赤い糸の花
麻倉もも/HoneyWorks
赤い糸の花
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「ええーと…なるべく手のかからないものだと…後!場所取らない小さい鉢がありがたいです!」
人間の子供用程の大きさのカップに人形用のさらに小さなカップが並ぶ。様々な花の香りが漂う小さな園芸店の小さな小さなお茶会。フィーのイベントに、生活に潤いをとシノが参加してきた。真剣な顔でシノの言葉をメモする。
「なら、今の季節から始めるのにちょうどの苗があるんです。待っててください!」
「わぁあ!植物を育てるの、ちょっと憧れてたんですよね。なんか可愛らしくて!実は大学に憧れの先輩が居て…女の子らしい子が好きって噂を聞いて、お裁縫に挑戦したけどアッサリ挫折しちゃって…花壇のお世話とかしたら先輩に声かけられたのかな?お花に囲まれながら…なんて…えへへ、変な話してすいません!」
フィーは苗を持って飛んできた。トンと机に置いてシノを見すえる。薔薇みたいに真っ赤な顔、恋に潤む目…無言でしばらく見つめたあと、フム…と息をついて試しに口走ってみる。
「とても強く日にしっかり当ててあげれば元気に育つ種類で、小さめの物を持ってきました。どうぞ!…ちょっと自慢話してもいいですか?」
フィーはもうひとつ、既に鉢に丁寧に植えられている植物を持ってきた。
「アイラの苗です。別名赤い糸の花…世界樹で手に入れた、非常に珍しい植物です。温度管理に土づくり、水遣りに至るまで、細心の注意が必要なとても難しい種類です。ですが…」
シノをちらりと見る。
「この花を相手にプレゼントすると恋が叶うというジンクスがあって…とても人気の植物なんですよ。たまたま世界樹で種を拾えてラッキーです」
シノの顔色が変わった…話も終わり店を出ていくシノに手を振るフィー。シノの手には後から出てきた鉢植えと説明書があった。
まだ見ぬ花をプレゼントする自分を想像しながら早速説明書と睨めっこ。ズラリと並ぶ注意事項…栄養剤やジョウロ、虫除けのネットなど色々と買い揃え、アイラとの生活が始まった。とても繊細な植物。温度が変わらないように外に出したりランプの横に置いたり、水遣りも決まった時間に植物にかからないよう優しくかけた。文章で分からない事は何度もフィーに聞きに行き、メモをとりながらレクチャーを受け…仕事で忙しいのに、時間を見つけてはアイラのお世話、必死の努力とたっぷりの愛情を受けてすくすくと育つ苗。
「ふふふ、早く蕾が出来ないかなぁ…」
「本当に家族みたいですね。でも、疲れてないですか?はい、世界樹のお茶です」
ついには職場にも鉢を持ってきて世話をするようになっていた。初めは驚いたニフも、懸命なシノの姿にいつしか応援する様になっていた。
「お花が咲いたらプレゼントかぁ…喜んでもらえるかなぁ…」
シノの願いが届いたか、ついにアイラに蕾が付いたのだが…
「…なんか…トゲトゲして、変な色…可愛くない…思ってたのと違うなぁ…」
赤い糸の花という名前、ジンクスの期待が大きすぎて、蕾の奇妙さが際立った。蕾のせいか、タイミングが悪かったのか、花祭の準備も重なりアイラへの世話が少しずつおざなりになっていった。そんなある日、ニフから先輩が熱を出し赴任先の出張所を長らく休んでいる事を聞いた。不安に支配されるシノ。お見舞いに行けたらな…あ!お見舞いと言えば!!家に着くなり、アイラの元へと駆け寄った。本体はまだ元気さを保てていたが、蕾が憐れなまでに萎み、今にも落ちそうだ。見た途端、シノの心に今まで必死に育てて来た情が一気に湧き上がった。
「…ごめん!ごめんね!初めは先輩にプレゼントする為だったけど…葉っぱが増えるたびに、大きくなるたびに、すごく嬉しかった!私、あなたが大好きなのに!なんで…この気持ちを忘れてしまったんだろう!本当にごめん!!」
鉢を抱えてワンワンと泣き出した。仕事の疲れもあってか、鉢を抱きしめたまま眠ってしまった。
翌朝、固まった体を必死に動かしてシノは起き上がった。すると、目の前に鮮やかな赤が踊っていた。無論、綺麗に咲き誇ることは出来なかったが蕾は最後の力を振り絞り、枯れ落ちずに開花を迎えた。歪だが、この世のものと思えない可憐で美しい赤…。シノは震える手で慎重に花弁を1枚引き抜いた。
数日後、美しい花弁が添えられた見舞いの手紙にとても励まされたと感謝の手紙がシノの元に届いた。お礼に手紙の中に小さな花のチャームの着いたペンダントが添えられていた。
「花が終わったのにまだ育ててるのですか?」
相変わらず職場に鉢を持ち込むシノにニフは問うた。シノは幸せそうに微笑んで答える。
「上手く行けば二番花が咲くってフィーさんから聞いたんです!今度はちゃんと咲かせて、種を取ろうって思ってるんですよ!」
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赤い糸の花を咲かせました。
(フィーの園芸店 売上1)
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