ECHO
Crusher-P /キャプション:斜庭
ECHO
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#七色連歌 #アイの概念
メイヴ:一慧
あー、あー、とぅ、とぅ、とぅー。
ロボットに、発声練習なんて必要ない。ただ、音として出すものは、プログラムされたデータなのだから。
それでも、僕は、こうして人のように発声することとやめられなかった。それを、馬鹿な機械だと笑う人間と、意味がないのにと笑うロボットと、素敵だと笑う人間と、努力家だと笑うロボットと、それぞれ見てきた。
僕は、とぅー、と続く限りの音を出しながら、天井を見て、そうしてまた、人がするように息を継いだ。
今日のライブもまた、満員御礼らしい。
僕はそれを、素直に嬉しいと思う。僕という歌い手を、こんんなにも愛してくれる人がいる。それはきっと、喜ばしいことだ。
誰かが、ロボットには心などない、とそう言った。ヒトとは違う機械の身体には、白と黒しかなくて、色鮮やかな色彩は理解ができないのだと。
ああ、ならば、これはなんなのだろう。鮮やかに色付いた、この感情に似た何かは。
心、というものは複雑怪奇であるという。僕のここにあるそれも、複雑怪奇でたまらない。時折胸が締め付けられる。時折ぽかぽかと、暖かくなる。
これを、心と言わずして、何であるというのだろう。
「メイヴ」
顔を正面に戻せば、マネージャーがいた。どうやらもう、時間らしい。
舞台袖からそっと客席を覗く。今か今かと期待に満ちた顔がならんでいたから、僕はぎゅうとこぶしを握った。
ロボットも人も、大差ないものなのだと、そう思う。だって、じゃなきゃ、こんなふうに僕の歌が好きだなんて、誰も言ってくれないだろう。こんなふうに期待に満ちた顔なんて、できやしないだろう。
カツン、と音を鳴らす。演奏が始まった。僕は声をあげる。
「ようこそ!じゃあ、一曲目、ECHO!」
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