出逢の魔法
SEKAI NO OWARI
出逢の魔法
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「し、失礼しまぁす…」
ビクビクしながらノックした。武器屋…いつも鉄を叩く音や銃声等物騒な音がするし、見渡すばかりの武器、武器、武器…どうしてもドキドキしてしまう。私なんて場違いだよなぁ…。
「お?おぉ…シノか、珍しいな。来てくれて嬉しい…。すまん、今手が離せないから適当に座っててくれ。すぐ行くから」
お構いなく!と返事をする。ジーグさん…気だるそうだし、余り喋らないし、武器をいつも持ってて…怖いイメージだったけど、私を見て少し微笑んでくれてた…。シノはジーグの態度に少し顔を赤らめた。そうだ!待っている間に仕事を少し進めよう…カバンから書類と護身用のステッキを取り出し、ステッキを解体してペンに変えた。カチャカチャ…サラサラ…無言の工房に2人の作業がお喋りする。心地よい距離と空気。
「お茶も出さなくて悪いな。お待たせ…今日は理事会の使いか?」
「いえ!これです!興味が凄くあって!!」
シノはジーグのチラシを取り出した。動きにペンが引っかかり、コロコロと落ちてしまった。
「なんか落ちたぞ…ん?これ、ペンにしては魔道の流れがあるな…妙な作りだ…」
シノは嬉しそうに出張所の2階で出会った護身用のステッキの説明をする。
「ははは…!面白いな。生活道具と武器を合わせる頭は流石になかった。それにしても…かなり時間と金のかかったいい品だ…オーダーメイドの品だって思うほど、複雑な魔道の組み方だ。殆どの人は使いこなせないだろうな。馴染んでいるとするなら、これは相当の掘り出しもんだ」
お気に入りの品が褒められると自分を褒められているように感じ、嬉しくなる。とはいえ…
「それにしても、これは本当に…ほほぉ、そう来るか…ん?これはちょっと…うんうん…」
自分の為の道具を作ってもらうはずが、ジーグはステッキに夢中で何も話せない。うーん…困り顔のシノにはっと気付き、ジーグは赤くなる。
「あ!いや!その…すまない。つい…業を見せられると興奮して…。なぁ、もし良かったらそのチラシの依頼、私に全て預けてくれないか!?」
爬虫類の目を輝かせてじっとシノの顔を覗き込んだ。ジーグさんに完全おまかせ…これはなんだか楽しみだ。シノは、はい!と二つ返事で答える。工房を出る時ジーグからの質問が飛んだ。
「なぁ、このステッキを気に入ってるようだが、よく使ってるのか?」
答えるかわりに、笑顔を向けた。
ペンなんて今まで適当に出張所にあるものを使っていたし、ジーグに預けた今、それに戻っただけなのに何となくいつもの握り心地じゃない…小さな違和感。カバンを開けてもあのステッキが無い。それだけで少し寂しい。ふふ、変なの!と自分の変化に笑ってしまった。そういえば、あのステッキはどんな人が作ったのだろう。いつ頃作られて、私の元に来たのかな…眠りに着く前、ぼんやりと見たことも無い職人達に思いを馳せる事が増えた。そんな日々を数日越えやっとジーグが出張所に現れた。暇な時に来て欲しいとの事だが待ちきれずに急いで仕事を終わらせ、走って夕闇の工房へと向かった。
「本当に面白いもん持ってきてくれてありがとう。返すのが惜しいな」
優しく微笑むジーグ。あまり見ない表情にドキリとする。ステッキを取り出し、一撫でする。
「これは知恵に関係する魔道力に似せて作られている。きっと理事会や大国の秘書官や図書委員なんかの為に作ったのかもな。どういう訳かバザーに流れたようだが。シノの憑神は知恵のトートで、千里眼に情報処理…特殊職が欲しがる様な魔法使いだ。だからこれが使いこなせたんだろうな」
不思議…特別な仕事をする人の為に作られて、出番を待っていたこの子が、理事会員の卵の私に出会うなんて…運命って本当に魔法のようだ。
「私としては…これだけ丁寧に作られた手仕事は時が経ってジャンクに回されてしまっても、しっかりと人に愛され、使い続けられるって事に感動する。もしこの作者が死んでも、シノや次にこれを手にする奴の中で、魂は新しく生き続けられる…私もそんな職人になりたいもんだ」
そういうと、ターコイズと海のうねりの様な銀細工の髪飾りと黄色のトパーズがあしらった革製のステッキホルダーを手渡した。
「知恵に作用するステッキの構造を真似て、よりステッキと魔法を操作しやすくするため、知識の在処である頭に取り付ける魔道装置を作ってみた。せっかくだから装飾品にしてな。水の加護も受けられるように、銀に呪詛も打ち込んである。後はホルダーだ…カバンに入れるんじゃ取り出しにくいだろ?カバンの外や服のベルトに取り付けられる。ホルダー自身も所持者の魔除にもなる。こいつらも大事に使ってやってくれ」
帰りまで待てず、ジーグの目の前で髪飾りをつけ、ステッキをホルダーにしまい、カバンに取り付けた。ステッキを持っていなくても、頭が少し冴えている感覚…。喜びで言葉に詰まり、爛々とした目をジーグに送り続けるシノの姿を見て、物も魔法が使えるんだなとジーグは幸せそうにまた微笑んだ。
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髪飾りとステッキホルダーを手に入れました。
(ジーグの武器屋 売上2)
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