来る晩秋の祭に
nazna
来る晩秋の祭に
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ドキドキしながらいつもの世界樹の高台へと歩を進める細い足。ふぅ…と息を吐き汗を拭う、額の下には光る丸眼鏡。約束の時間が近づく。ニフはひと踏ん張りと、根が作りだした自然の階段を必死に登る。
冷たい秋風は少しずつ冬の面影を表してきた。手袋をつけるべきだったかと後悔させる冷たい空気。すっかり世界樹の森は秋の眷属により彩られていた。赤、黄、茶…疲れたニフの目を楽しませている。森の紅葉の中で最も美しい発色を放つ精霊の地、世界樹の高台に辿り着く。
『呼びたてに応じてくれた事、感謝する…』
頭に直接響く声ともに激しい木枯らしと舞い飛ぶ落ち葉達。その中に一枚の輝く銀杏が舞い降りる。その葉は風に舞ってひらめくと同時に形を変え、小さな耳とフサフサの栗鼠の尾をたずさえた精霊に姿を変えた。その顔は凛と鋭く、長く揺らめく髪は赤から橙、そして黄色へと目まぐるしく色を変えていた。
「忙しいだろう最中、約束を守ってくれたのだな…」
「いえ、お気になさらず。お話とはなんでしょうか?」
秋の精霊は衣装をひと撫でし、静かに目を閉じた。
「我等に使命がある様に、我等に営みがある様に…ゲヘナの世界にはそれぞれの命の使命と営みがある。秋の眷属は世界の歯車の中の秋の世界を動かす。夏より世界を受け取り、冬へと無事に明け渡す…。木枯らしの儀式も、我が神格も、その全ても…。民もそうだろう?理事会員。お前も制服を纏い、書にペンを走らせ、我等神の意や他国と均衡をはかりより良い生活を導く。いつも祭りに菓子を振る舞うエルフは白の衣を纏い、あらゆる食材を己の腕と知で高みへと構築し、皆に届けては生命の糧とする。我等は…」
目を見開くとニフを見据える。その瞳はこの世の者ではない事を自覚させる程に美しい…。
「我等は、そして主は興味がある。民の宿命を、業を、営みを…。秋の祭は仮装を施し、我等の実りを感謝するのも一つの面である。ならば…」
確かにハロウィンは皆、魔族や神々、精霊の姿に変装して秋の主に感謝を捧げていた。その事を言っているのだろう。それに対して、精霊は何か考えがあるようだ。
「ならば、今年の祭は皆己の生業の姿で、その技を披露するのは如何か?去年、我等は秋の眷属としてその技を一つ披露した。今度は民の番…というのは我儘だろうか?」
生真面目な秋の眷属、表情の少ない精霊の顔が言葉と共に傾げた。
精霊の話を要約するとこうだ。精霊という立場故に、彼ら眷属や主はヒューマノイドの生活を詳しく知らない。神々と人とを繋げる精霊の計らいで、今年の仮装は自身の仕事をする時の服装で、その仕事の技を披露して欲しいというもの。ニフはむむっと考えた。簡単な話ではない…祭の日はスイーツラボと一部の関係者以外は休みの扱いだ。それを仕事する体制に整えろと頼む事になる…しかし…
「…面白そう…ですね。キリエは商業の街…多種多様の店がしひめく街…皆が技を見せつけるタイミングなんて、なかなかないですから…私も見てみたいです…!」
まだ精霊とニフだけの話、見切り発車するには危険もあるが…ニフは話をしてきます!と胸を叩くと、走ってキリエと帰っていった…。
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イベントクエストが発生します。
発令まで、しばしお待ち下さい…
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