*ハロー、プラネット。
sasakure.UK/キャプション:上野
*ハロー、プラネット。
- 19
- 2
- 0
#七色連歌 #白波のさざめき
大丘託美:スライムてきながくせい
妹が生まれてきた日を、俺は今でも鮮明に覚えている。
『託美、今日からお兄ちゃんよ』
母の腕の中で静かに眠る妹に恐る恐る手を伸ばすと、小さなその手で、しっかりと俺の人差し指を握った。まだ生まれたばかりとは思えないほど、強い力だった。
その時俺はこの小さな命をどんなことがあっても守ろうと心に誓ったのだ。
それからの俺はこれでもかというくらい妹を可愛がった。泣けば全力であやし、お腹が空いたと泣けばミルクだって飲ませたし、率先してオムツだって替えた。初めて喋った言葉は「ママ」でも「パパ」でもなく、「にーに」だった。遊びに海にだって連れて行ってたし、妹の要望は出来るだけ応えてきた(つもりだ)
『お兄ちゃん、大好き』
向日葵みたいな、太陽のような笑顔が俺は大好きだ。
それは、今も変わらない。変わらないのだけれど…。
「なに、お兄ちゃん」
「何ってなんだ。お前こんな時間まで何してたんだ?」
「友達と勉強するって言ってたじゃん。メール送ったし」
「それにしたって遅すぎるだろ?!」
「まだ20時だよ?!そこまで遅くないでしょ?!」
「い~や遅い!門限は19時だって前に言っただろ」
「それ言ってるのお兄ちゃんだけじゃん!!心配しすぎ!」
「可愛い妹のことを思ってのことだ。心配するのは当たり前だろうが。で、今日は誰と会ってたんだ?まさかお向かいの…」
「お兄ちゃんほんっっっっっとうにウザい!!!!!!」
妹は反抗期なのか、時々俺に向かって「ウザい」という。それはまるで鬱陶しいと言わんばかりに。周りから言わせれば、「構いすぎ」「溺愛しすぎ」「そりゃそう言いたくもなるでしょ」と明らかに俺が悪いというのだ。
仕方ないだろう。あんな可愛い天使ように愛らしい妹がいたら、めちゃくちゃに溺愛するに決まってんだろう。とまあ真顔で伝えれば、苦笑いされるが、事実だから仕方がない。
「お兄ちゃん」
「ん?なんだ?」
「今度やる白波祭、お兄ちゃんも行くの?」
「おお、行くよ」
「ここ数年行くようになったよね。前まではあんまりよく思ってなかったのに。さては、「あの人」に会えるかもしれないって、それを狙ってお祭にいくの?」
「なっ、なんだよ、あの人って」
「とぼけないでよ。この間漁の見学に来てた、一目惚れしたあの人のこと」
「は、なんで、知って…」
「お兄ちゃん分かりやすいんだもん。で、どうなの?」
「べっ…別にそういう目的で行くわけじゃないよ」
「本当に?」
「本当に!」
「じゃあ、なんでお祭りに行く気になったの?」
「それは…」
俺の顔を覗き込むように妹は見つめる。くりっと丸い黒目はどこかキラキラと輝きを持っている。そんな妹に小さく笑い、
「秘密」
「えー!教えてよー!」
教えて教えてと身体を揺さぶられて、頭が揺れる。ちょっと力強くないか、妹よ。
本当は、お祭りではしゃぐ妹が可愛いから…。なんて言ったらまた「ウザい」と言われそうなので、黙っておくことにした。
俺が喋らないと分かったのか、妹は俺を揺さぶるをやめた。
先程見た、黒いのにキラキラと光る瞳には、妹の「未来」をあらわしているように見えた。これから来る「未来」への希望のように見えた。
例え、俺がこの町だけで生きたとしても、妹には町を出て、広い世界を見てほしい。自分の人生を存分に謳歌してほしい。
「なあ」
「ん?なに?」
「人生楽しく生きろよ」
「いきなりどうしたの、お兄ちゃん」
「いや、なんとなく思っただけ」
そう言って柔らかい妹の髪をわしゃわしゃと頭を撫でた。
「もう、やめてよお兄ちゃんっ」
撫でる手をはねのけようとする妹の顔は、言葉とは裏腹にとても嬉しそうに見えた。
その笑顔は、まるで向日葵のようで。俺の大好きな笑顔がだった。
大切なものは、今も変わらない。
Comment
No Comments Yet.