【朗読台本】クッキー缶
声: BGM:方舟 EGO-WRAPPIN’ 演奏:Teppei Katsuchi 台本:明烏
【朗読台本】クッキー缶
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襲ってきたのは 嫉妬ではなく 焦燥と混乱だった。
その男はまるで旧知の友に対するような、
おそろしく無防備な笑顔でこちらをみつめていた。
吹き出しを書いて台詞をつけるなら、
「やあ」がいかにも相応しいような。
そんな親しげで屈託の無い、しかし
いささか厚かましいその「やあ」に
俺はひどく気圧された。
二人は一枚も一緒には写っていなかった。
それはおそらく シャッターを押す他人さえ
割り込ませなかったということだ。
濃密な、過剰なまでの排他性。
俺がまだちんけなガキの頃から
二人はもうずっとこの中で
互いの視線に閉じ込められている。
届かない時間の 届かない出来事。
こいつらは誰だ。
俺とこいつらの、一体どちらが現実で
どちらが闖入者なのだろう。
写真を掻き集めて缶に入れ、元あった場所へと戻す。
冷蔵庫を勝手に開けて 牛乳を直飲みした。
買いに行かなくてはならない。
今夜はシチューだ。
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