ありがとう
エリオット&ルピナス
ありがとう
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時計塔が6つの時を鳴らす前に
エリオットを起こすのはルピナスの仕事。
勿論、ルピナスが一緒に住み始める前には
エリオットは自分できちんと起きていたので
最初は必要ないと断られた。
けれどルピナスは頑張り屋さんのあの子に、
できる限りの事をしてあげたいと思っている。
蜂蜜を溶かした甘いホットミルクと
ストーブの前で温めておいた着替えを持ち、
部屋の扉をノックすると、
いつも通りエリオットの「どうぞ」という声。
部屋に入ると、エリオットは
丁度ベッドから身を起こすところだった。
「おはよう、エリオ!今日はいい朝よ」
「うん、おはようルピィ」
カーテンを開けて陽の光を部屋に入れ、
窓を少し開ける。
春の初めはまだ朝は少し冷える。
冷たい、けれど清々しい風が部屋を通り抜けた。
「さあ、着替えはこれよ。手伝いは…」
「だ、大丈夫…!それくらい1人でできるよ」
「そうね…あら、でも寝癖がついてるわ。
私がなおしてあげるからここにいらっしゃい」
手招くとエリオットは躊躇うように
服の裾を両手で引っ張っていたが、
暫くするとおずおずと
ベッドに腰掛けるルピナスに並ぶように座る。
ルピナスはその様子に微笑みながら、
櫛で髪を直し始めた。
「あぁ、そうだわ。髪をとかしている間に、
冷めてしまわないうちにミルクを飲んでね」
「ありがとう。………うん美味しい」
「良かった。それから朝一に郵便屋さんが
お手紙を何通か持ってきてくれたの。
着替えの横に置いておいたわ」
「手紙?一体だれか…ら……」
宛名を見たエリオットの手がびくりと震え
もう片手からカップが滑り落ちる。
ルピナスは慌ててカップを受け止めた。
「どうしたのエリオ?」
「と、父さんの字だ…母さんに…何か……」
「エリオ!……大丈夫、私がついてるわ。
ゆっくりでいいから、手紙を読んでみて…」
動揺に震える手をそっと握ると、
エリオットは微かに頷いた。
ゆっくりと手紙の封を切り目を走らせる。
「…………どう?」
「母さんの体が……少しずつ良くなってるって」
「まぁ!良かった…良かったわね、エリオ!」
「うん…うん……!良かった……。
まだはっきりとは分からないけど……、
新しく飲み始めた薬が効いてるんだって」
涙ぐみながら、指先で何度も文字を辿る。
「この調子で元気になったら、
夏頃には退院できそうだって。
そしたら…家に戻ってきて良いって…」
「本当に?夏が待ち遠しいわね…。
私も早くエリオの家族に会ってみたいわ」
「ルピナスを連れて帰ったら、
きっとみんなびっくりすると思うな」
「ふふふ。エリオの家に帰れたら、
皆にパイを振る舞ってあげたいわ。
得意料理なの。お姉さん頑張っちゃう!」
「う、うん、ほどほどにね……」
2人が夏を夢見る部屋の窓の外には真っ青な空。
春風が窓にふわりと花弁を運んだ。
この春が過ぎれば──
きっと、今までで1番素晴らしい夏が訪れる。
#EQCENTRIEQUE #エリオット #ルピナス
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まぶしい朝に 苦笑いしてさ
あなたが窓を開ける
舞い込んで未来が 始まりを教えて
いま輝いているんだ
“あなたの夢”がいつからか
“ふたりの夢”に変わっていた
今日だって いつか 大切な 瞬間(おもいで)
あおぞらも 泣き空も 晴れわたるように
“ありがとう”って伝えたくて
あなたを見つめるけど
信じたこの道を 確かめていくように
今 ゆっくりと 歩いていこう
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