クリスマスコラボ企画「路地裏パティエル」5
秘密結社 路地裏珈琲
クリスマスコラボ企画「路地裏パティエル」5
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パーティ当日。もうすっかり、当初のサプライズパーティなんかではなくなってしまったことを、出来上がった壮大な現代アート調のクリスマスケーキと、チョコレート塗れで姿を見せたまことが教えてくれた。
雲行きが怪しかったのは、前日からすでに察知していたことだ。ここは、愛想の良い大人二人に任せてくれと、サトウとことみが上手いこと言いくるめて、両親に当たり障りなく言い訳してくれたそうだった。
部屋は、まことが知らなかったクリスマスでいっぱいだ。
みんなで飾りつけたクリスマスツリーに、オーロラみたいな素材の飾りと、偽物の雪細工、そこかしこに飾られた巨大なプレゼントボックス。どれも当たり前で、見たことのある風景なのに、こんなに嬉しい気持ちになるのは何故なのか。
装飾に囲まれて、ど真ん中には七面鳥と暖かいスープ、焼きたてのパン。
そして、あのケーキが堂々と鎮座している。
完璧な輪の中心で、ソワソワと落ち着きのないまことのに手には、事前に渡された“段取り”のカードが握られていた。
もちろん、カードの持ち主は、秘密結社達である。良くして貰ったお礼に、よかったら一緒にパーティにも、と招待された秘密結社とパティシエ達だったが、ただ出席するだけで終わるはずはない。
さあ、時刻は19:00。約束の時間だ。
カードの指示通り、まことはしっかりとした口調で、話し始める。
「パパ、ママ、僕の誕生日に、こんな素敵なパーティを用意してくれてありがとう。この節目の日に、宣言したいことがある。僕、将来の夢ができたんだ」
ちなみに、カードにはこう書いてあった。
“一番叶えたい願い事を言ってごらん。叶えてあげる。”
「大きくなったら、カフェを経営して、そこでケーキを作る」
急に、照明がぱっぱと切り替わり、あたりをざわめきが包んだ。
事情を知らされていない依頼人と主役は、恐る恐る手探りに席へ就く。妖精のクーが思いっきり引っ張ったクラッカーは、良く響いたものだった。BGMのクリスマスソングに、歓声にも似た元気なコーラスが重なって、プレゼントボックスが一斉に開いたかと思えば、そこから、部屋の飾り付けを任されたはずの、りく、律香、空蝉。各々用意してきた小さなお菓子を手に飛び出した。
鈴と柊で着飾った彼女達の姿は、まるで絵画の世界の天使そのもの。
一人ひとり、まことの隣へやってきて、お菓子を次々彼に授ける。
経営の才覚、決断力、人を束ねる人望、そして努力の才能。
それぞれにモチーフを伴って用意した愛らしい焼き菓子には、一口くちにすれば、本当にその力を得られてしまうような、理由のつかない説得力があった。
「このメインケーキ、まことくんが一緒に手伝ってくれたんです!」
「お二人が思っておられる以上に、まことくんはとっ...てもしっかりもので、自分を表現する感性に長けておられます!」
「お父様、お母さま。私たちが自信を持って申し上げます、彼はきっと、素敵な職人に成長されることでしょう」
初めて口にした、彼の夢。
大人の提示した選択を跳ね除けて、彼自身が持ち込んだ未来。
それを突きつけられた両親が、少しでも安心して受け入れられるように。
彼女達が選んだのは、心に寄り添う、真心のおまじないだった。
「なるほど......それなら、来年のクリスマスケーキは、今からまことに予約しておかないといけないね」
そう噛み締めるように口にした父親の声は、とてもとても優しく、温かい。
誕生日おめでとう、と頭に乗せられた、紙の王冠の下で、ポカンとしていたまことの顔が、みるみるうちに綻んだ。
「ありがとう」
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「これで、ミッション完遂だ」
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