「囚われの文化財」(星干し)
秘密結社 路地裏珈琲
「囚われの文化財」(星干し)
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装備は完璧、お菓子は持った、地図もしっかり分析済み。青い蜜蜂を探しに出かけた夏の日以来、久々にからったリュックサックは、とても心地の良い重さで背中を守ってくれる相棒だ。
会議中盤、相変わらずの過保護なパパが抜け切れないサトウさんに、私は半ばやけになって、ごく丁寧な駄々っ子をおもいっきり投げつけた。
「ここは一発、資源を当てるに限ります!!だって、見たくないですか!?このご時世に残された、前人未到の地下空洞!!仮に空っぽだとしても絶景ですよ!?ゴープロで、ちゃんと中撮影してきますから!!」
説得力をかなぐり捨て、引き込み力に振り切ったフレーズ。それにほだされて、サトウさんは渋々ながら採用を言い渡したのだった。細切れにされたパソコンの画面上で、すっかり自粛期間に髭も白髪もボサボサに伸びた教授達と続けた議論の結果、私、星こ隊長率いる路地裏探検隊が進むのは、一番険しくて未知の要素が多いルートになった。路地裏探検隊と言っても、今回ほかのメンバーはみんなそれぞれ仕事があって連れてはいけない。なので、ポプカちゃんに、協力な助っ人を雇う為の交渉と通訳をお願いした。原住民の言葉がある程度分かって、友好的で、やる気と好奇心が強い方......という私の求人に、ピッタリ合致した素敵なバイトさん達が、ちょうど居たのだ。
「いいですか、タヌキさん。星こちゃんの言うことをよく聞いて、迷子を出さずに、ちゃんと帰ってきてくださいね。報酬は、即日どんぐり払いでお渡ししますので!」
かくして、言葉がなんとなく通じている感じの、もこもこで頼もしい仲間たちに囲まれた私は、ヘッドライトを頼りに巨大地下空洞の第一層へと飛び込んだ。それはもう、最初っからクライマックスの地下迷宮に。
入って早々、廃坑のレールを見つけて全員で大はしゃぎした。側では死にかけの大きなトロッコが脱線していて、おそらく貴金属系の資源を搬出していたであろう、採掘の道具が朽ちている。事前の考察によれば、周囲の河川に特殊なミネラル分が多いから、宝石の類が眠って居ると思ったのだけれど、これは嬉しい予想外が芽生えたものだ。私があちこち撮影している間に、ふと、がっこん!!と重い金属音がしたので、びっくりして護身用のエアガンを構えたら、スズキさんを倍に膨らましたような屈強な男に化けた隊員たちが、レールにトロッコを敷き直して居るじゃないか。どう見てもブレーキは壊れて居る。多分乗ったら最後、どこかで落ちるか衝突するまで止まらない。
けど、乗る。だってロマンだから。
7匹の毛玉と私を乗せた暴走列車は、美しい蛍光を放つ水晶のトンネルを抜け、途中、侵入者にブチギレる蝙蝠に怒られて、果てはお決まりの大岩に背後からチェイスされるという貴重な恐怖体験に見舞われながらも、着々と最深部へ近づいてゆく。予想に反して静かで真っ暗な道が延々続いて、不安になったら、何度もみんなで遠吠えして励まし合った。レールの終点には、減速用の磁石か何かが仕掛けてあったのか、自然と緩いブレーキがかかって、丁重に停車したのだけれど......嵐の前の静けさってやつを私は何度も体験したから、それが、真のクライマックスの合図だってことを確信したのだった。
まるでホールにでも居るような音の広がり、規則正しいカルシウム質な物音、なんとなく騒めく胸の内。
せーので一斉に起動した大型のLEDライトが、ついに暴く。
「........わあ」
金銀銅に、オーロラみたいな鉱石で築かれた大聖堂、それだけなら最高だったのに...
どセンターに鎮座する豪華絢爛な棺と、こちらを物凄い殺気で睨めつけて身構える、武装した骸骨の群れ、群れ、群れ。
こういう時はどうするかって?決まっている。私は隊員たちに、しっかり抱き合ってしゃがむよう指示して、素早く十字を切った。ただし、頼るのは神じゃない。自分の判断力と、お父さんが出掛ける時に持たせたがる護身グッズだ。ごめんなさい、そしてさらば人類のロマン、私は仲間との約束を果たさねばならないので。
おやつと一緒に渡された、ニトロ入りの麻袋、そしてそれを追うように着火されたマッチが地に落ちる。程なくして轟音と共に、私たちを乗せた頑丈なトロッコは、爆風の追い風で半ば吹き飛ばされる形で、悲鳴を撒き散らしながら激動の帰り道を駆けて行ったのだった...。
一塊の、黄金を乗せて。
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「うわー、これ......ゴープロの画面、オーブと発光だらけじゃない、見てスズキさん」
「何でお前はこう、毎度すれすれの仕事に見舞われるんだろうな、星こ」
「でも、でもほら!!この塊と、ポプカちゃんの宝石で、アクセサリー作って打ったらきっと大儲けできちゃうので...!!」
「そう、スズキさん、これは結果ハイホー」
「銀ちゃん、それね、結果オーライね」
星こちゃんとタヌキの大冒険、本格派ジュエリーで千七百万の大儲け!
.......なんだけれど
※特別なお話に続く
https://nana-music.com/sounds/05896622
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