路地裏珈琲 夜間営業 短編まとめ1
秘密結社 路地裏珈琲
路地裏珈琲 夜間営業 短編まとめ1
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3/25 夜間営業時の短編振り返り
鬼灯+マメスケ
仕事で失敗した。その事実だけが巡り巡って、今日の不甲斐ない自分がどうしても許せない、深夜のこと。内罰的にテーブルを力いっぱい擦っていたら、自分の負い目も消えないかな、なんて期待したのに、隅のテーブルから予期せぬ客が手を上げた。
「お嬢さん、ちょっと」
マメスケが、安っぽい缶コーヒーを2つ差し出している。微糖とブラックどちらが良いって聞いたくせに、彼はとっと微糖を押しつけちびちび真っ黒の缶を煽り始めた。ただ、ポツポツと、自分の事を話せという。2人の他に人は居ない。恐る恐る語る鬼灯に微笑んで、ただ、ただ、マメスケはそれを聞く。辿った記憶が重なって、一度は堪えた涙のシーンにたどり着いたら、今度はもう止めどもなく溢れてきてしまった。
「叱って下さい、と君は次に言いそうだな。悪いがお断りしよう」
彼の明るくいつも通りの癖に、切れ味鋭い一言で、鬼灯の全てが硬直した。硬直と言うよりも、何か悪いもの一切から、ぷつりと解き放たれたのかもしれなかった。
「甘えてはいけない。小生は、甘やかしもしない。だって君は、大人だ。大丈夫、ちゃんと大人であるよ」
気怠くもたれた椅子の背で吐き出した、初めて聞く37歳の彼の声は、それ以上何も教えてくれなかった。飲みかけの缶コーヒーを、強引に取り替えて、彼はそれをまた煽って、勧める。苦い風味と缶コーヒー越しの唇は、思ったよりも悪くない。
「例え君が、君を子供扱いしたとしてもね」
音源: ※更新中
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