【落語台本】八里半(はちりはん)
むぅら
【落語台本】八里半(はちりはん)
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(長いので録音は無理かな。生凸用です)
えー、毎度バカバカしい話を一つ。
まあなんですな。異常気象なんてものはここ最近毎年起きておりまして、今年は令和に世が改まってからというもの異常な暑さ続きで「令和ちゃん初めてだから仕方ないね」なんて話も聞きますな。
最近の研究では1783年にアイスランドのラキ火山が噴火した影響でフランス革命が起こり、日本では天明(てんめい)の大飢饉(だいききん)が起きたそうでございます。バタフライ効果ってやつなんでしょうかねえ全く。
この大飢饉推定で92万人が亡くなったそうで、八代将軍吉宗が推し進め、青木昆陽(あおきこんよう)が栽培に尽力(じんりょく)したという甘藷(かんしょ)、つまりサツマイモでございますな。これが米不足を大いに補ったそうでございまして、サツマイモの栽培が始まる前の享保(きょうほう)年間に起きた「享保の大飢饉」の死者が97万人と書かれておりますから、随分(ずいぶん)と日本はサツマイモに助けられたそうでございますよ。
さて江戸の町には元々焼き栗の屋台なんてえ物があちらこちらにございまして、それに負けじと焼き芋屋がちらほらと増えてきたそうでございます。
「おい熊公、腹が空かねえか」
「なんだ八つぁん、人様んちに来るなり飯の催促か。米なんぞねえぞこの出がらし野郎」
「誰がお前なんかにタカリに来るもんか馬鹿野郎。ちょいといい店あるんだよ。一緒にこねえか?」
「なんでえ、こないだうめえ蕎麦屋があるとか言いやがるから行って見たらありゃボソボソで食えたもんじゃなかったじゃねえか」
「いや今度は本当にうめえんだよこれが」
といった具合で男やもめが二人して堀川端(ほりかわばた)をつつつっと歩いていきますと、なにやらいい匂いがして参りました。看板を見ると『八里半』と書かれてございます。
「おう親父いるかい。なんでえ八里半ってのは」
「ダンナ、今ちょうど焼きあがった。さ、食ってきなよ」
「おうなんでえ、こりゃ芋じゃねえかよ。アチっホフホフ」
「おうこりゃなかなかうめえな。で、なんでこれが八里半なんでえ」
「そりゃダンナ、栗には及ばないって意味でさあ」
「ああ九里に及ばねえから八里半ってなもんか。洒落てやがんなこんちくしょう」
しばらくしてこの熊公よほどこれが気に入ったのか、サツマイモを庭先で作り始めまして、焼いたり蒸したり、潰してこねたりと色々試した様子、好きが講じて焼き芋屋を始めることと相成(あいな)りました。
「おう八つぁん、どうだ俺の焼いた芋は?」
「なんだこりゃびっくりするくらい甘いじゃねえか」
「おうよ、焼き方を色々変えて見たら餡子みてえに甘くなっちまった。こりゃ売れると思うんだがどうよ」
「こりゃうめえ、イケるぞこりゃ。他の屋台なんぞ目じゃねえな」
「決まった。明日から店を出すぞ。もう屋号も書いた」
「ほほう。で、なんて名前だ」
八つぁんが聞くと熊公のやつ得意げに
「そりゃおめえ十三里に決まってるじゃねえか。九里四里(栗より)美味い十三里だ!恐れ入ったかこんちくしょうめ」
お後がよろしいようで。
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