深淵のデカダンス
💘愛欲の悪魔・シトリー
深淵のデカダンス
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✝︎✝︎✝︎✝︎✝︎✝︎💘愛欲の悪魔・シトリー Episode1✝︎✝︎✝︎✝︎✝︎✝︎
シトリーはその晩も夜空を飛んでいた。
頭上には空を切り裂いたような三日月が輝いている。山一つ向こうの戦場から生暖かく血腥い風が吹く心地好い夜だ。
シトリーが山の麓の小さな教会を見つけたのは偶然だった。だが、その庭先にいる少女の姿が目に入るとシトリーは思わずといった様子で妖艶な笑みを浮かべる。
(あれは……ふふっ、見ぃつけた……)
銀色の髪に澄んだ青色の瞳。
清らかな外見の少女は、見た目通り清廉な心の持ち主らしい。やせ細った老婆に薬草やささやかだが食料を手渡している。質素なパンは恐らく彼女の夕食になるはずだった物だろう。
「……?木の上に誰かいるの?」
頭を何度も下げて去っていく老婆を見送った少女──マリーはふと視線を上げ、シトリーのいる方に不思議そうな声で問いかけて来た。まさか見つかるとは思わなかったシトリーは僅かに驚いた。
「そのお姿は……まさか、天使様?」
「まぁ天使?うふふっ」
あまりに可愛らしい勘違いにシトリーは思わず笑い声をあげた。月に背を向けたシトリーは彼女の方からだと逆光になる。大きな羽を持つシトリーはシルエットだけなら天使のように見えるのかもしれない。
笑いながら木の上からシトリーが降り立つと、月光の下その姿があらわになる。美しい容貌をしているが背中には鷲の羽、頭には赤黒い角。その異形の姿にマリーは悲鳴をあげる。
「あ、悪魔……!」
慌てて聖域である教会の中に逃げ込もうとするが、シトリーも逃がすつもりは無い。
「ねぇ、さっき教会を出ていった人だけど」
足がぴたりと止まった。それを見てシトリーは笑みを深めた。
「あれは三日も持たないわね。私は悪魔だからそういうのわかるの」
「……貴女、何を言いたいの?」
「ねぇ、助けたいって思わない……?お優しい聖女様なら。私が手助けしてあげるわよ」
マリーの瞳に迷いが生まれる。
思った通り。この子は優し過ぎるのだ。自分は悪魔なのだから、利用できるものは存分に利用させて貰おう。
「でも、悪魔と取引だなんて……」
「じゃあ交渉決裂ね。あの人は明後日には天に召されるでしょうね」
「…………本当にあの人を助けてくれる?取引って、私はどうすればいいの……?」
かかった。シトリーは手の中に飛び込んで来た獲物に心の中で舌なめずりをする。
「そうねぇ、取引の対価は……口付けなんてどうかしら?貴女のその可愛らしい唇で私に触れて頂戴」
指先で唇を意味ありげに撫でる。マリーは一瞬何を言われたのかわからなかったのか、ぽかんとした顔をしていたが、みるみるその顔が真っ赤に染まっていく。
その反応に愉快な気持ちになりながらシトリーはまた笑い声をあげる。
「さぁ、選んで」
まずは毒を一滴。その唇に堕としてあげよう。
それはシトリーにはこの上もなく甘美な蜜の様に感じられた。
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✞Lyric✞
さあようこそ 享楽の迷宮(ラビリンス)
情と欲の霧の果て……
誘なうは 噎せる様に甘い
退廃の最果て……
例えば受け容れ難い
日々に啼いても
奈落の底を 覗き見れば──
堕落も 粗悪も
識ってしまえば快楽
ただ甘露の渦に呑まれて
此れは罰? 其れとも禄?
愚にもつかない問答
ひと時の夢ならその身を投げて
奥の 奥の 奥まで
抉 っ て
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💘「愛欲の悪魔」シトリー (cv.sumire)
鷲の羽を持つ、美しい容姿の悪魔。何故か貞淑なエプロンドレスに身を包んでいるが、服装と裏腹に淫らな言動でマリーを翻弄する。
多くの人を救いたいと悩むマリーの前にある日現れ、優しい心につけこむような契約を持ちかけては口付けなどの「純潔」を対価として要求する。彼女が手に入れたい物は何なのか……?
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✞素敵な伴奏をありがとうございます✞
eddy様
https://nana-music.com/sounds/04fc5d2b
✞Tag✞
#悪魔シトリー
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