光の下の影 クロエ
wotaku feat.初音ミク
光の下の影 クロエ
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夏の暑さにも負けないキリエの商店街の活気。食材を売る者、雑貨を売る者、サービスを提供する者。この街は商業が盛んである。この商店街の大通りを歩けば手に入れられないものはない。そう、大概は手に入る…何であったとしても。
夏の乾いた南風に揺らされた世界樹の木陰を間借りして、黒曜石の大きなサングラスをかけた短髪の人物が、体を隠さんばかりの大きな荷物をドサリと置いて、テキパキと作業を始める。背負っていた木箱は簡素な店舗に早変わり。そこに並べられたものはキリエにはない香りと色を放つ。カウンターの右側から砂漠のエキゾチックな匂いがしたかと思うと、その手前からは工業地帯の排ガスのすれた匂い…。
「ささ!お久しぶりだね、キリエのお客様方!クロエの移動販売だよ!!僕が自分の足で歩いて厳選した珍しいものばかりだ!他のお店じゃ販売もされない珍品から、高額で売られている品もここじゃあお値打ち価格!クロエの移動販売!!今見ないと、次はないかもよぉ?」
サングラス顔がヘラヘラと笑い、まるで道化のような大きな身振り素振りで店をアピールする。待ってましたと客が集まり出す。もう何度もキリエには来ているのだろう。怪しい風貌の人物に警戒する様子もなく、次に来る時に揃えてもらいたい商品の希望を伝える者すらいる。
「あぁ、有難うねぇ…私の故郷のロロのパン…このお店でしか売ってくれないのよ。足が悪くなってから、街へ買いに行くことも出来ないから…本当にクロエさんには感謝しかないわ」
「いーよいーよ!いつも必ず来てくれてありがとうね、いつだってこのパンは仕入れてあげる!…はい毎度!気をつけて帰ってね」
腰が酷く曲がった老婆が何度も感謝を述べながら帰っていくのを頬杖つきながら満面の笑みで見送る。明るい商店街の風景に溶け込む露店。その背後から、眼鏡の光が木陰から浮き出るように現れた。
「…お疲れ様です。また頼みに参りました」
ニフだ。しかし、普段の様子とは何かが違う。店の前を行き交う人々に見えないように息を殺してクロエに声をかける。
「毎度…キリエの南…平地の集落が最近妙な発展を遂げてるんだ…裕福になったと言うか…。物流の流れもおかしい。あの集落から動く人物は気をつけた方がいいかもよ?」
ニフからお金の入った袋を受け取りながら情報を渡す。
「世界樹の麓、このエリアに妙な噂もあるし…しばらくここで商売させてもらうよ」
そう言うと、既に用意していた住民帳を指に挟んでピッと手渡す。
「クロエ…蝙蝠の獣人。…はい。書類に不備はありません。憑神はマンセマット、闇と情報の魔法が使えます…とはいえ、ここに書かれているのは全て正確なものなのですか?まさか…」
「おっと、お互い協力する代わりに詮索しない。それが約束だよね?僕は誰の味方でもない。理事会が背を向けるなら、新たな客を探すけど?」
蝙蝠の羽をゆっくり広げ、ニヤリと意地悪く笑った。
「…では、私は出張所に戻ります。お忙しいところお邪魔しました…あ、あの…」
事務的な表情が崩れたニフが、不安そうに振り返る。
「最近理事会から、キリエへの協力や援助が増え始めました。初めは有難いと思っていたんですが…これには何かあるのかなって…その…」
「いいよ、理事会員のアンタは綺麗な道をちゃんと歩きな。お金さえくれりゃ、相手が理事会だって調べてあげてあげるよ」
去りゆくニフに振り返らず、クロエはヒラヒラと手を振った。
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クロエ 女
蝙蝠の獣人
マンセマットのカミツキ
データを保管致しました。ようこそ!キリエの商店街へ…
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