リンドウ
らんくえー
リンドウ
- 20
- 4
- 0
リンドウ
最後の一瞬、私はあなたを愛していました。母には、男らしく頼りがいのある人を選びなさいと幼いころから言われ、そしてあなたに出会いました。半ば無理やりともいえる結婚でしたが、出会ったばかりのあなたは堂々としていて、だれからも慕われている、それはそれは素敵な人に映りました。だから私も結婚に対して、嫌々であったりなどはなく、むしろこのような素敵な方と縁を結ぶことに心が躍るようですらありました。しかし結婚の時期が早すぎたのでしょうか、確とお互いにお互いを知らぬまま生活を送るうちにあなたという存在は私の踊る心に一本ずつ花を咲かせていきました。出会った時のあなたの男らしさは私と過ごす小さな部屋の中ではすっかり影を潜めてしまい、代わりに横暴で身勝手な支配者が私に悲嘆の花を咲かせていったのです。正直に申しますと、ここでも話さず墓までもっていくのが花だということは百も承知ですが、共に生活を送るようになってからというものあなたを憎まない日はございませんでした。憧憬を向けられていた頃ですら持ちえなかったあなたへの愛はあなたと過ごす部屋の中には塵の大きさほども舞ってはいなかったでしょう。私はあなたに何も言わなかったからあなたは気付きもしなかったのではないでしょうか。いつしか私の心にはあなたへ渡す憂愁のブーケが出来上がっておりました。
あなたに別れを告げた刹那、あなたは真っ青になりながら悲哀の表情を浮かべておりましたが、その一瞬だけはあなたのことを愛おしく思うことができました。
#nana文学
Comment
No Comments Yet.