SS・クリスマスプレゼント
「なあラミアさん」
「んだよ」
「今日、クリスマスイブじゃん」
久しぶりの休みなのに、いつも通りごろごろしながらスマホを見ているラミアさんにちょっと拗ねながら声をかけた。
「おー」
「気ィ抜けた返事だなおい。なんかさあ、もっと、こう、あるだろ」
「メリークリスマス?」
「それはそうなんだけど!あーもう」
情緒もへったくれもない旦那さんの後ろに回ってぎゅっと抱きついてみる。一緒に暮らすようになってから抱きつき慣れされたのか、全然様子が変わらない。俺はついこの間まで関西の方に行ってたし、今だってほぼ毎日舞台の公演があるからほとんど寝顔くらいしか見れてなくてラミアさん不足なのに。
「恋人っぽいことしたいよ」
「もう結婚してんじゃん」
「それはそれ、これはこれ」
「ガキかよ」
でっかい背中に顔を埋めると、くすくすと笑われる。普段ガキより酷い言動するくせに、こういう時ばっかり大人の顔をしてずるい。
「ガキでいいからクリスマスプレゼントちょうだい」
「何が欲しい?」
「ラミアさん」
「ふは。もうお前のだっつの」
「知ってるけど……」
頭をぐりぐり押し付けると、ラミアさんはスマホを置いてこっちに向き直った。前髪がかかって半分見えない顔をそっと近づけて、触れるだけのキスを落とされる。その仕草が優しすぎて、この優しさが別の誰かに向くことが怖かった。
「なあ、ちょっとだけ縛ってもいい?」
「SMプレイでもすんの?」
「そんなんじゃなくて、ラミアさんは俺のだって自覚するためにさ」
骨ばった指の長い左手を取って、ポケットから取り出したものをそっと、その薬指の付け根に嵌める。蛇のモチーフのシルバーリング。それをまじまじと見たラミアさんは、俺の左手にふと目をやった。そこにはまだ何もない。
「お前のはないの?」
「あるけど、あんたに嵌めてほしかったから」
ポケットからもう一個取り出して、ラミアさんに渡す。それにゆっくり指を通されて、付け根に辿り着いたと同時に指輪の上からキスを落とされた。
「蛇モチーフだと、俺がお前のなんじゃなくてお前が俺のって感じ」
「じゃあ俺がラミアさんへのクリスマスプレゼントってことで」
「もうめちゃくちゃ貰ってんだよな。でも悪くねぇかも」
意地悪じゃない笑顔が引き出せたのが嬉しくて、首を伸ばして頬に口付けた。
「指見る度に俺のこと思い出してね」
「……なんか今日かわいーじゃん」
「かっこいいって言ってくれよ」
「はいはい俺の嫁イケメン」
この指輪ひとつで少しでも強く幸せな日常が繋ぎ止められたならどんなにいいかな。指輪に頼らないと旦那ひとり捕まえておけないのも情けないけど、その気持ちは一旦しまっておいてぎゅうっと胴体に抱きつく。左手が背中に回ってきてぽんぽんと叩かれたから、もしかしたら察されてるんじゃないかと思ってしまう。
俺はラミアさんとなら何だってしたいよ。恋人っぽくもクリスマスっぽくもなくても、いつだって何だって、隣にあんたがいればいいんだから。
そんな心の内を乗せて、今度はちゃんと唇にキスをした。
Comment
No Comments Yet.