ツキアカリのミチシルベ
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
ツキアカリのミチシルベ
- 112
- 15
- 0
__𝕀𝕝𝕝𝕦𝕞𝕚𝕟𝕒𝕥𝕖 𝕥𝕙𝕖 𝕨𝕒𝕪 𝕀 𝕤𝕙𝕠𝕦𝕝𝕕 𝕘𝕠.✩₊*˚
₊*̥┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈☪︎₊*˚
相も変わらず、胸を締め付ける星空だ。
煌めく星も、濃い藍色の空も、幻想的な光景のはずなのに。
冬の寒空の下で星を眺めていると、あの日から閉じ込められた黒い靄の塊がせぐり上げてくる。
召喚される前の世界には雨が降っていたのに、星天界は一点の曇りもなく澄み渡っていた。
周囲のざわめきがいつもより大きく聞こえる気がして、俯いていた顔をそっと上げる。
祈鈴と同時に星天界に召喚されていたのは、一、二、三、四……全部で九人。まだ生きている星巫女の全員が、此処に集められていた。
これで、全員。星巫女になってすぐの頃と比べて、随分と減ってしまった。最後まで残っていられるのは何人なのだろう、なんて考えて、慌ててその思考を振り払った。不吉なことを考えれば、それが現実になってしまいそうな気がしたから。
蛇遣い座の季節が終わって以来――双子の片方が死んでしまって以来、こうして星巫女全員が集められるのは二度目だ。
その時は、黒い少女の――蛇遣い座の星巫女の襲撃があった。最早何度目になるのかも分からない、星天界への攻撃。星空と世界を繋ぐドームが揺れて、割れて、壊れそうになった。
それを九人の星巫女全員の歌で防いでから、祈鈴の体調はより一層悪化した。頭痛、眩暈、吐き気。ひっきりなしに押し寄せるそれらの症状に、祈鈴はずっと苦しめられている。
症状が出始めてすぐの頃とは、比べ物にならないほどの痛みに襲われている。学校に行くのがやっとのことで、何度も倒れ保健室へと運ばれた。厄介者を扱うような担任の態度に、臆病な心は竦んだけれど、だからといって学校を休もうとは思えなかった。
両親も心配しているようだったが、星巫女の務めを説明するわけにはいかなかった。何がタブーに触れるか分からないのだ。
神様によって定められたタブーに触れれば、星巫女は命を落とす。千歳の死は、未だに祈鈴の心の柔い部分を蝕み続けている。
蛇遣い座の季節が終わってからは、少女の襲撃がある日は全員が召喚されるようになった。
ということは、今日もまた彼女が星天界を攻撃するのだろうか。
不安で視界が暗く染め上げられていく。大切な人を失って、生きる理由も失って。それでもなお、目前に迫っているかもしれない死が怖くて堪らなかった。
皆一様に暗い表情をして俯いている。星空の下に、沈黙が訪れた。
その静寂を破ったのは、すっかり聞き慣れた明朗な声だった。
「皆に、相談したいことがある。今後の星巫女全体に関わる話だ」
この光景を見るのは、何度目だろうか。
星巫女が全員集められて、一番に口を開くのはいつだって刹那だった。
どうやら彼女の両親は中央政府の人間で、情報を手に入れやすい立場らしい。祈鈴と同い年とは思えないほど、彼女の語り口は堂々としていて、目が離せなくなる。
千歳の死について尋ねられたあの日とは別人のようだなあ、なんてことをぼんやりと考えた。
「私達が星巫女になってから、既に四人の犠牲者が出ている。このままだと、犠牲者は増える一方だろう。残りの任期である一年間、私を含め誰が死んだとしてもおかしくない状況だと思って欲しい」
死者を悼むように、緩やかに目を伏せながら刹那は語った。長い睫毛が微かに震える。
「星巫女の死因になり得るものとして、最も可能性が高いのが衰弱死だ。儀式によって体力や精神力を削られた末、死に至る。分かっているだけでも、咲羽と璃月が衰弱の結果亡くなっている。
彼女達二人が私達よりも先に亡くなったように、星巫女が儀式による負担をどれだけ受け入れられるかには、個人差があるのだろう。現在の私達は、ダメージが身体に蓄積されている状態だ。星巫女にかかっている負荷は、頭痛などの症状として表れている。ほとんどの星巫女が、苦しめられているだろう?」
そう言って刹那が周囲を見渡すと、ほとんどの星巫女が俯きがちに小さく頷いた。やはり、身体の不調に苦しめられているのは祈鈴だけではないらしい。
「無論、私もその一人だ。今は薬で抑えられているが、今後どうなるかは分からない。以前、突然倒れてしまったこともあったからね。どこまで身体が続くか、分かったものではない。今までと同じことを続けていれば、我々星巫女に待っているのは共倒れだろう」
用意された台詞を話すかのように、よく響く声で話を続ける刹那は、さながら舞台役者のようだった。ここが舞台なら、祈鈴も演者の一人か。生憎、祈鈴の分の台本なんてない出来損ないの舞台に、少しの声すらも出てくれない出来損ないの演者なのだけれど。
「星巫女の全員が死亡するというのが、最悪の事態だ。世界を守護する者がいなくなる。そうなれば"彼女"に世界は食い荒らされてしまうだろう。星天界は、世界を守護する以上の役割を持たない。星天界を壊した後に、世界をも破壊しようというのが蛇遣いの彼女の目的だろう。それは私の望むところではないんだ。星巫女がいなくなる、なんていう事態は避けたい。そのために一つ、提案をしたいと思う」
一度言葉を区切り、刹那はぐるりと祈鈴達の方を見回した。反応を窺っているようにも見える。
目が合ったら思考を見透かされてしまいそうで、気付かれないようにそっと俯いた。
少しの逡巡の後、意を決したように刹那が再度口を開いた。最早ここは彼女の独壇場だ。
「今日この場に集まった星巫女のうち、一人に儀式を任せるというのはどうだろう」
寒空に響いた刹那の言葉に、星天界の空気が凍り付いた。言葉を口にする者はいない。
唐突な刹那の提案に、誰もが戸惑っていた。
刹那の言うことは、誰かに儀式とそれに伴う負担を押し付けてしまおう、ということのように聞こえたから。
やや非難めいた視線が集まったのを感じ取ったのか、小さく首を振って刹那は補足した。
「勿論、誰かを犠牲にするために儀式を任せよう、と言っているわけではない。先程言っただろう?負担を受け入れられる量には、個人差があると。儀式を行うのは、今最も症状が軽い星巫女。もし現在症状が出ていない星巫女がいれば、一度の儀式で死に至ることはないだろう。どれほどの量の負担が集中するかは分からないが、試す価値はあると思う」
平等に儀式を行うのではなく、各々のキャパシティに応じて公平に儀式を行う、ということだろうか。それならば筋が通っているのかもしれない。
儀式の度に、祈鈴の体調は悪化する一方だ。他の星巫女に任せられれば、なんていう最低なことを何度も思った。
他の星巫女を頼るということは、本来は祈鈴が受け入れるべき負担を押し付けるということだ。そんなこと、口に出来るわけがない。
だけど、もし今も症状が表れていない星巫女がいるというのなら。彼女が儀式を一手に引き受けるのは、正しい判断なのだろう。
「今まで、何人かに個別に体調についての話を聞いてきた。私達の中に、初期に表われる頭痛も吐き気も、何も症状が出ていない星巫女がいた」
そう告げると一度話を区切り、刹那は一人の星巫女の方を向いた。どこか芝居がかった口調のように思える。
刹那の視線が向いた少女の方に、全員の注目が集まる。そこには、淡い桃色の髪を結い上げた幼い星巫女――乙女座の琉歌がいた。
「琉歌は星巫女になって以来、一度も頭痛や吐き気などの症状が出ていないらしい。幼い頃から星巫女に憧れていたそうだから、星巫女としての適性があるのだろう」
全員の視線が向けられてもなお、琉歌はいつもどおりの無邪気な笑みを浮かべていた。儀式による負担を一人で受け入れるということを、理解しているのかいないのか。それさえ分からない。
明るい笑顔を灯したまま、琉歌は歌うように言い放った。
「琉歌、みんなの分まで儀式出来るよ! 琉歌、ずっとヒロインになりたい、って思ってたの! 世界を守るために歌う、特別な星巫女になれるんでしょ?」
不安の影なんて微塵もない、ただひたすらに甘くて明るい声。夢の中の世界で聞くような声。
ざわり、と嫌な予感が駆け巡った。彼女と祈鈴では、見えているものが違うのではないか。
四人の星巫女が死んでいる状況で、「ヒロインになりたい」だなんて。いくら彼女が幼いとはいえ、流石におかしい。明らかに異常だ。
そう思ったのは、祈鈴だけではなかったのだろう。微かに周囲がざわめいた。
それを掻き消すかのように、刹那がおもむろに口を開く。
「琉歌自身はこう言っているが、星巫女全体に関わる話だ。何か意見があれば、全体で共有したい」
その言葉を受けて、周囲が水を打ったように静まり返った。意見を口にする者は誰もいない。混乱している。
全員が生き残るための手段として、刹那の言いだしたことは正しい。琉歌も申し出を了承しているし、何も問題はないはずなのだ。
今の祈鈴にとって一番大切なことは、自分が生き残ること。それよりも大切にしたい、だなんて思っていた唯一の友達は、既に命を落としてしまった。
だから刹那の提案に引っ掛かりを覚える理由なんて、何もないはずなのに。
それでも後ろめたさが残るのは、千歳が死んだ日に祈鈴は儀式を投げだしたからだろうか。
心のどこかで、またあの日と同じことが起こるのではないか、祈鈴が他の星巫女を殺してしまうのではないか、と恐れを抱いている。
こんな恐怖だってきっと、自分が罪悪感を抱えたくないだけの、自分本位な恐れなのだけれど。
刹那の言葉を最後に、静まり返った儀式場。九人の星巫女達を見守るのは、凍てついた星空だけだった。
心に淀みが溜まっていく気がして、行き場のない感情を逃がそうと、固く手のひらを握りしめる。
どうするのが正解か、と周囲の様子を窺おうとして、隣にいた少女と目が合いかける。気まずくなるのが嫌で、慌てて俯いた。
一瞬だけ祈鈴の瞳に映った淡い青色は、今まで祈鈴が見たことないくらいの怒りに燃えていた。
𝕋𝕠 𝕓𝕖 ℂ𝕠𝕟𝕥𝕚𝕟𝕦𝕖𝕕...
₊*̥┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈☪︎₊*˚
✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
☘ツキアカリのミチシルベ
💘雲を越えボクに届け
❄進むべき道を照らしてよ
☘💘❄今日がどんなに壊れそうでも
❄ねぇだれかか教えて
みんなそうなのかな?
💘今日が幸せなら
それでいいと思えるって
☘幼いころには
確かにあったよ
夢を追いかけてた
☘❄でもそれも遠い記憶
☘💘❄答えのない毎日が
ただ過ぎてゆく時間が
☘これから先どうなるのだろう?
わからない・・・
☘💘❄ツキアカリのミチシルベ
雲を越えボクに届け
進むべき道を照らしてよ
今日がどんなに壊れそうでも
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♈︎Aries #星巫女_祈鈴
☘️祈鈴(cv.朔)
https://nana-music.com/users/2793950
♍︎Virgo #星巫女_琉歌
💘琉歌(cv.ゆうひ)
https://nana-music.com/users/8498301
♒︎Aquarius #星巫女_雪涙
❄️雪涙(cv.海咲)
https://nana-music.com/users/579307
₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴だんご様
https://nana-music.com/sounds/062b9a36
✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
Comment
No Comments Yet.