ここは平和の国ユグドラシル。
この地にて世界樹の見守る平和はいつまでも続くと思われた。
そんな矢先、突如として世界樹の葉が枯れ始めたというニュースが報じられる。
ユグドラシルは先遣隊を送り込むと、衝撃の事実が発覚する。
なんと世界樹にダンジョンが現れたのであったーー。
それは剣や弓では突破できない難関のダンジョン。
歌の力によって、その先へと進む階段が現れる魔法のダンジョンであった。
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ダンジョンが現れてから、月日はほんの少し流れた。
ユグドラシルの首都アルブルのダンジョンの前には、探検隊となって世界樹の最深部を目指すと言い張る少女と、許可証を持った一人の若者が居た。
「ちょっと!何故私が入れないのよ!私を誰だと思ってるの!」
「存じ上げておりますとも!シルヴェストリ公爵令嬢でしょう!ダンジョンに貴女を入れたら首が飛びます!」
「どうしてこうなった……」
サフィーヤは目の前の惨状に頭を抱えていた。
隣国アヴィリスからやってきて、セカイジュのために奮闘するとアピールし、見事軍医となったサフィーヤは早速任務を仰せつかっている。
任務内容であるダンジョン内部の調査を遂行しようと、ダンジョン入口にやってくると、訳の分からぬ少女が暴れていたのだ。
捕らえてしまえばいいものを、名のあるお貴族様らしく、門番が辟易している。
いや、そんなことはどうでもいい。
どうでもいいのだ。
問題なのは、サフィーヤが今回組むことになっていた司令官と小隊の仲間だ。
エルザ・ツァイアーという軍の司令官と、フローラ・アルペンハイムという小隊の仲間が一向に訪れない。
人員が揃わないからとダンジョンに行かなければ二人との連帯責任で罰せられるかもしれないし、単独行動したら罰せられるかもしれないし、、
会えない二人だけが先にダンジョンに行っていたとしたら、自分だけ行かなかったことになるので、罰せられるかもしれない。
「詰んでるじゃない……」
「そうよ!私は公爵令嬢よ!黙って言う通りに門を開けばいいの!!」
「……っ、静かにしてほしいな……」
「何か言ったかしら!!?」
「ぁ、しまった。」
小隊の二人が来ないストレスと、隣で喚きたてる少女のストレスで、サフィーヤは口が滑ってしまったようだ。
気付けば桃色の瞳に怒りの炎を燃やすルクレツィア・シルヴェストリがサフィーヤの方を向いていた。
「この私に黙って欲しいと言ったのは貴女ね!名乗りなさい!」
「サフィーヤ・ジブリール。軍医です。お嬢様。」
「ふんっ、貴女のことはお父様に言いつけてやるわ!…………いや、待って。」
目の前のお嬢様は怒りを急に鎮めた。
そして小声で何かを呟いている。
この末恐ろしい令嬢は、誰にチクれば一番効果的なのかを考えているのだろうか。
サフィーヤに向き直ると先程とは一転、キラキラとした目を向けた。
「貴女!私とダンジョンに入るわよ。私の身を案じるここのダンジョンの門番たちも、軍人と一緒に入るなら文句はないでしょう!」
「はぁぁああ!!???」
かくして、サフィーヤはルクレツィアに引き摺られる形でダンジョンに入ったのであった。
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