「恋予報:テル編」(完結)
秘密結社 路地裏珈琲
「恋予報:テル編」(完結)
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※告白編※
https://nana-music.com/sounds/05c6546d
“僕の残りの時間を、貰ってくれない?”
二度目の問いかけへの返事は、少し待ってくれと頼んで別れた。私にはまだ、その問いかけに応じるのに、どうしても必要な言葉が見つかっていなかったのだ。
そして島を出る直前、朝日が注ぐ海の中、珊瑚と貝殻でできたヨウのお墓まで挨拶をしに行くと伝えたら、彼は少し寂しそうに微笑んで、私についてきた。
墓標の前で、沈黙は長かった。やっと、面と向かって手を合わせ、胸中を全てヨウに打ち明けられるのだ。おそらく今日を逃したらもうこんなチャンスは訪れない。
沢山たくさん、寂しくて悔しくて、私を置いていたことはまだ許していないと伝えた。だけど、自分を生かしてくれたことを感謝できるようになって、大勢頼もしい仲間がいるから、もう私のことを案じて苦しまなくて大丈夫、とも。
私がその全てを、心の中で読み上げている間、まだ返ってこない返事を催促することはなく、隣で機械人形の彼はじっと一緒に黙っていてくれた。
私は、見た。手を繋ぐことを覚えた彼が、空っぽの手を僅かにうろつかせ、私の服の裾を握ろうか躊躇った末、自分のズボンにそっと指を着地させたのを。それで私は事を終えたらすぐに、自分から彼の手をとった。
「テル...なんで」
「勘違いしないの、お墓参りだって言ったでしょ?君をここに帰しにきたんじゃないよ、“レイ“」
彼はみるみるうちに目を見開いて、しっかりと、手を握り返す。
すぐに、その響きが、自分に贈られた名前なのだと分かったのだ。
“レイ”、それは私が見つけた、彼と一緒に歩む覚悟の言葉。
「私が名前を呼べば、レイはそこにレイとして在ることになる。レイが私を呼べば、私もまた自分という不確かな存在に輪郭をもらえる。これで私達は、お互いを照らす光になれるよ」
どう返事をすればと、レイが戸惑っている間に引っ張って、さあ行くぞって、有無を言わさず海へと飛び込んだ。後に彼から聞いた話では、私の顔には、笑顔と涙が混在していたそうだった。それで、日の光が反射した涙の中には、小さな虹が見えた、って。
また、長いお別れになる。
この海から上がったら、せっかく鰭を取り戻したけれど、しばらく泳ぐことも無いだろう。
朝の深海に降り注ぐ一筋の陽光に、ヒヤリと冷たい水中で優しく包まれながら、
人魚の王妃様と、王様が、手を取り合って泳ぎたかったこの海を。
人魚の血を引く私と、王様の意思を継いだヨウが、もう二度と手を取り合って泳げないこの海を。
私はこれから、先人達が遺した彼、レイと共に泳いでゆくんだ。
レイ、”Ray”、真っ直ぐに差し込む光、全てが始まるゼロ。
「ねえ、テル」
「なに?」
「僕はたった今朝日を見ているのに、もう明日がくることが楽しみになっているんだけど、変かな」
「全然変じゃないよ、昔は私も......ううん!久々に、私もそう」
やっと分かったことがある。夕日が沈めば夜になるけれど、それは終わりの合図なんかじゃなかった。暗闇を超えて、もっと先にある、朝の訪れに備えていたんだ。
いつか飲み込んだ夕焼けが、種となって水平線に埋まり、ようやく芽を出した。
今日はそんな日。
「ヨウ、私にもやっと朝がきた」
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機械人形の青年レイと、テルちゃんが“特別な関係”になりました。
今後の展開に影響します、末長くお幸せに!
なお、レイは住み込みのバイトとして、倉庫の中に住居を構えるようです。
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