コロナ臨時営業「NHK、初めてのクレーム対応講座(上級編)」(しろ)
秘密結社 路地裏珈琲
コロナ臨時営業「NHK、初めてのクレーム対応講座(上級編)」(しろ)
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「ごめん、これちょっと...悪いけど返品したいんだけど」
「すみません、ご注文と違うお品でしたでしょうか?」
「あーそうそう、なんか内容違い過ぎて。カスタム色々いじったから、多分途中で間違えてるわこれ」
しっかり半分飲んどいて、不味いと宣ったニヤニヤ笑いの舐めた男性客に、しろの笑顔がそのまま凍りついた。背後のカウンターで全員に聞こえる大きさの舌打ちがして、場が加速して冷える。サトウは振り向かないけれど、ゆっくり頭が浮かんできて、目だけでじいっと不気味に天井を見上げたまんま動かない。時間の問題だ、これは揉める。
スズキが溜息をひとつ、やれやれ久々に俺の出番かと怠そうに空の手を打ちつけたのだが、驚くべき事に、その必要は全くなかった。
「あ、承知しました、それでは今後のサービス向上のために今一度最初の段階から確認させていただきますね」
「...はい?」
「お客様ご来店後、こちらのメニュー表を7分ほどご覧になりまして、ホワイトフラペチーノココアカスタムとカフェモカチョコソースカスタムでお迷いになった後、お連れ様にお強めに片方お勧めになってご自分ではお手頃なお値段のカスタムをお選びになられましたが、その際私ココアですとチョコレートに比べて甘味が少なめになりますので、おすすめはキャラメルシロップですとお伝えしましたらご自分でキャラメルはくどいからココアのままがいいとおっしゃいまして」
「いや、あのさ...」
「それではお客様のカスタムご検討履歴繰り返させていただきますー、ココア、キャンセル、キャラメル、キャンセル、チョコレート、ヘーゼルシロップ、ココア復帰」
瞬きなし。息継ぎなし。目は一点、男の黒目目掛けて刺さる視線。一定のトーンで増えるカエルの輪唱のごとく、しろは止まらないし、止まる気配がない。男は憂さ晴らしのつもりであったのだ。来店から長々と居座り絡み、困らせたところで気軽にちょっかいを掛けて、八つ当たりをしたかった。なのに、オロオロしてくれるはずだった目の前の女の子が、唐突に壊れた恐怖たるや...。
「以上経由してこちら、うちの、マスターが、心をこ・め・て、お作りしまして、おそらく間違いなくご注文通りお届けしたかと存じますけれど、万が一間違いがあった場合大変申し訳ございませんので、恐れ入りますがどれが違ったかご指摘いただいてもよろしいでしょうか」
”......お前がもう一度、同じように言えるもんならな。“そう、しろの恐ろしく上がった口角が伝えている。そのまま、おずおずと言葉も発さず逃げ帰る男とその連れの背を、清々しい顔のしろと、硬直した笑顔の一同が見送った。
「サトウさん、こいつやっぱあんたの子だ...」
「そんな気がしてきた」
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ひとことメモ: しろちゃんはもしもの時のためにレジの手元で監視カメラの操作とイヤモニを欠かさないしっかりクレーム対応🙂
お粗末さま!
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