも大好きだから、神様がプレゼントしてくれたんだな、と言われた。その言葉にすごく嬉しくなって、さっき作っていた真剣な顔がゆるんでしまった。
「琉歌が一人で儀式を引き受ければ、犠牲を最小限に出来る」らしい。
刹那さんの話は難しいことが多くてよく分からなかったけれど――琉歌にはみんなを救える特別な力がある、ということらしい。
琉歌がみんなに代わって儀式を引き受ければ、みんなが笑顔に戻ってくれるのだろうか。
そうすれば、叶夜ちゃんももっと笑ってくれるだろうか。悲しそうな顔をしなくなって、沢山お話してくれるだろうか。そう考えるだけで、心が弾んだ。
「いいよ! 琉歌、協力する!」
憧れていたアニメのヒロインみたいに、琉歌が星巫女のみんなを救うんだ。
そんな希望と期待で胸がふくらんで、心が躍って。思わず歌が零れた。
見上げた星空は、さっきよりもずっとキラキラ輝いているように見えた。
𝕋𝕠 𝕓𝕖 ℂ𝕠𝕟𝕥𝕚𝕟𝕦𝕖𝕕...
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✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
💘ガラス玉 ひとつ落とされた
追いかけてもうひとつ落っこちた
ひとつ分の陽だまりに ひとつだけ残ってる
⚜️心臓が始まった時 嫌でも人は場所を取る
奪われないように 守り続けてる
⚜️汚さずに保ってきた 手でも汚れてみえた
💘記憶を疑う前に 記憶に疑われてる
💘⚜️必ず僕らは出会うだろう
同じ鼓動の音を目印にして
ここに居るよ
いつだって呼んでるから
くたびれた理由が重なって揺れる時
生まれた意味を知る
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♍︎Virgo #星巫女_琉歌
💘琉歌(cv.ゆうひ)
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♐︎Sagittarius #星巫女_刹那
⚜️刹那(cv.ハナムラ)
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₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴もぐら様
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✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
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