船。
紙炉 命
船。
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冒険って素敵ですよね。
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「僕はこれから海に出るんだ。」
そう言った彼の笑顔は、とても眩しいものだった。
「怖くはないのですか?」
問いかけた私の声が震えていて、
そう思っているのは自分なのだと思い知らされる。
私は幼いころから海が怖かった。
広く果てしないこの青に飲み込まれてしまう気がしたのだ。
大事な夢も、かけがえのない家族も、
今日あったほんの些細な幸せすら、
全部、全部、なかったことになってしまうなんて。
そんなに恐ろしいことはない。
だから私は信じられなかった。
自分の作った大切な船を
わざわざ海へ出してしまうなんて。
「もし返ってこれなかったらどうするの?
その船が壊れて、元に戻らなかったら?」
私とは反対に彼は落ち着いていた。
「たしかに、怖いね。
でもね、広い海があるからこそ、
船には存在意義があるんだよ。
海がなければ僕たちは船を使えない。
船が使えなければ狭い世界でしか
生きていくことができない。
海は、少しのリスクと
大きな愛で僕たちを包んでくれるんだ。
僕はそんな海が大好きだよ。」
その時初めて、私は海と目が合った。
彼の眼と同じ色をした大きな愛を、
初めて美しいと思えた。
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#四ノ宮りゐオリジナル #朗読 #声劇 #1人台本
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- あびお借りします_(..)_