荒野より
中島みゆき/キャプション:あいまいえいみぃ
荒野より
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#七色連歌
小波水無子:上野
また、この季節がやってくる。
また、祭がやってくる。
でも、彼はまだ……帰らない。
「ねぇ、おねーさん。何を待ってるの?」
「夫を、待っているんだよ」
彼を待っている間に、もうお姉さんなんて歳ではなくなってしまったけれど。
私が彼を待っている時間よりも幼い少年は、不思議そうな顔で海を見る。
まだ静かな船一つ見えない海に首を傾げて、少年は希望に満ちたキラキラした目で私を見上げた。
「おっと?んーと……おとーさんのこと?」
「……うん、そうだよ」
今すぐ帰ってきてくれても、私もいい歳だから子供は難しいかも知れない。
私たちがお父さんお母さんになるのは、これからだと少し。
「そっかぁ!はやく、かえってくるといいね」
「ありがとう」
事情を知らない少年は、無邪気に海へ向かって語り掛ける。
お姉さんのお父さん、早く帰ってきてあげてって。
多分、やっぱり夫って言葉の意味は分かってないんだろうな。
ちょっと意味が変わってくる言い方に幼さを感じながら、私は黙って水平線を見つめた。
「あ、おとーさん!おかーさん!ちーちゃん!」
「お迎えが来たの?」
大きく頷いて勢いよく立ち上がった少年は、遠くに見える三人に目一杯手を振る。
薄暗い向こう側から振り返される手。
振り向いた少年は幸せそうに笑って、私にも手を振った。
「おねーさん、バイバイ!」
「はい、バイバイ。砂浜だから気を付けてね」
家族の後ろ姿を見送って、また波を見つめる。
「まだ、まだ、待っているから」
この世界のどこかに君がいてくれればいい。
君との日々を思い出せば、いつまでも待てるよ。
例え君がどこにいても、例えどれだけかかっても。
君が迷わないように、ここから呼び続けるから。
世界が壊れてしまっても、私は信じてる。
君が私を呼ぶ声も、笑う声も、確かに覚えてるの。
「 」
いつまでも、君を待つよ。
誰が何を言っても、私は後悔しない。
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