あわよくばきみの眷属になりたいな
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
あわよくばきみの眷属になりたいな
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__𝕋𝕙𝕖𝕣𝕖 𝕚𝕤 𝕟𝕠 𝕤𝕒𝕝𝕧𝕒𝕥𝕚𝕠𝕟 𝕗𝕠𝕣 𝕞𝕖 𝕨𝕙𝕠 𝕚𝕤 𝕓𝕝𝕒𝕤𝕡𝕙𝕖𝕞𝕪.✩₊*˚
₊*̥┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈☪︎₊*˚
*軽度の嘔吐表現があります。苦手な方はご注意ください*
あの日の刹那の笑みが、頭から離れない。
中央政府内に、星天界へと繋がるゲートが存在すると言われた日。
刹那ははっきりと、自分が生き残るためならば他の星巫女を殺すことも辞さないと言ってのけた。
そんな刹那に対して、柊葉は何も言えなかった。
他人の命を犠牲にしてでも生き残りたい、生き残らなければならない。刹那のその言葉が、正しいとは思えない。
どんな目的のためであれ、間接的に人を殺すことには変わりないのだから。
刹那は、他の星巫女を殺すことに微塵も罪悪感を感じていない。ここままでは、いずれ彼女は何らかの方法で、自分の身代わりとして誰かを殺すことになるだろう。
それを止められるのは、柊葉だけだ。
刹那を説得することが出来ないとしても、他の星巫女に刹那の思惑を伝えれば、多少なりとも彼女のしようとしていることに歯止めがかけられる。
与えられた情報を共有することで、望まぬ誰かの死を避けることが出来る。
頭ではそう分かっている。分かっているのに、柊葉はそれを実行しようとは思えなかった。
千歳が死んだ時。刹那と柊葉だけが、彼女の行動は死に至る危険があると知っていた。千歳に予めそれを伝えていれば、千歳の死は避けられたはずだった。
灯莉のことにしたってそうだ。蛇遣いの襲撃頻度が高まる可能性があると先に全員に知らせておけば、雪涙だって儀式場に真っ直ぐ向かっただろう。二人の死は、避けられたことのはずだった。
だけど刹那は、そうしなかった。情報を得るために、二人の死を見過ごすことを決めた。そして柊葉は、それを止めなかった。
何もしないことは、加担しているのと同じことで。刹那と柊葉は、既に二人の星巫女を間接的に殺しているのだ。
自分が千歳を殺したのだと気付いた日は、後悔と恐怖でおかしくなりそうだった。
間接的とはいえ、一人の少女の命を奪ってしまったという事実は、柊葉が抱えるには重すぎた。
星天界から戻り、目を覚ました後。柊葉は胃の中のものを全て吐き戻した。饐えた匂いとくしゃくしゃになったシーツの感触を、まだはっきりと覚えている。
胸の奥に痞えた黒い塊が、こびりついて離れてくれなくて。お前は人殺しだ、と耳元で囁く幻聴に囚われて。
この傷はきっと一生消えることはないのだと、はっきり理解してしまった。
それでも柊葉は、まだ同じことを繰り返している。見て見ぬふりの傍観者を続けている。
刹那の理想は、世界にとって正しいことだから。
神様を縛る中央政府は、明らかな悪だ。
星巫女に対する扱いを見れば分かる。不都合な真実を隠し、自分の利権ばかりを求め、その邪魔をする者は排除する。
自らの派閥を大きくすることだけに心血を注ぎ、世界のことなんて考えてもいない。
両親やその知人を見ていれば、中央政府の在り方がいかに歪んでいるのか、嫌でも分かってしまう。
だから世界にとって――少なくとも柊葉の世界にとって、刹那の理想は正しい。中央政府を壊そうとすることは、正義である。
中央政府の統治する世界なんて、壊れてしまえばいいと思っている。柊葉にとって、刹那の理想は自身の願いと合致している。
だから、柊葉は今も傍観者に甘んじている。
たとえ刹那の語る正義を達成する手段が正しくないのだとしても、柊葉は彼女を止められない。
刹那の言葉は、両親に負わされ積もり積もった柊葉の傷を隠してくれる気がしたから。
中央政府に反旗を翻し世界を変えてみせる、なんて。夢見ることすらも許されなかった己の願いを、掬い上げてもらったような気がしたから。
誰かを殺して生き延びるなんて正しくないと理解しておきながらも、自分の傷を癒すためにそれを容認している。
誰よりも利己的なのは、刹那ではなく柊葉自身だった。
続く酷い頭痛と眩暈に耐えながら、一日分の授業を終えて家に戻る。
仮面を貼り付けては母や使用人の言葉を受け流し、倒れ込むようにして自室に戻った。
そのままベッドに横になり、込み上げる吐き気を抑えるように膝を抱える。
表情を取り繕うのも、誰かと会話をするのも、もううんざりだった。偽の自分で他人と関わることに疲れていた。
真っ白な部屋に蹲ったまま、回る秒針を眺めるだけの夕方を迎えるのは何度目だろう。
今まで難なくこなせていたことが、徐々に出来なくなっていく。酷い苦痛だった。
痛覚が無ければ良いと思った。痛みを感じなければきっと、もっと生きやすくなる。
痛覚は身体を守るためのものだと、知識として分かってはいるけれど──それでも痛みを感じなければ、生きることを苦痛に思わなくて良かった。
消えたいも死にたいも、浮かぶことすらなかったはずなのだ。
瞼が重い。水滴が睫毛に溜まって揺れている。数度瞬きをすれば雫は零れ落ちて、白いシーツを汚すだろう。
星巫女になってから、刹那に出会ってから、柊葉は弱くなってしまった気がする。
もっと簡単に、感情を殺せていた。泣くことなんて滅多に無かった。
救いを求めたくなることも、悪夢を見ることも、無かったはずなのに。
微睡んでいた意識が、硬質なノック音で覚醒する。
柊葉の部屋に繋がる木製の扉を叩く音。この音が柊葉は嫌いだった。
「柊葉」
扉の向こうから聞こえたのは、くぐもった父の声だった。
頭に響いていた痛みが増すのを感じる。普段はこの時間、家にいることはないはずなのに。
逃げたい。この場から消えてしまいたい。声を聞きたくない。そんな子供じみた弱音が浮かんでは溜まっていく。
そんな願いが、聞き届けられるはずがない。不規則に鳴る喉を抑えるように呼吸を殺し、乱暴に目元を擦る。涙の跡が残っていなければ良いけれど。
眩暈を振り払うようにして立ち上がり、重い扉を開けた。
暗い廊下に、柊葉と同じ赤色の瞳が映る。
扉を開けた先には、眉をひそめた父が立っていた。
「話がある。……刹那と行動を共にしていたというのは、本当か」
何を言っているのか、すぐには理解できなかった。
告げられた低い声に、喉の奥が引き攣る。瞳に映る景色が色彩を失って黒と混ざり合う。
どうして、それを。誰かに見られていたのだろうか。誰かを介して父に伝わったのだろうか。それを聞いた父は、何を思ったのか。
柊葉を咎めようとしていることは間違いない。絶対に許されないことだった。反政府側の人間に協力するなんて大罪を、許してもらえるはずがなかった。
自分が上手く表情を取り繕えているのか分からない。どんな顔をしているのか、想像がつかない。
動揺は表に出てしまっただろうか。だとしたら、最悪だ。一度外されてしまった仮面は、日を追うごとに被るのが下手になっている気がする。
刹那が中央政府にとって害となる存在であることに、父はとっくに気が付いているだろう。
柊葉に課せられた生きる理由は、家の為に生きること、それだけだ。刃向かう権利なんてものは、生まれた日から一度も与えられたことがない。
父の問いかけに否定も肯定もしない柊葉に苛立ったのか、短い舌打ちを一度鳴らすと。父は、再び尖った言葉を向けた。
「近頃のお前の行動は、目に余る。成績も落ちているのだろう。星巫女だからといって、それが免罪符になるわけではないんだ」
分かっているか、と赤い瞳を向け、父は柊葉を睨め付けた。
いつも通りに、謝れれば良かった。全て柊葉のせいなのだと、柊葉が悪いのだと告げて、許しを請えば良かった。
だけど、それが出来なかった。声を出す方法を失ってしまったかのように、言葉を紡ごうとした口は空気だけを吐き出すばかり。
胸の奥に重いものが痞えたまま、吐き出すことを許されない。上手く表情を取り繕えなくなって、自分自身が分からなくなって。
脳内が搔き乱されて、呼吸の方法すら忘れてしまいそうだった。
「何だ、その反抗的な眼は」
パシン、と乾いた破裂音がして。
右頬に違和を感じ、すぐにそれは熱に変わった。痛みと衝撃が頬を抜け、平手で打たれたのだ、と遅れて認識する。
手を上げられたのは、久々のことだった。幼い頃は、柊葉が何か失敗する度に殴られていたものだけれど、中学に上がった頃にはそうならないよう立ち回る術を身に着けていたから。
痛みよりも、強い嫌悪が背筋を走った。濡れた跡は赤く染まっているだろうか。周囲に分からなければ良いけれど――特に母に見つかれば、詳しく話を聞かれた後に柊葉を責めて泣くだろうから。
そっと俯き目を伏せ、申し訳ありません、と掠れた声で告げる。今の柊葉に出来るのは、それだけだった。
その態度に満足したのか、それとも警告という目的は達したからだろうか。
次にそんな態度を取ったら承知しない、とだけ告げると、父は部屋を出ていった。
乱暴に扉が閉まる音が響く。嫌悪感が迫り上がった。収まることのない吐き気が込み上げる。
柊葉の人生は、きっと一生縛られたままなのだ。逃げることの出来ない枷に囚われて、逃げ出せない。
僅かに隙間が開いたままとなっていた扉を閉めようと、ドアノブに手を触れさせる。
怖いくらいに震える指先で、力の入らない右手で、扉を閉じた途端。
歪んだ視界が狭まり、真っ黒に染め上げられた。身体を支えていた力が抜け落ちる。
そのまま柊葉は、膝をついてその場に崩れ落ちた。
柊葉を吊り下げていた糸が唐突に切れたかのような、自分の身体が誰かに乗っ取られていくかのような錯覚。
自分の意志で自身の身体を制御出来ない恐怖に包まれる。
「……せつ、な」
意識が途切れる寸前。無意識のうちに、か細い声でそう呟いていた。
神様に救いを求める信徒のように、縋るように名前を呼んでいた。
薄れゆく意識の中で理解する。柊葉にとっての刹那はきっと「救い」なのだ。
枷を嵌められ逃げられない柊葉が、唯一救いを求められる場所。
何も知らない人々が神様に願い、縋るのと同じように、柊葉も刹那に縋っている。
柊葉を救えるのは刹那だけだ、なんていう傲慢な感情を彼女に押し付けている。
だからきっと、誰かを犠牲にするなんていう間違った彼女の思想を止められないのだろう。
心の奥底で、刹那に救われたがっているから。彼女の思想に巣食われたがっているから。
だから柊葉は、こんなにも弱くなってしまった。垂らされた細い蜘蛛の糸に、希望を見出してしまったから。
たすけて。
発しようとしたその言葉は、声にはならずに。
先に、柊葉の意識が闇に飲み込まれた。
気が付くと、星空の下にいた。
眩しいくらいに閉じた瞼を刺す星灯りに、ゆるりと瞳を開く。
暗闇の中で救いを求めた先の、淡い紫の瞳はそこにはなくて。
柊葉のすぐ隣で、黒髪を切り揃えた一人の少女――叶夜が星空の下に佇んでいた。
他人と関わるのが怖い。息を吸うことすらも苦しくて仕方ない。そう思っているはずなのに、他人を認識した柊葉の口角は反射的に上げられる。
作り上げたのはきっと、酷く不格好な笑み。気持ち悪いな、なんて人に指摘されるまでもなく思う。
叶夜の視線が、こちらに向いた。端正なその顔が、僅かに歪められる。星空を映す澄んだ青い瞳は、まるで硝子玉のようだった。
無感情に柊葉を見つめる一対の青が何を思ったかは分からない。
叶夜は他人が考えていることをある程度読み取れるのだ、と刹那は言っていた。ならば、こんな風に表情を取り繕ったってきっと無駄なのだろう。柊葉の抱える不安も恐怖も、全て見透かされているのだろう。
そう思うと居心地が悪くて、この場から逃げ去りたい衝動に駆られた。
普段の柊葉なら、絶対にそんなことは思わない。誰かに悪印象を持たれれば、それが巡り巡って家の不利益に繋がるかもしれないからだ。学校で必死に笑顔を作っているのも、人当たりの良い人間を演じているのもそのためだった。
だけど、叶夜は違う。彼女に対しては、どれだけ隠そうとしたところで無駄なのだ。どういうわけか彼女は他人の心が読めるらしい、と刹那に告げられた。信じられない話だが、刹那の思考を読み切るなんて常人に出来ることではない。
刹那が千歳を間接的に殺したことを理解出来るのは、その考えを導くための情報を与えられているのは、柊葉だけなのだから。
柊葉は、刹那を裏切れない。いつの日かに放たれた言葉を思い出す。あの頃からずっと、柊葉の感情は見透かされたままなのだろうか。柊葉が答えを見つける前に、刹那はとっくに感情の名前に辿り着いていたのだろうか。
柊葉が刹那を裏切らない以上、考えられる選択肢は少ない。柊葉には想像も出来ないが、何らかの手段で叶夜の異常性を探り当てたのだろう。刹那は、確かな根拠のないことを言う人間ではない。
刹那の推論が正しければ、叶夜を誤魔化すことはどうしたって出来ない。心の奥底に隠して蓋をしたはずの感情も、全て見透かされてしまう。
自分の抱える感情を誤魔化しきれない相手と出会うのは、二度目だった。
「……どうして、刹那さんと行動しているんですか」
星空の下に響いたのは、そんな澄んだ声。まだ少し幼さを残したその声には、確かな怒りが滲んでいる。
目の前の星巫女が発したものだ、と認識するのには数秒の時間を要した。叶夜から話しかけられるだなんて、思ってもいなかったから。
普段の彼女は、他の星巫女との関わりを極力避けて過ごしている。乙女座の星巫女である琉歌とは、近頃よく一緒にいるところを見かけるようにはなったけれど、依然としてそれ以外の星巫女には視線すらも向けていない。
その上、千歳の死の原因を追及された日から叶夜は刹那に対して敵意を向けるようになった。刹那が目的のためなら犠牲を出すのを厭わないことに気付いた上で、刹那を糾弾している。
刹那と行動を共にする柊葉も、憎悪の対象なのだろう。柊葉が何を思っていようが、共犯者であることに変わりはない。
だから柊葉に向けて言葉を発するなんて、想像の範疇外だった。
どうして、刹那と行動しているのか。
柊葉に向けられた尖った声に、先程聞いた父の声が耳元でフラッシュバックする。
少女の声が、聞き慣れた低い声と記憶の中で混じり合う。歯の根が噛み合わなくなる。指先が震えるのを感じて、咄嗟に強く握りしめた。
空気の塊が喉元で引っ掛かっているかのように、上手く声が出てくれない。返事をすることが出来ず、咄嗟に困った顔をして微笑んだ。射貫くような青と目が合わさる。
叶夜自身も、反射的に口から出た言葉だったのだろうか、それとも柊葉がこんな反応をするとは思ってもいなかったのだろうか。
ばつが悪そうに、叶夜の瞳が逸らされた。忘れてください、なんて言葉と共に足音が遠ざかる。
どうして、刹那と一緒にいるのか。
柊葉に今それを尋ねたのは何故なのだろう。叶夜は、二人にとってお互いがどんな存在だと思っているのだろう。
刹那と柊葉の関係は、対等なものではない。柊葉が協力することを望んだのは、刹那自身だ。柊葉が彼女にとって、利用出来る立場にあるから。
刹那が柊葉を必要としなくなれば、簡単に切り捨てられるのだろう。縋ることすらも許されずに。
そう知っていながらも、柊葉は刹那を拒まない。自分でも分からなかったその理由が、今なら分かる気がする。
きっとただ、救われていたいから。
理由なんて、それだけだった。
𝕋𝕠 𝕓𝕖 ℂ𝕠𝕟𝕥𝕚𝕟𝕦𝕖𝕕...
₊*̥┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈☪︎₊*˚
✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
☔…無感情だった日々は死ぬんだ
演劇なんかにのめり込んだ
⚡視聴率の取れない感情は
死んだ方がマシだって思うさ
☔栄養失調みたいな感じ
金にならない呪われた数字
⚡痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、
もうヤダ 声も出さずに叫ぶ
☔⚡… wow oh …
☔大好きな人間風情になりたくて
ダサい言葉で近づけど、
擦り減らすだけ
☔⚡… wow oh …
⚡今日の昼食だって戻しそうなんだ
⚡フラッシュバック、☔千切れ飛ぶ
⚡君の肺に籠る
☔⚡あわよくばきみの眷属になりたいな
冒涜的な僕ら、居場所なんかない
☔「智慧の実を食べたから?」
「何故か胸が痛い」
⚡「僕は何もいらないよ」 yeah …
☔⚡あわよくばきみの眷属になりたいな
冒涜的な僕に救いなんかない
「持て余す時間、全て」
「君にあげるよ」
「僕は何もいらないよ」
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♉︎Taurus #星巫女_叶夜
☔️叶夜(cv.碧海)
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♌︎Leo #星巫女_柊葉
⚡️柊葉(cv.希咲妃)
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₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴留々紺様
https://nana-music.com/sounds/04b3e312
✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
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