同じ目線、同じ心
Aimer
同じ目線、同じ心
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「わーお、ニンジャソードね」
「…え?どこの言葉だ、それ」
くないの詰まった木箱の前に店の店主、その隣には極楽鳥…ではなくヤミィがいた。今日は一段と派手である。
「ちょうど今日の勉強会で、はるばる極東の国からメイクの勉強をしに来た子がいたの。その子から色々教えてもらった極東の文化…面白かったわ。でも、顔面真っ白にするメイクだけは理解出来ないけど」
ヤミィ主催の合同勉強会、様々な街から情報交換のために、同業者が集まる。なるほど、だから今日こんなに派手なのか…。
「その子が持ってたものそれだったから知ってるのよね。ニンジャソード」
ドヤ顔のヤミィに、くないだっての!と突っ込むジーグ。しかし、これは思わぬ幸運だ。自分より用途を知っている人物と話したタイミングでヤミィを呼べたのだから。
「これが困るほど売れ残ってんだよ。発注先が間違えやがって…仕方ないからうちで売ってるんだが、キリエではあんまり浸透してない武器だから、他の武器ばっかり売れる。…なぁ、なんかいい販売方法ないかなぁ?アイディアをくれよ」
ヤミィは静かに腕を組み、片手で顎を支えながら真剣な表情でしばらく沈黙した。…浮かない顔。
「なら、私が全部買うわ。いいでしょ?」
「は?!全部だと?ニンジャソード…じゃない、くないなんて、サロンでなんに使うんだよ!?」
「やーね、お金ならあるわよ」
「そんな心配じゃない!」
ヤミィは一息ついて、少し悲しく笑う。
「…くないは汎用性の高い武器。短剣としてだけでなく、スコップや杭としても使えるの。…その子も呪詛を施して杭として使ってたわ」
くないを取り上げ手持ちの上の輪っかを指差す。
「ここに強い魔よけの呪詛パーツをはめ込んで、陣を描くように自分のエリアの外に打ち込むと簡易的な魔法陣ができるの。その子はキリエに来るまでの旅の間、野宿しなければならない時にテントに打ち込んで使ってたそうよ」
「なるほど、面白いな!…サロンを囲うなら、この半分以下で充分足りるはずだ、手伝うよ。」
「手伝ってもらうわ、当然。でも打ち込むところは違う。…この街全てよ」
「は?軍や理事会でもないのに何で…!?」
ふーと長い息を吐きヤミィは静かに目を閉じた。
「強力な魔族に襲われたのは…ジーグ、貴方だけじゃないかもよ?…忘れてたいけど…てるてる坊主に断片をこじ開けられたわ…大した力にならなくても、この街も同じ恐怖には襲わせたくない…だから、これ全部欲しいのよ」
…そういえば、ヤミィは何故中性なのか。特殊な条件下で産まれることはあっても、身体的に中性になるのは何かの要因がある。自分は瘴気による後天性のものだが…彼は…?重い木箱を持ち上げようとするヤミィを制止して、お前は客だからとジーグが木箱を担いだ。
魔除けの陣を張る許可をニフに申請し、受諾を受けて、さとらの元へ。事の説明をする。
「へえぇ面白いこと考えるのね、極東は。そんな陣の作り方があるなら、アカツキさん教えてくれればよかったのに。わかったわ!私も是非協力したい!結果も気になるしね!私もくないを買うわ。呪詛を施す金額を相殺してタダにしてあげる」
さとらの思わぬ快諾に2人は目を見合わせて微笑んだ。ただの売れ残りがちょっとしたプロジェクトへと成長している。
数日後さとらから連絡が入り、2人は呪詛屋へ向かった。そこにはニフと軍人が3名。門の装置を直した時に対応していた門番もいた。ジーグとヤミィの街を守る活動に賛同して、皆で数本くないを買い、街の外に刺し込む手伝いをしたいのだそうだ。ヤミィ1人で買うはずのくないが、沢山の人に売れていった。しかしジーグもまた、この活動を成功させたいとくないを原価まで安くした。誰も得をしない商売。けれど皆の目は輝いている。
「キリエの外に出る時はいつもドキドキします」
「うっかり襲われないでよ?ニフ」
後ろでさとらとニフの会話が聞こえる。
「我々自衛軍はニフさんとさとらさん各人とペアーを組み、残り1人は単独で動く3つのグループに別れます。あと1組はおふた方で大丈夫でしょうか?それとも、応援を呼びますか?」
門番がジーグに話しかけた。2人は顔を合わせてニヤリと笑った。
「こいつが居れば十分だ」「彼が居れば十分よ」
さとらの指示の元、指定された場所へ向かい、くないを数本刺した。そして呪詛を起動する祝詞を唱えながら手を組んだ。そうして待ち続けると、全てのくないが無事に刺さったのだろう。呪詛から光線が走り、街の上空で複雑な陣を描いて消えた。
「…これが上手く機能するといいわね」
「なあ…」「ん?」
「思い出したくないなら、私は何も聞かない。ただ…お前も辛い思いをしたのに、自分ばかりが辛いって、瘴気の化粧までさせて…すまなかった」
梅雨の間のひと時の晴れ間、気持ちのいい晴天と少し冷たい風。ヤミィは空を仰いで目を閉じた。
「私は前しか見えないの。過去は忘れたわ。だから、その時どう思ったかも忘れた。今はただ、こうして2人で同じ望みを持って、同じ方向を見てる事が…ふふ、不思議ね…とてもときめくのよ」
美しく青空に溶ける金髪をたたえた麗人を、少し高鳴る胸でジーグは見つめていた。
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キリエが魔除けの陣で守られました。
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