【朗読】群青に染めた
演奏:rito 様 文章・声:蒼
【朗読】群青に染めた
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青い丘の上には小さな家があるーー。
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一瞬を重ねることが日々となることに、ぼくたちは気付かないでいたいのかもしれなかった。割れたグラスが戻ることはないように、かえらない刹那を思うことがどれほどの痛みをともなうものか、永い眠りにつくころに、ようやく知ることができるだろう。
白い砂の上を歩いたとして、波にさらわれた足跡はやがては消えてしまうものだね。それでも記憶は残り続ける。ふたたびを願う歌が響いて、丘の向うへと届くはずだよ。そうして集めた標をたよりに、いつかどこかへ水は流れる。
永遠にひとしい一瞬を生きる僕らには、儚い光さえ過去を映している。青いゆるしの花の咲く夜に戻らない刹那を想う。星が流れた空には、行く宛のない残光が遠くきらめいて、てのひらを透過するには淡すぎる。
祈りを言葉にすることができないのなら、流れる旋律、美しい景色、茫洋とした存在に、その片鱗を見出せるはずだった。震えるような硝子細工に息をふきこんで、僕ら、ふたりの箱庭に生きていよう。
『〈新装版〉群青に染めた』より
#蒼の朗読 #rito #P84
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