メーベル
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
メーベル
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__𝕎𝕙𝕪 𝕕𝕠 𝕪𝕠𝕦 𝕝𝕠𝕠𝕜 𝕕𝕠𝕨𝕟 𝕝𝕚𝕜𝕖 𝕥𝕙𝕒𝕥?✩₊*˚
₊*̥┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈☪︎₊*˚
刹那の父親を、裏で操っているのは刹那なのではないか。
そんな最初に抱いた微かな疑念が真実であると分かるまで、そう長くはかからなかった。
星天界で二人きりになり、「協力しろ」と一方的に告げられ。
彼女の要求を呑んだ柊葉は、何度か調べ物を手伝わされた。
刹那と共に行動して、彼女の聡明さに触れ。
抱いていた疑念は、確信に変わった。
異常なほどに速い頭の回転。彼女の持つ中央政府の内部についての情報量。何度か見受けられた、彼女の父を蔑ろにするかのような言動。
それら全てが、刹那自身が父を傀儡に中央政府を動かしていることを示していた。
柊葉がそう悟ったことすらも、刹那は気付いているのだろう。
一度、柊葉に裏切られる懸念はないのか、と訊ねたことがある。返ってきた答えは端的だった。
お前は、私を裏切れないだろう?と。
柊葉の父と刹那の父――否、刹那自身が対立していることを知った上での発言だった。刹那は、柊葉が彼女から離れられないことを知っていた。
刹那の目的は何なのか。何を考え、何を調べているのか。
柊葉には、何一つ理解出来ていないというのに――刹那は、柊葉のすべてを見透かしているかのようで。
苛立ちと憧れと不安と期待が、混ざり合って存在していた。不快なわけではないけれど、彼女の存在が頭をよぎる度に胸がざわついた。
本当の自分なんて、とうの昔にいなくなってしまったと思っていたのに。
嘘ではないこの感情を表す言葉を、柊葉はまだ知らなかった。
知らない少女が星天界を攻撃してから。以前から感じることのあった眩暈や頭痛が酷くなったように感じる。
それでも家や学校では、問題なんて何もないようなふりをして笑っていなければいけなかった。
どれだけ辛くとも、どれだけ苦しくとも。それが柊葉の義務だから。
平気なふりを続けていれば、いつか痛みも麻痺しないだろうか、なんて願いながら。
柊葉が星天界を訪れると。そこには、見慣れた星巫女の少女――刹那がいた。
刹那の他に誰もいないことに、少し安堵して。此処に来る前から貼り付けていた笑顔を解いた。
こうしていた方が彼女のお気に召すからなのか、それとも刹那の存在に安心しているのか。自分でも分からない。
ただ、他の人間と接する時よりも息苦しさが消えているのは事実だった。
柊葉が星天界に来たことに気が付いた刹那は、何も告げずに柊葉から背を向けて歩き出した。
着いて来い、というのだろう。彼女はいつもそうだ。表情ひとつ変えずに、最も効率的な方法で自分の信じる道を歩んでいく。
柊葉が着いて来ることを疑わずに。
刹那が見つけたという、星天界のドームの地下。
金色の装飾のついた真っ白い小さな扉が、どうやらそこへの入り口らしい。
以前来た時には鍵がかかっており、ほとんど何も分かっていなかったのだが――
人の手が入った形跡のあるそこは、一週間前に訪れた時とは大きく様変わりしていた。
あれほど固く閉ざされていた扉が、開いている。
前を進む刹那が、当然のように開いた扉から地下へと足を踏み入れ。柊葉も恐る恐る後を追った。
扉の向こうにあったのは、星空に囲まれた星天界には似合わない錆びついた鉄階段だった。
一歩前へ進むたびに、硬い靴底から響いた音が狭い空間に反射する。
それにしても。柊葉が最後に星天界を訪れてから一週間――いつ、刹那は鍵を開けたのだろう。
星巫女の召喚される日が定められているわけではないとはいえ、柊葉の今までの経験では、召喚は多くても週に二回程度だった。
一度の召喚で、調査に使える時間は限られている。星巫女に選ばれた冬から季節は過ぎて夏へと近付き、夜が短くなっていく。
普段、柊葉が刹那と行動するにあたって、柊葉から彼女へ話しかけることはほとんどない。
柊葉は刹那に協力するだけで、意見しようなどと思ったこともない。
だけど、これは。流石に見過ごせなかった。
前回最後に地下を見てから、今日開かれた扉を見て。この変わりようは、一日二日で出来る作業だとは思えない。
鍵がどこにあるか――そもそも存在するかすらも分かっていなかったのに。当然のように階段を下っていく刹那は、おかしいのだ。
違和感があった。まるで、地下のことはすべて知り尽くしているとでも言いたげな行動だった。
だから。余計なことだと分かっていながら、口を開いた。
「……前に私が此処に来てから今日まで、何度召喚されたんだ」
声は震えていなかっただろうか。上手く話せただろうか――なんて。そんなことを思う必要なんてないと分かっていても、反射的に考えてしまう。
敬語は使うな、と言われていた――最初は拒んだのだが不機嫌そうに睨みつけられ拒絶出来なかった――けれど。素の口調で話すのには、いつまでたっても慣れない。一生慣れることはないのだろうな、とも思う。それはもう素の口調と呼んで良いのか疑問ではあるのだが。
「――6日間、だ」
刹那の返事は端的だった。
6日間。以前呼び出されたから、今日で8日目だから――ほぼ毎日、刹那は星天界を訪れていることになる。
7日に1度程度しか召喚されることのなかった柊葉でさえ、酷い痛みに苦しめられているというのに――毎日召喚されれば、身体への負荷は尋常ではないだろう。
どうして、一人の星巫女に負担が集中しているのか。それとも、星天界に召喚される鍵のようなものがあるのか。刹那は、自ら望んで星天界に来ているのか。
柊葉には何も分からなかったけれど――明らかな異常事態だった。
長い階段を下りた先は、暗闇に包まれていた。あるのはただ、僅かに射し込む頼りない星灯りだけ。
互いの表情も薄ぼんやりとしか分からない。
地下への入り口にあったものに似た小さな扉が、狭い空間を包む壁を覆っていた。
「1週間に6日も召喚されて……身体は、大丈夫なのか」
柊葉は、刹那は、今どんな表情をしているのだろう。
「平気だ」
突き放すような声だった。柊葉の言葉を、拒絶するような。周囲に誰一人寄せ付けないような――そんな、冷たい声だった。
平気なはずがない。星巫女は、神を自分の身に宿して世界を守っている。神の力を、自分の身体を媒介にして使っている。
負担がかからないはずがない。大丈夫なはずがない。なのに、どうして――
暗闇の中。狭い空間。
冬はとうに終わってしまったはずなのに、空気が刺すように冷たかった。
時間の流れが止まってしまったかのように、意識が曖昧に溶けてしまいそうになる。
すぐ近くにいるはずの刹那の輪郭が、一瞬ぼやけた。
今にも消えてしまいそうな気がして、無意識に彼女の方に手を伸ばす。
まるで、夢を見ているみたいだった。
青白く光る視界に、閉ざされた十三の扉。
一瞬だけ触れた刹那の手が、異常に熱を帯びていた。
虚ろな星灯りが、鈍く光っている。
柊葉の目の前にいた少女が、まるで身体の糸が切れたかのように崩れ落ちた。
そのまま少女は、倒れるように柊葉に身体を預け。
微睡みの中にいたようだった柊葉の意識が、現実へと引き戻される。
眠るように目を伏せた刹那が、柊葉に倒れかかっている。長い睫毛が微かに震えた。
「刹那っ……!」
意識を失った様子の彼女に呼びかけるも、返事はない。軽く彼女の頬に手を当てると、先程触れた手と同じように熱かった。
やはり、刹那は。一人でずっと、抱え込んできたのだ。他人に弱いところを見せまいと。普段の様子を見るに、当然父親にも頼れなかったのだろう。
それでも、自分の正義を貫くために、無理をして強がって。
その結果、先に身体が限界を迎えて倒れたのだろう。
意識のない刹那を抱え、錆びた階段を上っていく。思っていたよりも、ずっとその身体は軽かった。
錆びた階段を上り終え、目を覚まさない刹那を彼女の部屋まで送り届ける。
綺麗に整頓された机上には、何冊ものノートが無造作に置かれていた。なんとなく、見てはいけないものを見てしまった気がして目を逸らす。
彼女はこの部屋で一人、全てを抱え込んでいたのだろうか。
化け物だ、なんていう世間の刹那への――正確には彼女の父への、だが――評価が嘘みたいに思えるくらい、眠った彼女の横顔は幼く見えて。
刹那は、自分より年下の、ただの少女なんだ。
そんなことは随分前から分かっていたはずなのに、そう強く感じた。
分からないことばかりだった。
鍵の無かった地下の扉。刹那にだけ訪れた連日の召喚。
星巫女に表れる特徴的な頭痛の症状に、夢に溶けていくようだった柊葉の意識。
刹那はそれらについて知っている? それすらも分からない。
幾つもの答えの出ない疑問を抱えながら、柊葉は一人、儀式を行うためにドームを目指した。
𝕋𝕠 𝕓𝕖 ℂ𝕠𝕟𝕥𝕚𝕟𝕦𝕖𝕕...
₊*̥┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈☪︎₊*˚
✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
⚡️傷が付いて変わっていった程度のものと言うのでしょう
⚜️もう何回 繰り返している その胸で眠ってる
⚡️不意に吐いた「嫌いじゃないよ」って その言葉で揺れるのに
⚜️そうやって 目を伏せるのは
⚜️何故 ⚡️何故 ⚜️⚡️何故
⚜️⚡️曖昧になるのは嘘に怯えるから
⚡またね 遠く灯が揺れる
⚜️⚡️ここで 愛情を問うにはあまりに遅いから
⚜️聞かなかったことにしよう
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♌︎Leo #星巫女_柊葉
⚡️柊葉(cv.希咲妃)
https://nana-music.com/users/8069295
♐︎Sagittarius #星巫女_刹那
⚜️刹那(cv.酢飯いくら)
https://nana-music.com/users/8640965
₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴まめぐさり様
https://nana-music.com/sounds/02e8c3ee
✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
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