命よりも大切なバトン(短編小説)
作文: Sken
命よりも大切なバトン(短編小説)
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作詞した『君が生まれた時』の最後の一節の命よりも大切なバトンって何?って、昔、質問があったんです。それを一言では説明できないので、短編小説としました。簡単に言うと愛されることですが、じゃあ愛されるって何?って、それを小説にしました。
何か伝わるものがあれば幸せです。
GWですね。大切な方に少しでも会えるといいですね♪
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おじいちゃん
そう おじいちゃんは
将棋が強かった
一度もちゃんと勝てなかった
おばあちゃんは得意気に言った
この人には勝てないよ。って
おじいちゃんは
いつも芋を焼いてくれた
得意気だった
おじいちゃんの畑でできた
たくさんのもの
お芋、ネギ、スイカ
おいしかったり、まずかったり
それがおじいちゃんの味だった
僕ら兄弟は毎週
おじいちゃんとおばあちゃんと暮らしている
障子に穴を開けて怒られたり
ガラスを割って怒られたり
兄は一度海で流されて
別の浜から帰ってきた
田んぼに行くとみんなが集まった
稲刈り 稲かけ
ぬかるんだ土に何度も足をとられる
土の中に長靴だけ残るんだ
土に手をつくと
バッタ、カエル、くも
稲の匂い 大地の匂い
重たい米袋を持ち上げると
大きくなったね
こんなこともできるようになったのと
よく褒められた
土のうえに座敷をひいて
おにぎりを食べる
おかしを食べる
お昼寝をする
たくさん乗った
乳母車や耕運機
ほろほろの夕焼け
どれも土だらけで
なんだか優しかった
おじいちゃんは
先に亡くなった
おじいちゃんは真面目に生きろと言った
あまり聞き取りやすくなかったが
ごにょごにょとでも
確かに 真面目に生きろと
おばあちゃんはあの人はと
おじいちゃんのことを言った
台所で色々なものを作りながら
おばあちゃんは良い匂いなんだ
声だけでも可愛がってくれていることが
分かった
でも、手はしわしわで
少し痛い
触れられるとチクチクするから
上手く避けた
何か食べ物をいつも用意していて
食べさせてくれる
老人ホームに入っても変わらなかった
何かお菓子を出そうとしてくれた
買っておけば良かったと
よく悔しがった
おばあちゃんは自分が弱っていくことを
悔しがった
昔と一緒のようにできなくて
僕らに何かできないことを
悔しがっていた
おばあちゃん、ボケてきたよと
みんな言っていたが
僕のことを忘れることはなかった
いつも名前を呼んで
よく来てくれたねと言ってくれた
あの人はまだ迎えに来てくれないと
たまに怒っていた
おじいちゃんのこと
無理矢理結婚させられた
なんで結婚したんだろうねとか
怒っていたのに
おばあちゃんはおじいちゃんを
愛していた
おばあちゃんがおじいちゃんに
迎えに来てもらった時
僕は東京に居た
少しだけ顔を見に行った
怖かった
大切な人が二人も居なくなったこと
もうあの家には誰もいないこと
もう話せないこと
将棋もお芋もお菓子もお昼寝も
もう戻れないこと
おばあちゃんは変わらない顔だった
元気な頃の顔だった
話しかけてくれそうだった
顔だけでも
可愛がってくれることが分かった
お菓子を出そうとしてくれているのが
分かった
おばあちゃんの服の食べ物の匂い
ぎゅっとした時のあの匂い
大人は悲しい
そこでは泣けなかった
帰りの新幹線で泣いたんだ
布団の中で泣いたんだ
おばあちゃんやおじいちゃんの
血が僕には流れているよ
大切に子どもを育てて
孫も育てて
本当にお疲れ様でした
ちゃんとおばあちゃんやおじいちゃんの
優しさやあの匂い、あの声
考え方、どれもみんな伝えていくね
僕は娘に言うんだ
お腹空いてない?
今は分かる
お腹空いてると
寂しいし惨めだ
お腹が一杯だと
幸せだ
だから、いつも何か食べさせてくれていたと
幸せにしたいって気持ちが
あの言葉だったんだ
僕は愛されてきた
だから、僕は君に
愛されることを
一番に教えてあげたい
おはよう
お腹空いてない?
何か食べるかい?
たくさん食べな
抱っこしようか
歯磨きするからこっちにおいで
どこか遊びに行こうか
おかえり
ただいま
お風呂入ろうか
風邪ひくから髪の毛乾かすよ
腕まくらするかい
おやすみ
かわいいね
大きくなったね
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