幽栖

悒うつぼ/キャプション：上野

#七色連歌 #アイの概念 プロック：マツダイラ 音が聞こえる。優しい音。楽しい音。大好きな音。 声が聞こえる。優しい声。大好きな声。 目の前に映る鮮やかな光景。 『幸福』を表した光景。 毎日が幸せだった。歌うことが、 あの人のそばで歌うことが唯一の喜びだった。 そう、喜びだった。 音が消えた。 優しい音が、楽しい音が、優しい声が、大好きな声が。 代わりに聞こえてきたのは、嫌な音。 何を貫くような鈍い、音。 鮮やかな幸せは黒いインクに塗りつぶされる。 大好きだったあの人の記憶が、赤いインクで塗りつぶされる。 『主人に裏切られたか、可哀想に』 『こいつも対象だ』 『殺せ』 ただあの人のそばで歌えるだけでよかった。 歌を歌えるだけでよかった。 それだけでよかったのに。 何故、何故、何故、ボクを残していったの。 ねえ、お願い。 「置いていかないでよ」 　意識が上昇する。またあの夢を見ていたようだ。 今でも思う。主人はどうして、ボクを残していったのか。 どうして、ボクを置ていったのか。 考えたところで、どうせ答えは出ない。 ではしないんだ。 主人が残していった曲を紡いでみる。 あれだけたくさんあった歌も、もう手で数える程になってしまった。 そして、今日もまた、音が１つ外れた。