夕焼けと薔薇、一番星
ジミーサムP
夕焼けと薔薇、一番星
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「…わぁぁ…!」
初めての風景。沈む夕日のなんと美しい事か…バトンで見た海に沈む夕日は光に満ちていたが、砂漠に沈む夕日は幻想的な影を生み出し、全てを緋色に染め上げている。これもまた、海の夕日に負けぬ美をたたえている。
「どうです?僕の故郷。キリエのように植物に恵まれてはいませんが…どの街にもない風景でしょう?」
レオが運転する砂漠ドラゴンの竜車に揺られ、窓からフィーはうっとりと外を見つめていた。
バトン島への視察を終え、キリエを管轄する全ての理事会員が視察隊のレポートを読み、聞き取りを行った。バトンは友好的であり理事会への脅威は見当たらず、貿易するのに沢山の魅力がある事、特に豊かな作物が注目された。そこで、如何にキリエにとってバドンの作物は利益があるか調査するため、理事会員である植物園の園長に白羽の矢がたった。フィーは園長の代わりに、バトンと国交のある砂漠の街へバトンの作物を取りに向かう事となったのだ。竜車に乗ったレオがキリエまでフィーを迎えに行き、今は砂漠の街ヘ行く道の途中である。
「凄いです…私、街から出る事がなかったから…砂漠、初めて見ました!砂がまるで海の波みたい」
砂漠の乾いた風がシルフの羽を揺らす。砂漠の茜をキラキラと照り返していた。
「そう言って貰えて光栄です」
竜の手網を操作しているため顔は見えないが、嬉しそうな声が、フィーにレオの笑顔を伝えていた。フィーもフフっと笑顔になる。美しい褐色の青年…なるほど、この風景が彼を育てたのか…フィーは何となく納得しながら沈みゆく太陽を見つめていた。
すると、夕日の端で何か植物の様な影がフィーの目に飛び込んだ。…薔薇?まさか!砂漠に薔薇なんて…しかし、道が進むにつれ薔薇のようなその植物はあちらこちらで見受けられた。
「あ、あの!先程からサボテンとも違う…植物の様なものが見えるんですが、あれはなんですか?」
あ、それは…とレオは言いかけて、竜車のスピードを落とした。あれだけ暑かった砂漠の照り返し…沈みゆく太陽と共に熱がゆっくりと世界から去っていくようだった…夜が少しずつ近づいている。やがて竜車は薔薇のようなものの前で止まった。
「口で説明するより、見た方がいいですよね。どうぞこちらへ…」
レオはフィーの為に扉を開けた。フィーは降り立ち、薔薇のようなそれに近づいた。…驚く事に、薔薇のように見えたそれは、酷く風化し薔薇の木の様に刺々しく朽ちた岩であった。それだけでは無い、その岩に植物の薔薇同様に薔薇の花が咲いている…いや、岩に花が咲くはずがない…フィーは不思議そうに見つめていると、レオが口を開いた。
「驚きました?まるで岩の薔薇でしょう。花まで再現されている。でもこれは自然が作り出したものなんですよ。デザートローズ…この街の周辺にしかない珍しいものです」
風化した岩に雨が降ると、雨が持つ水のエレメントと岩が含む鉱物が反応し合い、白い結晶となって薔薇のように幾重にも育つのだそうだ。確かに花弁に触れると、触り心地は花びらと言うより、石や砂に近いものであった。どの岩にも出来るものではなく、この地区で出土する岩でなければ出ない現象なのだそうだ。
「昔はとても貴重で、王が妃に愛を伝える為に使われたそうです。そもそも、雨が殆ど降らない土地ですからね。ですが、さとらさんのお母様のお陰で雨には困らなくなりました。呪詛で雨を降らせる事が出来るようになってから、デザートローズはこの街の名物なのですよ」
干ばつによる乾燥、岩すら風化させ刺々しく砕く気候…そこで生きるのはどれ程苦しいのだろう。乾いた風はもうすっかり肌を刺す冷たさであった。空には一番星が静かに煌めいている。
「この土地に住むのは大変でしょうね…」
「ええ、干ばつで死んだ者もいます。街を出ていった者も…さとらさん達が居なかったら…この街は…僕は…居なかったのかもしれません」
フィーの脳裏に、レオを見つめて幸せそうに微笑むさとらの顔が浮かんだ。…私は…私は恋ってまだよく分からない、でも…。「居なかったかもしれない」という言葉が薔薇の棘の様にフィーの胸を刺す。月の下で舞う私を美しいと言ってくれた彼女の笑顔、隣に居る時の胸の高鳴り…もし、みりんが居なかったかもしれなかったら…?ああ、酷く胸が痛い…。
「レオさん…ダメです。絶対に…!!」
レオは急に飛び出したフィーの否定にキョトンとしたが、その真剣な眼差しに何かを悟った。
「…ええ勿論。さとらさん達が繋いでくれた命と運命…。消えてしまう未来は打ち砕かれたんですから。僕はこの広い空の下、大事な笑顔を見つけ出したのです。他には何もいらないと思えるほど愛しい…。だから、居なくなったりしませんよ、絶対に」
風に揺れるターバンが優しく夜を撫でる。さ、冷えてしまいますよ?とフィーを竜車に戻し、街へと走り出した。
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