ミヨ
魔王魂×錦糸蝶
ミヨ
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#BGM #RPG #声劇
ミヨ
小さい頃、母の田舎に帰ると、ミヨちゃんという子と
遊んだ。
フワフワの髪に大きなリボンをつけて、ツルツル
した生地の裾のひろがった水色のワンピースを着ていた。
私はミヨちゃんが好きだった。懐かしいな。
なーんてことを不意に思い出した。
「ねぇ」
生協の注文用紙を記入している母に話しかけた。
「田舎のミヨちゃんって、今どうしてるの?」
「ミヨ?」 怪訝な母の顔。
「いやいやいや...私と同じ位の女の子いたじゃない?」
「さぁ...覚えてないね」
「写真もないんだよね。田舎ではいっぱいとったのに」
「...忘れたね。昔のことだし」
「遠縁とかだったのかな? それともあれかななぁ。
私は想像力豊かだったし、小さい子によくある
イマジナリーフレンド...」
「桐生の話はもうやめて!」
母が叫んだ。故郷の地名を忌々しげに吐き捨てた。
側で寝ていた猫が飛び起きるほどのいきおいだった。
「あんた、何も覚えてないの?」
注文用紙を雑に折りたたみ、鉛筆でポリポリと
こめかみのあたりをかく。
「桐生に行くと、後で必ず大熱出してさ。
うなされて、うなされてさ。
どれだけ心配したか」
なんて? なんてうなされたの?
言いたくない。
教えて、教えてよ。教えて下さい。
仕方ないというふうに、さっさと終わらせてしまおうというふうに
母は幼かった私のうわごとの真似をしてみせた。
オレの墓 盗るでねぇ オレの墓 盗るでねぇ
「なんだかおじいさんが乗り移ったみたいな大声で。
気持ち悪いったらなかった。
もうおしまい!
とっくにあの家は無いの。大月のおばさんが亡くなった
から潰してしまったの。
もう桐生の話はおしまい」
心底嫌そうに母は締めくくった。
ああ、わかった。思い出した。
おぼろげだったミヨちゃんの姿が、
今くっきりと頭に浮かんだ。
どうりで今まで押し込めてきたはずた。
ミヨちゃんは
背丈こそ子供みたいで私と同じ位だったけれど
顔はしわくちゃで まるで百歳のおばあさんで
片手と片足が無くって
いつもぼんやりと
田舎の家の大きな柱時計に
もたれながら
小首をかしげて
瞳のない真っ白な濁った目で
私を見ていたんだもの。
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