大事なものは目蓋の裏
🗡刑戮の聖女・シスル
大事なものは目蓋の裏
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✝︎✝︎✝︎✝︎✝︎✝︎✝︎🗡刑戮の聖女・シスル Episode4✝︎✝︎✝︎✝︎✝︎✝︎✝︎
夜の闇に紛れてシスルは森を駆け抜ける。
森を抜けて山を超えれば違う国に入る。そうすれば教会の支配力が及ばないはずだ。
泥に足を取られて一瞬よろめきかけたが、すぐに体勢を立て直し走り続ける。教会を抜けたことはもうバレているだろう。追っ手はもう放たれているはずだ。足を止めている暇はない。
また木の根に足を取られる。足場が悪い……いや、足が震えているのだとその時になって初めてシスルは気付いた。
どんな悪魔と戦っても恐怖など感じなかった。それなのに繋いだ手から伝わる小さな温もりを失うのが、気が狂いそうなほど恐ろしかった。
「シスル?」
手繋いだまま後ろを走るリリィを振り返る。走り通しなのに息一つ乱していないのは流石悪魔と言ったところだろうか。しかし、その表情は不安げに曇っている。
「大丈夫、心配しないでいい」
「ほんと?」
「あの山を越えたら、もう安全だ」
シスルは目の前の国境の山を指し示す。
遠い。あまりに遠い道程だ。
でも走り抜けなければこの子を守れない。
「リリィはこの国を出たら何をしたい?」
「うーん、シスルといっぱいあまいお菓子を食べたい!」
「ふふ、いいなそれ」
国を抜けたら田舎の森の中の家を借りよう。
そこで二人で暮らせばリリィも人目を気にしなくて良いし、生まれ育った森に似た環境の方が喜ぶだろう。家事は二人で手探りになる。料理なんかしたことがないから、食事やリリィの好きなお菓子を上手く作るのは難しいかもしれない。あぁ、でもきっと二人でなら失敗するのも楽しいだろう──。
幸せな想像はほんの一瞬、シスルの意識を未来へと逸らせた。……逸らせてしまった。
瞬間。
胸を熱い感覚が貫いた。
途端、世界の時間の流れがゆっくりになったように感じられた。崩れ落ちるシスルをリリィが驚いた顔で見ている。
「シスル!!!!」
リリィの悲痛な悲鳴が響き渡り、時間の流れがまた元に戻る。
どさりという音で我に返ると、胸から矢じりが生えているのが見えた。弓矢で打たれたのだとその時やっと理解が追いついた。
逃げて、逃げてくれ、お前は悪くない……お前は悪魔なんかじゃない……。だって何も知らなかったんだ……悪も善も。こんな子が悪魔なわけがないんだ……。
倒れている場合ではないのに、立ち上がってリリィを守りたいのに、手は地面の上をもがくばかりだ。体がどんどんと冷えて重たくなる。
(リリィ逃げてくれ……お前だけは、どうか……)
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✞Lyric✞
あなたの前に何が見える?
色とりどりの魅力 溢れる世界?
大事なものは目蓋の裏
こうして閉じれば見えてくる
点滅してる光の中でも
あなただけは消えなかった
大事なものは目蓋の裏から
そうして大事に覚えてる
私はここよ ここに居るの
厚い雲が すぐそこまで来てるわ
眠ってはだめ 眠ってはだめよ
虚ろな目がまばたきを始める
夢を見るにはまだ早いわ…
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🗡「刑戮の聖女」シスル (cv.朔)
(https://nana-music.com/users/2793950)
赤い目と髪という奇異な見た目を両親に恐れられ、幼い頃に教会に捨てられた少女。
それからは教会の教え通りに心を殺し、機械のように悪魔狩りを続けてきた。幼少期から毒物を少しずつ摂取しており、全身の体液が劇毒と化しているため人と触れ合う事が出来ない。
小さな悪魔と恋に落ち、その愛に殉じた少女。
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✞Story List✞
https://nana-music.com/playlists/3605151
⬆これまでのシスルとリリィの物語はこちらをご覧下さい
✞素敵な伴奏をありがとうございます✞
りぃ様
https://nana-music.com/sounds/03719c42
✞Tag✞
#聖女シスル
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