ドーナツホール
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
ドーナツホール
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__𝕀 𝕤𝕥𝕚𝕝𝕝 𝕔𝕒𝕟'𝕥 𝕣𝕖𝕞𝕖𝕞𝕓𝕖𝕣 𝕨𝕙𝕒𝕥 𝕪𝕠𝕦 𝕒𝕣𝕖.✩₊*˚
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今日もまた、夜が訪れて。
藍空は、星天界に召喚された。
人と関わるのが、億劫で仕方なく感じられる。
相も変わらず紅愛との奇妙な共同生活は続いていた。
だけど、咲羽が死んでから、藍空の心にはずっと重石がまとわりついている。
誰のことも、信じたくなくなっていた――否、それは元々なのだけど。
他者の一挙手一投足が、藍空を害そうとしているのではないかと思え、無意味に怯えてしまう。
だから、心を閉ざした。
施設を出て、星巫女になって。少しずつ開きかけていた心を、また、閉ざした。
それで良かった。それで正しかった。
誰かに絆されなければ、誰も信じなければ、自分が傷付かずに済むのだから。
施設を出たところで、施設にいた頃と、何も変わらない。
「捨てられた」という事実と、あの場所での過酷な生活は。
今も鎖のように、藍空を縛り付けている。
星天界に辿り着いた藍空は、真っ先に自室を目指した。
他の星巫女とは、なるべく顔を合わせたくない。
非協力的で傲慢なように思われるだろう。それでも構わなかった。
顔を合わせて、言葉を交わせば、必ずどこかで情が湧いてしまう。
そんなことになって、後悔するのは自分自身だ。なら、初めから関わらなければいい。
行ったことに対する後悔よりも、行わなかったことに対する後悔の方がマシだ――少なくとも、藍空はそう考えている。
「このままでは、やがて死に至ることになるだろう」
どこまでも冷淡だった、刹那の言葉がフラッシュバックする。
星巫女になった以上、絶対に死んでしまうのだ。
ならば、自分が最後まで生き残るためには。誰も信じてはいけない。誰にも縋ってはいけない。
誰かを信じなければ、いつか来る別れに涙することもないのだから。
儀式の時間まで部屋に閉じこもっていようと、自室の扉に手をかけた時。
遠くで、絹を裂くような悲鳴が響き渡った。
この声は――水瓶座の雪涙?
眉をひそめ、閉まりかかっていた扉を再び開け。周囲に人影がないことを確認してから、藍空はそっと部屋を出た。
億劫で仕方が無いけれど、他人の悲鳴を放っておけるほど、他人への感情を割り切れていなかった。
要らないと言いつつも、完全には捨てきれていないのか。
否、放っておいて、後で自分に火の粉が降りかかってくるのが嫌なだけだ。
そんなことを考えながら、藍空は走りにくい靴で硬い床を蹴った。
2階にある儀式場には、青白い月光が降りそそいでいた。
怖いくらいに青白い欠けた月が、冷たい星天界を照らしている。
雪涙の悲鳴を聞いてやってきたのだろう、同時に双子座の璃星と璃月も儀式場に入ってくる。
彼女達の世界は、「二人」と「それ以外」で完結しているのだとばかり思っていたのだが――どうやら、他人の悲鳴を聞いてすぐさま駆けつけるくらいには、こちらの世界とも繋がっていたらしい。
ああ、それともお互いに危害が及ばないように? その方が正解かもしれない。
双子のうちの片方の少女は、苦しそうに肩で息をしていた。どちらが璃星で、どちらが璃月なのか。藍空は知らないし、たとえ知っていたとしてもこの距離では判別できそうになかった。
ドームの中心で、へたり、と座り込んでいるのは。長い水色の髪を持つ少女――雪涙だった。
藍空をここまで招いた悲鳴の主は、どうやら立ち上がれないらしく。藍空達が来たことに、気付いているのかいないのか。ただ独り静かに、肩を震わせて泣いていた。
つかつかと彼女の方へと歩み寄れば、ようやくこちらの存在に気付いたらしく。
涙で濡れしおれた瞳をこちらに向け、口を開閉させるも、漏れるのは嗚咽ばかりで。
一体何を――そう思い視線を下に向け、彼女の涙の理由を悟った。
そこには、一人の少女の死体があった。
丁寧に結われた暖かい茶色の髪。顔色が青白いのは、月光のせいだけではないだろう。長い睫毛が再び震えることはなく、投げ出された手は既に冷たくなっていた。
そっと彼女の右手を取る。冷え切ったその手は、重かった。命の重みではなく、抜け殻の重み。
こんな風になった人間を見るのは、初めてのことではなかった。
おそらく彼女が死んだのは昨夜だろう。
施設にいた頃、幼い子供の死体を運んだことがあった。一度ではなく、年に十数回ほど。
最初に潰えた命に触れた日は、胃の中のものを全て吐き戻したが――慣れというのは恐ろしいもので。
そんなことを十年も続けるうちに、藍空は人の死に慣れてしまった。
だから、確証がないとはいえぼんやりと彼女の死亡推定時刻を導き出せるし、躊躇なく死体に触れられる。
実際に、咲羽が死んだときも、藍空は彼女の死を想って泣いたりはしなかった。
藍空の中にあったのはただ、自分がそうなるかもしれないという恐怖だけ。
明日も未来も保証されない生活なんて、施設にいた頃と何も変わらないというのに、何を怖がっているというのだろう。
自問自答の末、答えは出なかった。理性ではない、曖昧な本能じみた何かのせいなのかもしれない。
初めて星巫女の死を目の当たりにした日は、そんな風に取り乱してしまったけれど。
慣れというのは、恐ろしいもので。
二人目の犠牲者が出た。
その事実は存外、藍空を動揺させなかった。
相も変わらず震えているだけの雪涙と、状況を理解して不安そうに互いの手を握り合う双子。
彼女達を無視して、藍空は立ち上がり――何かが、靴先に触れた。
傍らに落ちていたのは、橙の心鍵だった。既に光は潰えている。
冷たくなった千歳を抱きかかえ、ついでのようにそれを拾い上げた。視線が藍空に集中する。
説明してやる義理はない。言葉を発さずに、何か言いたげだった雪涙を一瞥し、藍空は先程駆け上がった階段をゆっくりと下りた。
星巫女が死んだらどうなるのか。遺体はどこに向かうのか。藍空は既に知っていた。だが、全員が知っているわけではないのだろう。
星天界には、霊安室がある。その事実を、大勢の人に知られたくなかった。
コツ、コツと。静かな世界に、靴音だけが反射する。
以前柊葉に教えられた、霊安室へと続く隠し扉をそっと開いた。
長い階段を一歩一歩、踏みしめるように歩いていく。
人間一人分の重みを抱えているからか、普段より足元が覚束ない。
此処が死者の空間であることを突き付けてくるような、周囲を包む冷たい空気を吸い込んだ。
今までに、何人の星巫女達がこの場所に葬られてきたのだろう。その死体は、今どこにあるのだろう。
先代の星巫女の遺体は、この中には無いはずなのだ。
考えても仕方のないことばかりが浮かぶ。目の前の現実から、少しでも思考を逸らしたいのだろう。
独りの少女の死から思考を逸らすには、両腕に抱えた塊は、あまりにも重かった。
見えない何かに導かれるように、橙色の扉の前に立つ。心鍵と同じ形をした窪みがあった。
拾い上げていた千歳の心鍵をその窪みに嵌めこむと、光を失った橙が淡い輝きを放った。
そのまま扉がゆっくりと開く。心鍵、という名の通り、霊安室の鍵の役割を果たしていたのだろう。
扉の先に置かれていたのは、一つの真っ白な棺だった。抱えていた千歳の遺体を、そっと安置する。
白い棺の中の夜色の衣装に、染みが落ちた。
ぽつ、ぽつと雨のように。止まることなく、水滴が落ちていく。
瞼が熱い。目元を触ると、濡れた感触がする。
泣いているのか? 自分でも分からず、ただ袖で目元を擦った。
千歳のことを、大切に思っていたわけではない。仲が良かったわけでもない。話したことなんて、ほんの数える程度しかなかった。
人の死には慣れている。悲しくなんてなかった。そんな感情は、とっくに慣れて薄れてしまっていた。
そう思っているのに、それは紛れもない事実なのに、それでも涙は止まってくれなかった。
涙すらも凍ってしまいそうな、冷たい世界で。藍空は独り、泣き続けた。
施設にいた頃と、何も変わっていなかった。
命は、ただひたすらに。世界が語るよりもずっと、軽くて脆かった。
𝕋𝕠 𝕓𝕖 ℂ𝕠𝕟𝕥𝕚𝕟𝕦𝕖𝕕...
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✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
❄いつからこんなに大きな思い出せない記憶があったか
⛓どうにも憶えてないのを ひとつ確かに憶えてるんだな
⚖もう一回何回やったって思い出すのはその顔だ
🔗それでもあなたがなんだか思い出せないままでいるんだな
⛓環状線は地球儀を巡り巡って朝日を追うのに
🔗レールの要らない僕らは望み好んで夜を追うんだな
❄もう一回何万回やって思い出すのはその顔だ
⚖瞼に乗った淡い雨 聞こえないまま死んだ暗い声
❄何も知らないままでいるのが
あなたを傷つけてはしないか
⚖それで今も眠れないのを
あなたが知れば笑うだろうか
⛓🔗⚖❄簡単な感情ばっか数えていたら
あなたがくれた体温まで 忘れてしまった
バイバイもう永遠に会えないね
何故かそんな気がするんだ そう思えてしまったんだ
上手く笑えないんだ どうしようもないまんま
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♊︎Gemini #星巫女_璃星 #星巫女_璃月
⛓璃星/🔗璃月(cv.唄見つきの)
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♎︎Libra #星巫女_藍空
⚖藍空(cv.くろ)
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♒︎Aquarius #星巫女_雪涙
❄️雪涙(cv.海咲)
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₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴ はる様
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✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
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