フラジール
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
フラジール
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__ℂ𝕝𝕠𝕤𝕖 𝕞𝕪 𝕖𝕪𝕖𝕤 𝕥𝕚𝕘𝕙𝕥𝕝𝕪 𝕚𝕟 𝕗𝕣𝕚𝕔𝕥𝕚𝕠𝕟.✩₊*˚
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星天界に召喚されて、まず目に飛び込んできたのは淡い星空だった。
心許ない光だけが映る、秋の星空。今にも消えてしまいそうな光に、馬鹿みたいな感傷が頭をもたげる。
柊葉も、いっそ消えてしまえれば、少しは楽になれるのだろうか。咲羽のように、千歳のように、死ぬのではなくて。誰にも迷惑をかけないような、痛みすらも感じないような。そんな風にふと消えてしまえれば、どれだけ良いだろうか。
なんとなく瞬く星々を見ていたくなくて、柊葉はそっと瞼を落とした。
「柊葉」
芯の通った低い声に、後ろから声をかけられる。条件反射のように身が竦み、それが悟られないように、とそっと振り返った。こちらを見据えた淡い薄紫に安堵し、貼り付けた笑みを解く。
刹那と会うのは、いつ以来だろうか。数日前、「千歳が死んだ」とメールで――協力する、と言った日に連絡先は交換してあった――知らされた。詳細は会った時に話す、と告げられ、それ以上の情報が与えられなかった。
ただ召喚を待つことしか出来ない自分をもどかしく思いつつも、結局問い返すようなメールは送れずじまいだった。
メールで詳細を話さない理由は分かっている。いつ、誰に見られてもおかしくないからだ。柊葉の父親や他の中央政府の人間に情報が漏れるのを、刹那は極度に恐れている。
星天界でなら、その心配はない。星巫女以外の立ち入りが許されない空間では、何を話そうが絶対に大人達に知られる心配はなかった。
二人の星巫女が死んでしまったというのに、刹那は出会った日から全く変わる様子がない。恐怖も、怒りも、悲しみも。相対した刹那からは何も感じられない。ただ淡々と、感情を動かすことなくそこにいる。
「祈鈴――牡羊座の星巫女に、千歳の死について話を聞いた」
開口一番、刹那はそう告げた。
牡羊座の祈鈴。人の顔色を常に窺っているような、気弱で臆病そうな少女。
彼女は千歳が死んだ日、一緒に星天界に召喚されていたらしい。
初めに死んだ星巫女である咲羽と、最も交流があったのは彼女だったというのに。抱え込んだ悲しみを想像するだけで、言葉にし難いものがあった。
だというのに、刹那は彼女にその時の話を聞いたのだという。
目的のためなら手段を選ばないことは以前から知っていたが、それにしたって惨い。
咲羽が死んだ日の、彼女の様子が思い出される。あれほど他人の機嫌を窺って過ごしていた彼女が、周囲を憚ることなく慟哭していた。誰も声をかけられないほどに、ただひたすらに泣いていた。
咲羽が死んだ傷だって、まだ癒えていないだろうに。
仕方がない、それは分かっていた。死者を悼むことより、遺された少女を気遣うことより、これ以上犠牲を増やさないことの方がずっとずっと大切なのだから。
感情の一切感じられない声で、刹那の話は続く。
「千歳は、心鍵を捨てた状態で歌ったらしい」
――どうして?
まず湧いたのは、そんな疑問だった。
心鍵は、星巫女でいるために絶対に必要なものだ。
星巫女の魂が、神様と混じり合って封じられているものだ。そう聞かされていたから。
「星巫女でいるために必要なのが心鍵ならば、それを捨てれば星巫女でなくなるかもしれない、と考えたのだろう」
結果的には命を落としたわけだが。こともなげに、彼女はそう言い放った。彼女の死を悼んでいるようにはとても見えなかった。
彼女の死から分かるのは、心鍵を捨てれば星巫女でなくなって死ぬ、ということだ。星巫女でなければ生きる価値がない、星巫女としてでしか存在価値がない、とでも言われているようでやるせなくなる。
魂が封じられているのなら、命を落とすのは当然だ。彼女は、そう考えなかったのだろうか――そこまで思い、その情報が自分と刹那以外に知らされていなかったことに気付いた。
伝えていれば、彼女はこんな無謀な行動に出なかったのかもしれない。ならば、間接的に千歳を殺したのは柊葉と刹那、ということになる。視界が歪むような衝撃があった。今更気付いたところで、今更悔やんだところで、失われた命は還らない。
柊葉は、一人の少女を殺してしまったのだ。
頭がガンガンと揺れ、息を吸うのが難しくなる。極度のストレスで、星巫女は精神・身体共に不安定になりやすい、と言っていた――刹那が。
彼女は与えるべき情報は他の星巫女とも共有しているはずだ。
この情報操作は、意図的なものなのか?ならば、どうして柊葉には教えてくれた?何も分からない。
暗闇に飲み込まれそうな意識を引き戻したのは、どこまでも冷静な刹那の言葉だった。
「千歳の遺体は、藍空が運んでくれたらしい」
以前星天界で会った星巫女の、激昂した月色の瞳が目に浮かぶ。彼女は、霊安室の存在を知っている星巫女の一人だ。となると、あの冷たい空間に千歳は眠っているのだろう。
「だとすると、おかしい所がある」
答えろ、とでも言いたげに、刹那が柊葉の方に視線を寄越した。おかしい所?祈鈴が、死体を運ばなかったことだろうか?
否、彼女はおそらく霊安室の存在を知らないはずだ。知っていたとしても、千歳の遺体を抱えて運べるような精神状態ではなかっただろう。だとすると、何だ?
地下に眠る、閉じられた扉が目に浮かぶ。扉を開けるためには、確か心鍵が必要で――そこまで考えて、はっとした。
「心鍵は、捨てられたはず……」
口から漏れたのは、呟くような微かな声だった。そんな声でも刹那の耳には届いたらしく、肯定するように頷かれる。
「心鍵を捨てた、というのなら、おそらく確実な場所――恐らくは此処、儀式場から外へと投げられたはずだ。此処から外に出る手段はない、つまり投げ出したものを回収することは不可能。だが、蠍座の心鍵は確かに霊安室の扉に嵌められていた」
だとすると、心鍵が捨てられていなかったのか?刹那は続けた。
「心鍵がきちんと捨てられていなかったのだとしたら、千歳が死ぬ理由が無い。咲羽と似た理由で倒れたことも考えられなくはないが、だとしたら祈鈴があれほど心鍵に拘る理由がない。つまり、心鍵は一度千歳の元から離れ、彼女が命を落とした上で星天界に返ってきた、と考えるのが最も自然だろう。恐らくは、心鍵を身体から離す行為が星巫女にとってタブーなんだ」
首元に吊り下げた深緑の心鍵を掲げ、刹那は告げた。
「そのタブーに触れた星巫女は、星巫女でいられなくなり命を落とす。ある程度予想出来ていたことだったが、やはり星巫女は――」
バタン、と。後ろで、大きな音がした。
反射的に振り返ると、儀式場と階下を繋げる扉が開け放たれていた。刹那の瞳が、一瞬僅かに見開かれる。
他にも召喚された星巫女がいたのか。この時間になって儀式場に現れたところを見るに、今までずっと部屋に閉じこもっていたのだろう。
かつては他の星巫女達と交流していた少女達も、時が経つにつれて単独で行動する者が増えた。情を向ければそれだけ傷付くのだ、と理解したのだろう。死んだのが知らない他人なら、心の傷は浅くて済むはずだから。
濡れた紫の瞳を揺らした、山羊座の星巫女――灯莉が、小さな身体を震わせてそこにいた。
「……それ、本当なんですか」
恐怖と怯えが入り混じった、泣きそうな震え声。どこから聞いていた?そう告げる刹那の声とは、まるで対照的だった。
「心鍵を捨てれば、命を失う、って……本当、なんですか」
嘘だと言って欲しい。今にも泣きだしそうな彼女の言葉には、そんな想いが滲んでいた。
だが無情にも、刹那がその願いを否定する。肯定の意を示す。認めたくない、と拒絶しようとした事実を、躊躇うこと無く突きつける。
ぽろり、と大粒の涙を零し。灯莉は、悲鳴のように叫んだ。
「知っていたなら……千歳さんが死んでしまうのを、止められたんじゃないですかっ……!!」
心臓を掴まれたかのように、呼吸が止まった。
それは、紛うことなき糾弾だった。断罪だった。
「……伝える手段が無かった。私には、どうすることも出来なかった」
俯き、唇を噛み締め、刹那は告げた。
星天界がどういう仕組みで機能しているのか分からない以上、彼女に情報を伝える手段が無いのだ、と。
千歳がそんな行動に出るなんて、考えてもいなかったのだ、と。
「そう、ですか……」
俯き目を伏せ、灯莉は静かに微笑んだ。
涙が音もなく頬を伝い、胸元の紅いリボンの色を染めていく。
彼女が浮かべたのは、どうしようもないのだ、と悟り諦めた者の笑みだった。
𝕋𝕠 𝕓𝕖 ℂ𝕠𝕟𝕥𝕚𝕟𝕦𝕖𝕕...
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✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
🎈くしゃくしゃになった 診察券を持って
簡単な想像に日々を使っている
⚜️単調な風景に ふと眠くなって
回送列車に 揺られ動いている
⚡看板の証明が 後ろめたくなって
目を落とした先で笑っていた
🎈通りを抜けて 路地裏の方で
屈託もなく笑っていた
⚜️映画の上映は とうに終わっている
⚡叱責の記憶が やけに響くから
🎈できれば遠くに 行かないでくれ
⚡⚜️🎈出来るなら痛くしないで
⚡⚜️🎈構わないで 離れていて
軋轢にぎゅっと目を瞑って
報わないで 話をして
窓越しにじっと目を合わせて
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♌︎Leo #星巫女_柊葉
⚡️柊葉(cv.希咲妃)
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♐︎Sagittarius #星巫女_刹那
⚜️刹那(cv.ハナムラ)
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♑︎Capricorn #星巫女_灯莉
🎈灯莉(cv.瑠莉)
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₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴ はると様
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✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
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