【第3話】灰色の夢(第3節)殺意、感染
OCEAN TRAVELERS
【第3話】灰色の夢(第3節)殺意、感染
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【第3話】灰色の夢
(第3節)殺意、感染
その一声を合図に、総員がその場から疾駆する。
「あれを討て。」
懐から銃を取り出し、見据えた先の遠方へ穿つ。見知らぬ人からの贈り物がまさかこんな形で役立つとは思わなんだと失笑するのはナルセだ。
「先導どうも。」「いてきま!」
その実弾の軌跡を追う様に、ルリとアクアパンダが速度を上げてナルセの左右からグン、と飛び出した。
「頼もしいなぁ。」
クスリと笑いながら速度を緩める。このまま2人の後を追いかけて参戦するのもいいけれど、
「めんどくさくなりそうだし後で行くかなぁ。」
先程の勢いはどこへやら。ふわりと欠伸をしながらふらふらと歩き出す。
「あー、あそこで見るかぁ。」
意図的か否か、脱力した矮躯からは想像を絶する超人的な跳躍を放つナルセ。彼女の向かう先には赤く色付いた電波塔が聳え立つ。
「アブノーマルに攻めていこうぜ?」
誰も見ることの無かったその笑みの奥底に確かな殺意を滲ませて。時期を見定めるまで高みの見物を決め込む彼女であった。
「何してんだい?」「姉様?」
一声ののち、両の手に手袋をはめ込むサヨ。
「お前以外のものに触れる可能性があるのならば、この布は必須よ。それに、」
左目を宛がう黒布を取り除き、ラファ同様、普段は明るみに出ることのない紅の瞳をゆらつかせ
「チョンさんの足を引っ張るわけにもいかないでしょう?」
瞬間。その身を翻し瞬く間にラファの前へ躍り出たかと思うと
「ッ、」
遠方から放たれたのであろう着弾したソレを、黒布纏いしその片手で容易く振り払う。弾丸はギン、と鈍い音を立てて弾き返され、程無くして宙で爆破した。
「流石か。」「感心はあと。来るわよ。」
チョンの称賛を一蹴。迫り来る猛攻に備え、一向は遥か前方を睨み上げた。
「あーくさんのそれ、いいねぇ。家から持ってきたんかい?」
「いんや、これはれったかたんたんたかたーんに買ってもらったんよ。」
駆け抜ける道すがら、因みにこの子の名前は“ぱんつ丸”と笑うアクアパンダ。その腰に携えられた洞爺湖木刀も彼女の笑みに呼応するかのようミシリ、と啼ってみせる。まるで生きているかのように。
「へぇ、rrrrrrrrrったさんねぇ。神器とは羨ましい。」
刻まれるビートに負けじとうねる巻舌。
「うーん、神器……なのかねぇ?買って貰ったのには違いないけど。」
「いいじゃないか。神の手から渡されたものだろう?そりゃもう神器に違いないじゃないか。……それじゃあ私はこいつで応戦しようかね。」
跳躍。常人のそれを遥かに凌ぐ脚力を魅せ、眼前に迫った寺へ飛び上がるルリ。そしてようやく己の視界に捉えた眼下の標的へと一直線に、飛び掛り様に、
「イノチを刈り取るには、最適だろう?」
いつの間にやらその手に握られた漆黒の大鎌を、振るう。
「っ、」
突如襲い来るその刃の切先を見開かれた紅の眼光が捉えた。瞬時に身を屈ませその斬撃をいなし、渾身の込められた己の拳を反射的に突き上げる。
「らァア゛ッ!!」
ビュン、と弧を描き空振りに終わったその一撃。
「へぇ、いいのつけてるんだね?」
宙に浮きながらも今しがた大鎌を振るってきたルリを見離さぬラファの鉄拳には、鈍い黒光を纏った拳鍔がはめ込まれていた。
「随分、余裕そうだ…」そんな彼女の背後から
「なッッ!!!!」チョンが猛威を振るう。
「おっと〜!」
その変幻たる鞭の動きを見切っていたかのように、ルリの背後から飛び出したアクアパンダの木刀がそれを絡めとる。
「お前は…!」「さっきぶり〜、ちょんさん!」
にこやかに笑ってみせたアクアパンダの表情が一変。青の眼光を放ったその表情は狂気。ヘッ、と耳にまで届きそうなほど口元を裂き開き、その華奢な腕からは想像を絶する力でぱんつ丸を薙ぐ。
「チィッ、」
その反動に流されるがままに。彼女の力に抗えば己の腕が千切れ飛び且つ、今この手を離せば己の武器の反動で仲間を傷付け兼ねないと判断したチョンは、固く握り締めた鞭と共にアクアパンダの薙いだ後方へと放り投げられる。
「るーさんお先~」
対峙する3人を見やるも程々に、一笑したアクアパンダはその場から跳び去った。
「やれやれ、自由だな?」
そんな彼女を鼻で笑いながらも
「くッ、」「せっかちだねぇ、らっふぁさん?」
隙を突いたのであろうラファの不意打ちを見逃さない。その一撃を躱しながらも
「あぁ、後ろにもう1人いるじゃないか。」
標的全てを食い倒さんと言わんばかりにルリの視野は広がりを見せる。
「暇そうだね、さよさん?」
地を蹴り、ラファの後方でゆるりと構えるサヨ目掛けて
「おい。」
大鎌を揮うも、その刃は届かず。
「姉様に、」
ギンッ、と見えぬ力に弾かれ、不安定に宙で揺れる己の武器に思わず息を飲むルリ。
「触れる奴は、」
否、それはラファの放った拳の衝撃波であると、一撃を躱され安定しない態勢から放たれた予想外の反撃であると、
「殺スッ!!!!!!」
思い知る。
「ラファ。」
ゆらり、と。サヨがその手を彼女へ向ける。
「いいわよ、」「ふふ、ありがとう姉様。」
一体何のやり取りをしているのかと着地したルリの頬に
「痛ゥッ!?」鋭い切り傷。
「こっちだよ。」声のする方を見やるも
「ぐっ、」肩に鈍痛。
「こっち。」「ッ!!」
反射的に屈んだそのすぐ上で、己の髪が数本散る。
「その避け方、ハズレ。」
注視してしまった視線を戻すと、眼前にラファの拳が
「なッ」「遅い。」
炸裂。咄嗟に両腕を構えギリギリで護りを固めたものの、その強過ぎる衝撃で一気に後方へ殴り飛ばされる。
「るりさん、平気?」
カーン、と赤い電波塔からよく響く音が耳を劈く。一瞬だけそちらへ気を取られた姉妹のすぐ横で
「……ラファッ!!!!」「!?」
爆裂。衝撃の輪を広げたのち、ワンテンポ遅れて爆破音が轟く。一際強い爆風を周囲へ広げ、辺り一体は一時的に視界不良に陥る。
「…ふ、ご登場が随分速過ぎやしないかい?」
その目くらましの外れで。口元の血糊を拭いながら今しがたド派手な“囮”を発砲してみせた命の恩人に、少しばかりの嫌味を吐くルリ。
「そりゃどうも。」
へらりと笑うナルセ。しかし表情に反してその眼光は暗を帯び、敵の特徴を冷ややかに分析していく。
「ちょんさんの方にはあくさんが行ったね?後で様子を見に行くとしよう。」
カコリ、と首を鳴らしながら
「らふぁさん……凄い攻撃力だねぇ。出来ればあのパンチは喰らいたくないなぁ。」
口元を舐めずる舌は隠さずに
「なるほど?さよさんが魔法でバフをかけているわけだ……私にもかけてくんねぇかな、なーんて。」
カン、と。後退した赤の電波塔からその高さをものともせぬ跳躍を魅せ。そして、
「殺るぞ。」
静かに、銃を向ける。
「危なかったわ、」
「姉様、ごめん。次はちゃんと、殺す、かラ…」
あの至近距離の爆撃からどう逃れたのか、その身を土埃に塗れさせた2人は殆ど無傷だ。愛しき妹の頬を素手で撫ぜるサヨからは少しばかりの迷いが見て取れる。
そんな姉からの愛撫に喉を鳴らすラファだがしかし、
「……来る。」
まるで野生のように。電波塔へ、敵の殺気へ、瞬時にその視線を射る。
「いいのよ、ラファ。私も、次はちゃんと、」
再びその両手に黒布をはめたサヨからは一切の迷いが消える。その不揃いな色合いを伴った眼光は、輪唱帯びし妹との憂いを共生すべく
「アナタを、魅せてあげるから。」
悠然と、敵を見据えた。
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