レントリリー
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
レントリリー
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__𝕀'𝕝𝕝 𝕤𝕙𝕠𝕨 𝕪𝕠𝕦 𝕒 𝕓𝕣𝕚𝕘𝕙𝕥 𝕤𝕞𝕚𝕝𝕖 𝕒𝕥 ℝ𝕖𝕢𝕦𝕚𝕖𝕞.✩₊*˚
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目が覚めると、灯莉は独り、冷たい部屋の布団に蹲っていた。
星天界で儀式を行って、そのまま意識を失っていたらしい。
雨戸の閉め切った部屋、埃っぽい匂い。澱んだ空気に咳き込むと、喉がツンと痛んだ。涙の感触。気付かないうちに、泣いていたらしい。
丈の余った袖で目元を拭い、まだぼやけたままの視界で部屋を眺める。
小さな窓から射し込む灯りは茜色で、知らない間に夕方になってしまっていたことを示していた。
半日以上、この薄暗い部屋で眠っていたらしい。星巫女は、星巫女でいる間は睡眠を必要としないはずなのに。半日も眠ったまま目覚めないなんて、明らかに異常だ。
おかしいといえば、昨夜一人で召喚されたこともそうだった。誰もいない星天界を訪れるのも、儀式を一人で行うのも、星巫女になってから初めてのことだった。
本来複数人で分け合うはずの負担を一手に引き受けたことで、疲れてしまったのだろう。
全身の倦怠感が酷く、頭痛も治るどころか明らかに悪化している。
これ以上酷くなることがあるのだろうか、とぼんやりした頭で考え、きっとあるのだろう、想像もつかないけれど、と自答した。
必要ないはずの睡眠に時間を無駄にしてしまったことを悔やみつつも、もう少しだけ休んでいたいと思い。
その思考は、壁に掛かった振り子時計に阻まれた。間伸びした音が、四度頭上で鳴る。午後四時。病院に行くのであれば、そろそろ家を出なければ間に合わないような時間だった。
ぼんやりした鐘の音が、痛みを訴える脳に響いて気持ち悪い。ふらつきながら立ち上がり、服についた埃を軽く手で払った。そろそろ掃除しなければな、なんて場違いなことを考える。
駅一つ分の距離を、これから歩かなければならない。今にも崩れ落ちてしまいそうな身体のままで。
それでも、灯莉は動きを止めなかった。
病院へ、いかなければ。お母さんに、謝らなければ。
その想いだけが。今の灯莉を動かしていた。
緩慢な動作で立ち上がり、灯莉は机上に置かれた鍵を手に取った。
机に置かれたままの、失敗した水仙の紙飾りが、音もなく床へと落下した。
病院の外装というのは、どうにも威圧感を感じてならないと思うのは灯莉だけだろうか。
自分が小さくなってしまったかのような錯覚。きっと今の灯莉を縮こまらせているのは、積もりに積もった罪悪感や不安でいっぱいの、自身の心なのだろうけれど。
網目の入った窓ガラスに映った自分は、今にも泣き出してしまいそうな顔をしていた。
いつもと変わらない、透明な自動ドア。黒いボタンを押す手が、一瞬動きを止めた。
昨日の光景が脳裏を過って、心臓がぎゅっと締め付けられた。無自覚の内に力の入っていた両手をそっと開き、深呼吸する。
ゆっくりと瞬きをして、灯莉は静かに病院へと足を踏み入れた。
染み一つない、真っ白な壁。真っ先に清潔感を連想させるその光景が、どこか落ち着かなく感じられる。
幾度となく通った廊下のはずなのに、知らない場所に来てしまったみたいだった。
誰かの病室の前を通り過ぎる。頭痛すら気にならなくなるくらいの、罪悪感の塊が胸を塞いだ。
普段の半分の量で呼吸をしているみたいに、酸素が取り込めない気がする。浅い呼吸で息を繋ぎ、見慣れたエレベーターへと進んだ。
2階、3階、4階。オレンジ色のランプが明滅し、灯莉を目的地へと運んでいく。
夕焼けの橙色は、あんなに暖かく感じられるのに、どうしてこのオレンジ色には冷たさを覚えるのだろう。吸い込んだ空気は、冷たく乾いていた。
4階です、機械で合成された声が告げ、扉が開く。白に反射した明かりが眩しくて、思わず目を細めた。
誰もいない、ただひたすらに静寂の色。
灯莉のスリッパが床を鳴らす、ぺたぺたという音だけが響いた。
奥へ奥へと廊下を進み、光の薄まった角を曲がる。
そこは普段よりもずっと静かで、違和感を覚えた。違和感というよりも、不安と言う方が正しいか。ぎゅっと押し込めた不安の塊が、瞬く間に膨らんで灯莉を覆っていく。
少し早足で、真っ直ぐにお母さんのいる病室を目指した。銀色の、重く冷たい扉を、震える手で開ける。
そこには、誰もいなかった。
誰もいない。人の気配がしない。
部屋を間違えたのかと思うも、確かにそこはお母さんの入院していた部屋で。
嫌な予感がした。膨らみ始めた不安が、今にも弾けそうになる。耐え切れずに涙が込み上げて、だけど泣いてしまえば嫌な予感が本当になってしまいそうで。
振り払うように首を振った。きっと、退院の準備をしているだけだ。良くなってきている、と看護師さんも伝えてくれていた。だから、大丈夫だ。
辛うじて繋いでいた浅い呼吸が、途切れ途切れになっていく。上手く息が吸えなくて、その場にへたりこんだ。
手のひらの触れた床は、星天界と同じ温度がした。
扉が開けられたのは、突然のことだった。
病室に独り残されて、世界から切り離されたような感覚がしていて。
その切り離された世界に、人が入ってきた。灯莉に、何かを伝えるために。
顔見知りの看護師さんが、灯莉の方へと駆け寄ってきた。血相を変えた顔で、痛ましさを滲ませて。
「灯莉ちゃん、来ていたのね。今から、連絡しようと思っていたの。落ち着いて、話を聞いてね」
ぐにゃり、と視界が歪んだ。泣かないでいようと思っていたのに、身体が震えて涙が勝手に零れ落ちていく。
嫌だ。こわい。何も言わないで欲しい。何も聞きたくない。心の奥底では、分かっているから。
なんで。どうして。何をしたっていうの。だって、そんな。
思考回路が焼き切れて、ぐちゃぐちゃになっていく。歪む視界と一緒に、溶けて滲んで輪郭を失くしていく。
「お母さんが、先程、亡くなられたの」
世界が、音を立てて崩れ落ちた。
𝕋𝕠 𝕓𝕖 ℂ𝕠𝕟𝕥𝕚𝕟𝕦𝕖𝕕...
₊*̥┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈☪︎₊*˚
✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
暗い病棟 繋がれた糸
多量の白のメンタルで まだ
未完成な人生を歩む気でいる
「不甲斐ない」なんて誰かが言う
壊れている心で歌おう
レクイエムくらいは 明るい笑顔を
見せてあげるよ
知らない 知らない言葉さえも
君から聞いたみたいになって
怖い 怖い 怖い 伝わるのは不安の心
吸えない 吸えない煙になって
枯れない 枯れない花にもなって
それでもまだ 君だけは見てくれた
寂しくなるのはなんでかな
泣きたくなるのはなんでかな
消えたいと願ったら
私は何故か泣いてしまった
そばに君がいるときだけは
嬉しくなるのはなんでかな
わからないけど それは
きっと素敵なことでしょう?
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♑︎Capricorn #星巫女_灯莉
🎈灯莉(cv.瑠莉)
https://nana-music.com/users/6276530
₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴おとの。様
https://nana-music.com/sounds/06133d91
✯𝕚𝕝𝕝𝕦𝕤𝕥𝕣𝕒𝕥𝕚𝕠𝕟✯
イラスト:蓬様 @yomogi_nana_
動画編集:ちゃくろ様 @chankuron_MMd
✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
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