夜明けの先に待ち受ける…
Linked Horizon
夜明けの先に待ち受ける…
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―ニフ、すまねぇな。お前の助力でキリエに戻れた。しかも、仕事もさせてもらった…。怒るなよ?お前ら理事会じゃ倫理的に出来ねぇ事を俺らがやってる…確かに褒められた事じゃねぇが、お陰で開けた道もある。
おっと、話がズレたな。アキネやニフのおかげで戻れたキリエだったが…今度は俺らの用事で外に出なきゃならなくなった。スノウはちゃんと窼を守ってくれてるか?俺の代わりにたまに見に行ってやってくれ。数日で帰れるとは思うんだが…。
いつも迷惑ばっかかけて悪ぃ。同じ半神のご縁だ、許してくれよ。それに…―
「クソッタレが!!いい加減くたばれやぁぁあ!」
いつも煙草に火をつける、花炎石の指輪をはめた手から、轟々と叫びにも似た音を立てて炎が迸っている。燃え盛る拳を振り上げ、呪詛にて天高く飛び上がったアグルは眼下のそれに立ち向かった。美しい装飾と化粧が施された雪のように真っ白い巨大な仮面のバケモノが歌う様な声を上げながら、アグルを見上げる。その不気味なまでに端麗な仮面の表情に、アグルの背筋はゾクゾクと凍りつく。その恐怖を押し殺し、腹の底から雄叫びをあげる…。
…
「…神落ちだと!?ここ最近は魔王や神落ちは現れていなかった。街や国は春の主の凶行以降、崩壊したって話は聞いてねぇ。…何かの間違いだろ?そんな昔から…」
「残念だが、アグル…春の主の事件よりももっと以前から、奴は活動を続けていたようだ。…普通の神落ちは、その強大な力に魅了されて暴走を即座に起こす。魔王より早く発見できるのだが…奴は違う。力よりも強い意識でもあるのか…暴走を起こさなかった。姿をくらまし、ジワジワと人を喰らいながら、世界に溶け込んで害をなしている」
「…気付きもしないで俺らはのうのうと生きていたのかよ?バケモノが街に潜むこの世界に」
アグルは怒りと共に唾を吐いた。耳に痛い程の静寂…繁華街だろうか、彩り取りの建物が並ぶ大きな都市に、アグルとアグルの仲間の声だけが響いた。
「世界樹の麓、首都アヴァロン。その大都市に並ぶ、世界樹の根幹エリアの首都。ここの軍事力、防衛能力も相当なものだった…」
「今じゃ人っ子一人居ねぇ。…ゴーストタウンだ」
「喰われたんだよ、奴に…殺傷力もステルス能力も、悪神を凌駕してる…絶対に駆逐しなければ…」
…
数日前の仲間との会話を一撃の前の刹那に思い出していた。首都からのSOSを受け、偵察隊として誰よりも早くアグル達は辿り着いたのだが、時すでに遅し。街は美しい形を留めたまま壊滅していた。アグル達は即座に神落ちの捜索と同時に、周辺エリアの理事会や街、裏社会にも応援要請を飛ばした。援軍のお陰もあり、首都の繁華街で神落ちを見つけ出すことが出来たのだが…。
「俺から仲間を奪って、生きてられると思うな!!」
真っ赤なアグルの一撃が真っ白な仮面を黒く醜い神落ちの身体にめり込ませた。…アグルと共に偵察隊として街に送り込まれ、神落ちの情報を与えた仲間はアグルとは別の班に組み込まれて作業をしていた。彼らの班が神落ちを発見し、合図の呪詛を起動させたと同時に神落ちに呑み込まれ…瞬殺だった。アグル達は体制を整える暇も与えられず、この死線に挑まねばならなかった。アグルの一撃を皮切りに、一斉に総攻撃をかける。魔法を放つ者、呪詛を展開させる者、自慢の武器を振りかざす者…アグルも魔障のヒビの痛みに耐えながら、咆哮を上げて髪を真っ赤に燃え上がらせた。焔の魔人、イフリートに体をやつし、燃え盛る業火を仮面に叩きつけようと、両手を広げる。
『何で俺…安心したんだろうな?親父…。この世はゲヘナや魔族、それこそ人の業すらも渦巻いて、世界を壊そうとしているのにな。平和っつーのは尊い…なんせ、今にも沈みそうな薄氷の上でしか存在できねぇって…両親を亡くした俺が一番分かってなきゃいけねぇのに。アンタが拾ってくれた命を研ぐのを忘れて、ダラけちまった俺を叱ってくれよ、親父…』
がぁぁあああぁあぁ!!!口からも炎が漏れ出したアグルが生命を燃やして一撃を放った。仲間たちが放つ攻撃も次々と神落ちに炸裂する。歌う様な神落ちの声のハーモニーが乱れた。酷い声に意識が遠のく中、確かに聴こえた声…。
「世界は美しさで溢れてる。いや、そうでなければならない。…貴方もそう思わない?」
瓦礫だらけの荒れた繁華街、気を失い地面に転がる仲間たち。辛うじて地面から顔を上げたアグルの目に、一人の女性が歩き出したのが見えた。まずい、あれは神落ちが変化した姿だ…その方向は…キリ…エ…?
―それに…もしかしたら、理事会やキリエの奴らに力を貸してもらう事になるかもしれないしな。…すまねぇ、詳しくは今は言えねぇ。我儘は俺の専売特許だろ?いつもみたいに困り顔で笑ってくれな。
怪我が治ったらキリエにすぐ戻る。それまで、留守とスノウをよろしくな。 アグル―
羊皮紙の手紙を胸に当てたニフが窼の前で佇んでいる。いつも心配をかけるのだから…。ニフは小声で呟いた。胸に当てた手紙は不安に力む手でひしゃがれた。
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今すぐではない、いつか来る不穏が迫っています…。
この音源がリリースされると同時に、最終クエストを発令します。
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