その風に存在をのせて
livetune feat. 初音ミク
その風に存在をのせて
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「…CMを一緒にやってくれませんか?協力者募集!…何でも屋ちぇり…」
雨上がりの昼過ぎの事、水溜まりに気を付けながら、店の外を掃除するフィーの元に郵便が来た。一通り目を通していると、理事会からの知らせ。何気なく読んでいくとまさかの友人の名前。
「…フィーちゃん!それを見てくれてるってことは、まさかぁ!」
わぁあっ!!驚きのあまり水溜まりに突っ込むところだった。チラシに気をとられ、目前まで近寄っていたちぇりに全く気づいていなかった。胸を押さえて目をシパシパさせるフィーに構わず、目から星が落ちそうなぐらいキラキラ輝いた眼差しを送り続けるちぇり。尻尾はちぎれて飛んでいきそうな程、狂喜に震えていた。
「…あ、いや、これついさっき届いたの…」
「あ!もしかして出張所に行くところだった!?大丈夫!ニフさんには私が伝えておくね!フィーちゃんが手伝ってくれるなんて…くぅぅうん!嬉しい!!」
ああ…ダメだ、フィーは痛感した。この笑顔をぶち壊すなんて私にはできない。一欠片の疑いも持たず、すでに二人で宣伝する事へ思いを馳せているちぇり。フィーは呆れつつも、つられて笑顔になっていた。さて、掃除も切りがいい。たまにはいつもと違うことをしよう…。
「…とは言え…」
そもそも、チラシを受け取ったばかり、参加するなど思いもしなかったので、突然アイディアを!といわれても、出てくるはずなどない。なんだか全く力になれていない自分が不甲斐なくて、隣で腕を組んでいるちぇりを見やる。眉間にシワを寄せつつ、むむむむむぅ~!と唸って見せているが、正直な尻尾が、楽しくて仕方ない彼女の心を暴露していた。ふふっと笑ってしまった…ああ、素敵な彼女にもっと笑顔になってほしいな。フィーも必死に頭を捻った。
一時間経過した。悩みに悩んでも成果がでない。フィーの手帳に形になりかけたボツ案が、沢山書き殴られていた。チラシ配り、歌う、叫ぶ!何か…踊るとか?驚き、目を引くような、知ってもらうには?…見直してみても、何を書いてるんだかもう分からない。2人で顔を合して笑いあった。楽しい時間、なかなか進まない話し合い。
埒が明かなくなりしびれを切らしたのか、ちぇりがぴょこ!っと椅子から飛び降り、店を見渡す。すると小さな茶封筒に愛らしい絵の描かれた種袋が綺麗に整理されて陳列されている棚が目に入った。たくさんの種類と絵に、尻尾をユラユラさせながら見つめる。
「…可愛い!ねぇねぇ、フィーちゃん!昔、児童院で植物の種をお世話になった人に贈る授業しなかった??懐かしいなぁ!」
「…え?いいえ…贈るといえば、私は蝋燭灯篭に手紙を括りつけて飛ばす授業を受けました。暗くなってから児童院に皆で集まって…楽しかったなぁ」
お互いの経験を素敵だと讃えながら、過去の思い出に浸る…微笑んでお茶に口をつけたフィーの横で、はぅあ!!と妙な声でちぇりが叫び出した。
「今…私たち、凄くいいアイディアのヒントを掴んでない!??そんな気がするぅ!」
びっくりしてお茶が口にかかってしまった。フィーは口を拭きながらも、なんの事だろうと頭を傾げた。
「灯篭に何でも屋のチラシをつけて飛ばすの!そしたらもしかしたらキリエの外にも届くかも!それだけじゃ見てくれないかもだから、花の種をつけようよ!フィーちゃんのお店の宣伝にもなるね!」
フィーの目の前に、種を抱えて空を舞う灯篭が浮かんだ。空飛ぶCM…フィーの蜻蛉の羽が細かく震えた。なんて素敵なんだろう!!2人の心は決まった。早速飛ばす灯篭と種、チラシをかき集めて時間の許す限り準備をした。
1日雨の降らなかった穏やかな初夏の夜、2人は商店街の広場に集まった。ちぇりが抱えた灯篭に、フィーが小さな花炎石を使って1つずつ願いを込めて火をつけた。ふわり、またふわりと使命をぶら下げて灯篭は空を舞う。薄暗い空に白い月と煌めき出した星々、風に流れていく灯篭の白い点々が大空を飾っていた。
「凄いね…」
フィーは呟くように言った。ちぇりは無言でフィーを見つめる。フィーは空に目を向けたまま、大きな瞳で気持ちを伝える。
「お店が、仕事が、私たちの存在が…風に乗ってキリエの外にも届くんだ…顔も知らない誰かに…キリエの外にも世界があるのは分かってるのに、なんだかそれが物凄い事に感じるの。ちぇりちゃん…ありがとうございます…」
静かに震える感情が、2人の瞳に涙を誘った。
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灯篭でチラシを撒きました。
(ちぇりの何でも屋 売上1)
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