3人が送る流れ星
i☆Ris
3人が送る流れ星
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「…はぁ…相変わらずですの…お爺様はお祭り好きな上に、やると決めたら納得できるまでやらないと気が済まない方ですわ」
二国の文化が複雑に入り交じった豪華絢爛この上ない装飾が街の隅々まで凝らされていた。二国の誇りをかけた退神式、既に嘉嘉から離れている翔華にまで師匠の号令がかかった。祖父のやり過ぎな演出にゲンナリして溜息をつく。
「哎呀ー!!凄いヨ!!凄いネ!!何処も彼処もキラキラネ!!いつもの龍の飾りが…えーと…え…えきとちっく…ネ!!」
それを言うならエキゾチックですわ!うっかりツッコミを入れた自分にまた溜息。そろそろ嘉嘉の陣営に辿り着く頃だ…
「哎!やっと来たな!妹達!会いたかったゾ!!」
一人の女性が陣営のテントの外で2人を待っていた。見つけるやいなや土煙を上げながら駆け寄り、2人まとめてガシッと抱擁した。
「わーい!白姉弟子!!お久しぶりヨー」
「ちょっ!真白!!相変わらずの馬鹿力ですわぁ!苦しい!!離しなさいなぁ!!」
真白、その名の通り、髪の毛や耳に生えた羽、まつ毛に至るまで真っ白な毛が特徴のセイレーンである。小柄な2人に対して、彼女だけ背が高い。
「セイレーンって、線が細くてお淑やかなのではなくて!?真白は全く真逆ですわ!」
「えへっ翔華に褒められちゃった」「褒めてない!」
真白は天賦の声量を誇っていた。声量を活かし強い音波を発声させるまでに至ったのだが、その強すぎる力故にセイレーン一族から追い出され、大道芸人として師匠に拾われたのだ。2人が修行するより数年前のことである。
1日プログラムの話し合いと入念なリハーサルを続けた。そして翌日、ついに笑顔を届けられなかったイキガミ様にリベンジする日がやってきた。前夜祭から盛り上がっている住民達の期待が渦巻いているのが空気から伝わる。ついに銅鑼の音がショーの始まりを伝えた。門下生の踊り子全員で華やかにステージを彩ると、巨大扇子に乗った嘉嘉No.1の師範代が舞い降りた。人間の男性らしいが、正直本当なのか全く分からない。曲に合わせ、危険な演目をするのだが、演目に合わせて性別や種族、歳すらも早着替えで変化させていった。変身と演目のレベルの高さに皆息を呑む。
次は門下生が各々得意な演目を披露。最後は小さな子供達の可愛らしいショーで会場を湧かせた。
「翔華も子供の頃こんな風にショー出てたカ?」
「ワタクシは他のちびっ子とは格が違いましたわ!特にあの時は…」
「哎!師匠だ!!妹達、準備準備!!」
ステージの八方から赤い布がテープのように中央に投げ込まれたかと思うとグルグル巻かれ、ミイラの様な塊になった。はらりと布が解けると花弁となってハラハラ落ちる。その中には鋭い剣の刃先に立つ師匠。剣は形を変え大きな龍になった。
「かの土地を守護し、生きながらに神として民を率いて下さった、イキガミ様…その幼い身に余る労、思いを馳せる度老耄は頭が上がりませぬ。どうか最後のこの日、腹の底より笑い、驚き、楽しんで頂きたい。それが嘉嘉の民にできる精一杯の恩義。我等一門、最高の団員をご用意しました。あたしの可愛い弟子の演し物、とくとご覧あれ!」
シャンシャンシャン!!囃し立てる様な銅鑼、初めて舞台に立った時より緊張するかも…メアリですら怖気ずく舞台が幕開ける。
「レディース&ジェントルメン!」
「これからお見せする手品には!」
「タネも仕掛けもございませン!」
手品を得意とする翔華を中心にショーを展開する予定だった。…のだが…巨大なシルクハットからは何も出てこない。
(どういう事ですの?火薬が点火しない!)
(…翔華のすてぃっくに細工するの忘れたヨ!)
ザワつく会場、次第に大きくなる2人の声、最初はポカンと見つめていた真白だったが…
「ふっ…ふふふっっ!うははははははは!!!」
堪らず笑いだした。地獄のような舞台上、慌てふためく2人が面白くてならない。腹を抱えて大笑い。笑い声が強い衝撃波となって2人を吹き飛ばし、ステージの備品を大破させた。
「あああ!めちゃくちゃですの!怒りましたわ!」
飛び散る備品の欠片に、1、2、3とスティクを振り回し、全てアライグマに変えてしまった。アライグマは真白に襲いかかる。
「わぁあ!止めるネ!ショーが台無しヨ!」
メアリは走りよると、ほっ!はっ!と手足を全て巧みに操りアライグマを宙に放り投げた。アライグマは破片へと姿を戻す。
「さっすが!自慢の妹達!これならどうだ!」
真白は独特な発声で声を上げると、破片は砕かれ粉々になった。服が汚れますわ!と怒った翔華は全てを金の紙吹雪に変えた。どよめきと拍手の嵐、筋書きから離れた舞台は暴走しながら進む。
紙吹雪を声を使って巧みに操る真白、その紙吹雪を時折ボールや剣、輪っかに変化させる翔華。そして、紙吹雪と共に舞いながら、変化した道具でショーをするメアリ。見事な連携プレーで瞬きも許さない変幻自在なショーを進めていく。
「最後に、姉弟子方!お願いネ!」
メアリの号令に2人は頷く。紙吹雪がシルクハットに集まると、翔華が丁寧にスティクをかざしてカウントダウンした。真白が1番の大声で紙吹雪の塊を空高く飛ばすと、メアリは静かに詠唱し空へと舞い上がる。
「辛い事も、痛い事もあたネ。笑う事が出来ないのも辛いヨ…でもネ、流れ星が落ちた日に生まれてくれて、イキガミ様になてくれてありがとう…お陰で、こうして巡り会えたヨ。さぁ、笑っテ!」
メアリが手を広げると、翔華によって光の玉に変化された紙吹雪がキラキラと流れ星のように無数に舞落ちた。見つめ合うメアリとイキガミ様。2人は頬を濡らしながら、めいいっぱい笑い合った。
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嘉嘉とイキガミの国に深い国交が出来ました。
(本クエストに参加してくださったおふた方に感謝致します)
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