初めまして「美子とウタウ」
秘密結社 路地裏珈琲
初めまして「美子とウタウ」
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部屋で過ごす以外に、夜の過ごし方を知らないウタウを連れ出して、美子が向かったのは、いわゆるオクトーバーフェストと言う催しだった。
元は軍事国家周辺の地域が発祥となったお祭りだそうで、10月の頃、人々は各地の公園や広場で、夜な夜な穀物酒と郷土料理を囲んで歌と踊りに興じ、実りの秋をお祝いする。
「すごい人だかり!人間の女の子は、夜でも昼間みたいに出歩いて良いの?」
「まあ、大体はね。ウタコんとこ、女子供は夜に、一人歩きを許して貰えなかったんだっけか」
「うん、女の子同士で夜更かしをするときは、絶対に建物の中。帰り道は通っていい道が決まってて、警察の人が夜通し見張ってるの」
“今考えたら、何だかそれって鳥籠みたいだね“と呟き、オレンジの明かりを眺めながら、眩しそうに目を細めたウタウ。その腕を強引に絡めて引き寄せ、美子は人混みの真ん中へといざ潜り込んで行った。
酒の何とも言えない甘酸っぱく鼻に上る香、香ばしく焼き上がった子羊肉と胡椒、誰かの香水、砂埃。
夜は何でも包み隠してしまうから、時に彼女たち甘美人を脅かすような恐怖を匿い、かたや、昼に焦がされ傷ついた人の痛みを抱いて、安息をもたらす。美子の腕に寄り添って、初めて飲まれた人の波は、思ったよりもずっと暖かく、居心地の良い流れだった。
「大丈夫だよ、好きなようにやってご覧。これからはどこにだって、姉さんが連れてったげる。ウタコがまたいつか故郷に帰る頃には、あの街でもこんなお祭りができるようになってるといいね」
深夜0時、あちこちのスマホが短く振動し、SNSの更新を告げる。画面の上で輝くのは、初めての麦酒を手に、口の上をたっぷり泡だらけにして笑うウタウの顔。ベッドで寝転ぶ珈琲屋たちの口元が、ちょっとだけ緩んだ。
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みーこ姉さんの可愛い妹分がまた増えてしまった。
末っこウタコとセコム姉さんの冒険は続く。
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