この身に瞬く星を
Trickstar
この身に瞬く星を
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「…あらぁ…ジーグ以外に『うそぉ』って思うお客様が来るなんてねぇ…一応、夜はメンズサロンなんだけど…」
暗闇に銀灰の輝き…星と共にチラチラと光を反射する。
「元々サロンに来るのが恥ずかしい男性の為に夜開店にしたと思えば…貴女がこの時間に来るのもおかしくないのかもね」
銀灰の光は一歩前に踏み出しサロンの中へ。サロン内の光に照らされて佇んでいたのは鳩の翼。
「…別に、体は女ってだけだ。メンズでも昼の時間でも僕は構わない。でも…確かに化粧をする姿は人に見られたくない…」
普段は無表情で飄々としているステラが珍しく顔を背けてバツの悪そうな顔をしている。ヤミィはふむ…と一息吐き出して、疑問を投げかけた。
「美しさへの渇望って誰にでもあると思うのよ!誰しも!!人は2種類いて、それを素直に自覚してるか、何らかの理由で見ないふりしてるか…その二通りだと私は思ってるのよね。ステラ…」
腕を組み、片腕は自身の顎を支えている。スラリと伸びる金髪のエルフが、何かを考えて佇む姿はそれだけで絵になるとステラは思った。
「貴女は後者だと思ってたわ。仕事の為とはいえ徹夜続きでくまの浮いた目。せっかくの美しい鳩の髪も自由に伸ばしたまま…私と違って中性ではないのに…女性らしく、美しくって姿を否定してるようで…」
「研究に不必要だからな」
…被せるように答えるステラ。予測はしていたが、その回答にヤミィは頭を抱えた。
「…だが…」
小さな声でステラは続けた。言葉が続くと思わなかったヤミィは顔を上げる。
「…だが…星の瞬きを見る度に…星座の美しい世界を知る度に…レンズに写った自分の姿が悲しくなるんだ。手の届かない高い空でキラキラ輝いている星を追う度に…大地に這い蹲る鳩なのではと思うと…悲しくなるんだ」
日をあまり浴びていない透き通る白の肌に、光が当たる度に緑に輝く銀の羽や髪…悲しく俯くその姿は、ヤミィですら息を飲むほど美しかった。
「僕の兄弟は男ばかりだった。だから、やっと生まれた僕は祝福されたよ。でも、時に祝福は鎖にもなるんだ…。女らしく、お淑やかで品高く。花に裁縫、料理…。勉学は兄弟の物だと遠ざけられた。特に母と祖母が酷くてね。そんな僕に星の絵本を兄弟は見せてくれた。星に魅入られた僕に父は望遠鏡を買い与えてくれた。母に望遠鏡が見つかってしまった日は家族で喧嘩になって、僕は屋根裏で泣いていたんだ」
虚ろな瞳でステラは淡々と語り出す。大きな瞳に赤と金が混ざる…鳥の目に銀のまつ毛。
「確かに君が言うように、僕は美しさを否定してきた。女らしく美しく…母が僕に求めたものだ。今でもやはり…それは自分らしくないと思う。でも、それではダメな気がするんだ。星の瞬き…今の僕は憧れからどんどん離れているようで…僕はどこかで道を誤った気がするんだ」
ステラは目を閉じると、今度は力強くヤミィを見詰めた。
「僕が間違ってしまった…失った僕の輝きを取り戻して欲しい…!僕には残念ながら取り戻すすべがない。だから…頼みたい」
真剣なステラの眼差しに星が光っているように見えた。ヤミィは言葉を重ねることなく、力強く頷いて一言
「任せなさい!」
「まずは今まで蓄積しちゃったくすみを落とすわよ!!泣き言は許さないんだからね!!」
いだだだ!!押し殺すような小声で悲鳴を上げるステラに、オイルを塗った手でフェイスマッサージを施すヤミィ。研究の為に無理をしてきたのだろうか、マッサージする度に悲鳴と足をばたつかせる音がする。
「んもー!仕事とはわかるけど、徹夜って美容の大敵なの!後、目を酷使してるんだから!疲れが顔に出るの、お分かり!?」
わか…わ…あだだだ!分かったと言いたいようだが、痛みで上手く話せない。
マッサージが終わってもメイクはまだ先。ハーブが沢山入った容器にお湯を流し込み、泪石を浮かべる。蒸気がトロリと上がり出す。ヤミィはタオルを手渡し顔や首を蒸気に当てていく。白い肌がほんのり赤みがかる。
「リラックスできた?」
「…ああ、まるで鎧を脱いだかのようだ…そろそろメイクなのか?」
「ナンセンス!アンタの鎧はこんなもんじゃないわよ!」
今度は蒸しタオルを直接顔に乗せて、水晶の音叉で音を立てる。視界が奪われ、音叉の音だけが響く…まるで体が宇宙に浮いているかのような感覚…ああ、今なら手が届かなかった星に触れられそうだ。
「最後に丁寧な洗顔よ!」
世界樹の霊水にソープリーフを沈めて丁寧に泡立てる。泡だけで顔を洗う。手を触れていないのに、泡の上から細部へしっかりと洗っていく手の動きが伝わった。洗い流して、しっかりと保湿。
「最後に髪と翼の汚れを落として…どう?」
ステラは思わず声が漏れた。鏡に天使がうつっていると本当に思った。鳥人本来の美しさ…いや、これが自分の本来の美しさ。
「お化粧してないのよ?狡いわよねぇ…でも、女らしく、美しく!…じゃないでしょ?私はただ、まっさらにしただけ。貴女の中には宇宙と同じぐらい無限の星があるのよ?後はその中で自分だけの星座を作っていけばいい。どう美しくするかの方法は教えてあげる」
最後に一つだけ、流星の尾をまつ毛に散らす。
「でも、『自分だけの星座』は貴女が見つけなさいね。貴女だけの…美しさを」
ステラは最後、日頃のケアを徹底的に叩き込まれた。
「ケア商品はオマケよ☆これからも美しさを投げ出さないでね」
ステラはありがとうと一言だけ言って去っていったが、その顔は星に負けぬ煌めきがあった。
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ヤミィは水のマナを手に入れた
ステラは土のマナを手に入れた
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