勿忘草《SS作品》
執筆▶︎つーちゃん。
勿忘草《SS作品》
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「あ、雨だ。」
ふと作業を止め、窓の外を見る。
雨音がした訳じゃない。
雨の匂いがした気がして、外を見ただけだった。
霧雨が降っていた。地味に嫌な雨。
つい先日まで、桜が満開!とかニュースでやっていたのに、雨続きで散り始めてると言う。
ベランダで育てている花が少し心配になった。
中に入れようか、どうしようか……。
…このくらいの雨なら大丈夫だろう。
そう思い視線を外す。
「……そう言えば」
ふと、過去の記憶を思い出した。
この時期に降る雨にはいい思い出がない。
子供の頃に父親が出ていった日も雨だったし、母親が出ていった日も雨だった。
広い家の中でただ1人、寒さと雷の音に震えていた。
ーーー
あれは、両親が出ていってから数年後の春。
俺は中学生になっていた。
急に降ってきた雨に濡れながら帰路を急いでいた時、聞き覚えのある声が聞こえたんだ。
もしかして!
そう思った瞬間、鼓動が高鳴った。
少し駆け足で声のした方に向かう。
多分、少しだけ期待してたんだと思う。
その期待がバラバラに崩れることを知っていたはずなのに、期待したんだ。
その声は、父親だった。
いや、父親《だった》人だった。
父親だった人の隣には、知らない女性。
母親とは真逆の優しい雰囲気の女性だった。
そして2人の間には、小学生位の男の子が居た。
あぁ、あの人は俺たちを捨てて、自分の幸せを掴み取ったんだ。
そう思ったら何故か笑えてきたんだ。
「ははっ…」
雨が酷くなって、まるで俺のために泣いてくれてるのだと錯覚する程だった。
「くそが……」
神様、俺が何をしたと言うのですか?
前世の罪を今世で償えと言うのですか。
いつ、俺の罪は許されるのですか。
気が付けば、あの家族は足音も聞こえないほど遠くなっていた。
雨に濡れながら家に帰った次の日は、案の定熱を出して寝込んだ。
ーーー
『コンコン』
そんな記憶を思い出して、憂鬱になっていると部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はぁ〜い!」
笑顔を作り返事をする。
十中八九、所長だろう。
いつの日だったか、俺の配信中に入ってきた後から、俺が部屋にいる時にはノックをしてくれるようになった。
ふとそれを思い出し、自然と笑みが零れる。
「今行きまーす!」
元気に返事をし、部屋を出る。
窓の外には勿忘草が風に揺れていた。
いつの間にか雨が止んだ空には、とても綺麗な虹が出来ていた。
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お題▶︎《雨音》《鼓動》《足音》《花言葉》
勿忘草の花言葉▶︎『私を忘れないで』『真実の友愛』
出演▶︎朔間椿
作▶︎つーちゃん。
企画 CROSS×CHAIN様
https://nana-music.com/users/8832729
椿くんのプレイリストはこちら▼
https://nana-music.com/playlists/3342893
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