今度は同じ立場として
CHiCO with HoneyWorks
今度は同じ立場として
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相変わらず書類と物に埋もれた部屋。窓からの日差しも遮る紙の山に押しつぶされそうになりながら、羽根ペンが疾走する音が響いていた。
「ううぅ…!いつか来るとは思ってたんです!世界樹の調査団が、最近は森林エリアに目をつけているって言うのは聞いていたんです…うぅぅ…そしたら絶対キリエに仕事が回ってくるって思いましたもん!!案の定ですよぉ…」
机に齧り付き、丸まり続けた背中を伸ばした。窓の日差しがやっと、ボヤキの主の顔を照らした。クマがうきヨレヨレになったニフが情けない顔で半べそをかいて隣の紙の山を睨みつけた。
「あははぁ…そろそろ住民帳を更新しなきゃならないタイミングで…む、無理ですよぉ…こんな時に居てくれたら…」
窓の外から笑い声が響いた。その声は今丁度強く隣にいて欲しいと望んだ人物によく似ていた。いやいや、まさか!彼女はもう海の街へ行ったはずだ…情けない、いくら疲れてるからって巣立って行ったあの子を求めるなんて。ニフは両手でバシり!と頬を打った…いてて…頑張ろ。
気持ちを切り替えたが、やはり何だか外が騒がしい。出張所近くには商店の広場がある。賑やかな声はいつも聞こえてくるが、今日はなんだか妙である。とても幸せそうというか…何かを迎えるような…。ニフは体を伸ばして窓を覗くと広場には人集り。何かのトラブルかもしれない!急いで広場へと走り出すニフ。
「まぁまぁ!帰ってきたの?もう!言ってよねぇ?分かってたら大好きなサラダのお惣菜、沢山作っておいたのに」
「おお…久しいのぉ!分からん書類があった時はいつも丁寧に教えてくれて有難かったよぉ、また会えて嬉しいのぉ」
「三つ編みのお姉ちゃん!!またあのキラキラのスティク見せてよ!」
商店街の皆が口々に喜びを語っている。人集りでよく見えないが、チラリと見える白の三つ編みに髪飾り、スティクホルダーの付いたカバン…そして水色のワンピースと胸に小さな花のネックレス。
「シ…ノ…そんな、まさか…シノちゃん…!?」
驚きのあまり叫ぶニフの声に、白の三つ編みは飛び出してきた。小柄な体がニフに思い切り抱きつく。
「ニフ先輩!!!」
アワアワと口をパクつかせるが、驚きのあまりニフは喋れないままだ。シノはニフから体を離すと弾けんばかりの笑顔で説明を始めた。
「キリエの仕事が認められて、海の街と森林エリアの情報を伝達する仕事に就けたんです!これからはキリエと勤務先を拠点にしながら、両エリアの発展に貢献します!…ということで、海の街の理事会員としてこれからお世話になります!」
2人は長い別れを覚悟していた。いつかの再会を約束しつつも、理事会員の激務は理解している。なかなか会う機会は作れないだろうと思っていたが、まさかこんなにも早く訪れるとは…気が抜けてしまったが、大好きなかつての仲間との再会に、そんな気持ちも直ぐに消えた。
「暫くはキリエの業務に参加します!キリエは出張所勤務が1人だから、早急に人員を増やさないとって所長が言ってくれてましたよ!」
いつも苦しそうな姿を見てきたシノ、理事会にその忙しさが伝わったのだと嬉しそうにニフに教えた。理事会もやっと改善する気になったんですね!とニフを労う。久しぶりのキリエに久しぶりのニフ。抜けるような夏空も相まって、普段は落ち着いたシノもはしゃいでいる。明るくて、幸せで、眩しくなるような光景…。けど…
「…早急に人員を増やさねばならない…とは」
ニフは一瞬顔を曇らせて呟いた。しかしその声は太陽のようにキラキラしたシノの声でかき消された。
「はい!これ、海のエリアで今流行りの真珠貝のマドレーヌです!コーティングのお砂糖が淡く光って真珠みたいに綺麗なんですよ!ふふっ」
お菓子を渡すとすぐさま忙しなくカバンを漁るシノ。
「あとこれ!勤務先から素材屋に渡すよう言われてたんです!では、先輩!提出しながら挨拶に回るので、またお邪魔します!それでは」
シノは腕を大きく降りながら走り去っていった。
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リザルト
光のマナを拾得した。
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