「遠くの街」(姐さん完結)
秘密結社 路地裏珈琲
「遠くの街」(姐さん完結)
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サトウさんとの関係性が変わった曲
『以下コピペ』
カーステレオから、古いケルト調の音楽が流れている。
名前も良く知らない田舎町で、わずかに日が傾いてくすんだ青空が、車のボディとよく馴染んで美しい。
荷台には、泥の取り切れていない丸々とした野菜。数少ない信号待ちに、2人でいつもは飲まないような駄々甘い缶のココアをすするのが、ささやかな非日常感を加速させ、深く被ったキャスケット帽の下で、調子っぱずれの口笛がとてもご機嫌だった。
”寄り道しよう“と、サトウが言った。
目指す先は、行きがけに通り過ぎた小高い丘の上。
丘の古城に立ち寄って、寂れた煉瓦と秋風に吹かれながら見下ろした街並みは、どこかいつもの街に似て居ながら、決して同じはずもなく...まるで2人っきり、並行世界に迷い込んだような不思議な風景だった。
「......空が飛べたらいいよね、時々思う」
「知ってるわ、毎日空想の世界で生きてるもんね」
「ええ?本気だよ、遠く離れた街や外国に、すごく憧れる。兄弟が居るんだ、海のずーっとずーっと先にさ」
姐さんの口ずさんだメロディに、幼い小鳥が枯れ木の上からじゃれついて、それ以降サトウの言葉はぷつりと奪われ、笑い声に代わってしまった。
可愛いなぁと手を伸ばしたが、結局逃げられてしまった小鳥達。彼とも彼女ともつかないあのこは、小さな羽で自由に空を舞い、あっという間に見えなくなってしまうだろう。
これは、何気なくて何でもない一日の出来事。
やけに感傷的な空気を振り払うつもりの、何気ない一言。そのはずだったのに。
「ま、人間はアイデア勝負!羨ましがってないで、お得意の思いつきで空飛ぶ方法考えましょ」
サトウが、そっと手をすくい上げて引き寄せる。
「その時は、絶対君も連れて行くね」
「ふふ!悪いけど、空で助手頼むなら高いわよ」
「いい女が高く付くことなら、僕は良く知ってる」
「え...」
降ってきたキャスケットに遮られる視界と、鼻先を掠める柔らかいムスクの香り。
わずかに手の甲に触れた、ざらつきと、柔らかな感触。
全ては、すぐに風でさらわれて、サトウの指が姐さんの手から抜け出して行った。
そう、何でもない一日。
「さ〜て、帰ろっかぁ。日が暮れちゃう」
不自然に間の抜けたサトウの声が、キャスケットの下、彼女の耳に届いて居たかどうかは、いずれ思い出話になる日まで...
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🍀
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