【SS兼台本倉庫】悪役(全21作品)
書き手.くらげ/利用者.
【SS兼台本倉庫】悪役(全21作品)
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【前書き】
Twitterにて「いいねした人を悪役にするタグ」を消化した記念に建てられた倉庫。nana内であれば自由に使ってどうぞ
【以下本文】
息をするように、もとい息をする為に。男は殺した、沢山の人を。そして浴びた、犠牲者たちの血を。すると自らの白い肢体に仄かな赤みがさして、生者と名乗ることを赦されたような気がしたから。
デッドマンは死体の山の中ほどで産声をあげた。デッドマンは死体の山を築いた。デッドマンはデッドマンを生む。
「「考えたことはないかい?特にパンを挟んだサンドウィッチをつまむのがやっとの、忙しい時なんかに。体のパーツや、自分自身を殖やせたらいいのに!って」」「ちょっと黙ってな、説明役は一体で十分だ」「オーライ、私」「コイツの一人称から察したかもしれないが、私たちは双子なんかじゃない。殖やされた同一人物なのさ。この特別な薬品を飲むことによってね。副作用は今のところ確認されていない。飲み得ってワケ。但しーー」「「「ーー殖えるのは私なんだけどね、あはは」」」
「酷い雨ですね、ご一緒しても?」と身の丈ほどの傘を抱えた女に話しかけられたら、雨が止む前に済ませてしまえ。やり残したこと全てを。法に触れようが触れまいが、寿命は縮みも延びもしない。彼女は嵐で、我らは屋根を持たぬもの。後に残せるは体液混じりの水溜りぐらいだ。ーー0番街のおしえ
使い方を誤れば怪我をするもの多々あれど、痛みを覚えなければ改めることは難しい。願わくばこの一射を以って、スコープに映る女性が自らの行いを正しく認識できますように。
蝶よ花よと育てられ、父母の眠る広大な土地を相続し、「二人ぼっちでは寂しかろう」多くの殉死者を出した女は、ただ魅力に富んでいた。
骨格、体色、用いる言語。その他諸々の要素からして、彼女が異邦人であることだけは間違いないと言えるだろう。但し、世界のどこを探しても共通する要素は見つけられなかった。加えてここの食事が体に合わないらしく、すっかり弱ってしまった彼女の協力は期待できそうにない。唯一の手がかりーー額に刻まれた未知の記号を以下に記す。
イセカイナガシ ノ ケイニショス
「あなたってネタバレ許せる派?そう……私は許せない派なの」
酸いにしろ甘きにしろ、ハジメテの感動は何ものにも代えがたく、ある女はそれを何度も味わいたいと思った。試行錯誤の果て、開頭痕が生々しい彼女の頭は悍しい解を導き出す。
「ご存知かしら、ヒトの目玉は産まれた時点で成長しなくなるということを」
嗚呼、なんだってこの街は夜泣きが酷いんだ。
いい気味だ!と嗤えたのは始めの内だけだ。次第に飯の味がわからなくなって残すようになった。増えた取り分に比べて胃が小さいから、だけではないだろう。残飯に集る蝿の複眼、その全てに見咎められている気がして吐いた。吐いた、吐いた、嘘を吐いた。
「夢に見ました。この村の守り神は腹を空かせておいでだ。すなわち、贄を求めていらっしゃる」
挨拶だけはしっかりなさいと躾られてきたからでしょうか。おはよう、こんにちは、こんばんは。そして、サヨウナラ。その日 出会った人ひとりにつき、一連の挨拶を頭から尻尾まで。やりきらないと気持ち悪くて眠れない体になっていて。ある時気づいたんです、ご近所さんが亡くなられた時だったかな。出会った対象が生きていなければやりきっていなくても気持ち悪くならない、と。後は、ええ!快眠です。サヨウナラ、先生。
「どうしましょう」
「また、奥様に折檻されてしまいます」
ブラッドオレンジの空を背景に、千切れたリードを持った女性は困り果てている様子でした。なので声をかけたんです。助けは要りますか、と。彼女は悩む素振りを見せてから、私に尋ねました。「お時間よろしいですか」と。
それから、私は彼女に様々なことを教わりました。彼女がある屋敷の女中であること、雇い主のペットの世話を任されていること、そしてそれを逃してしまったことに代えを用意すれば見逃してもらえること。
「大丈夫!奥様は愛情浅い方ですから、見分けなどつきません。ただ……手足が少し、長すぎますね」
善悪問わずカリスマ性のある人物にはフォロワー(追従者)が現れるものだ。故に俺は「またか」を口にしないよう心がけている。この言葉は耳にした人々に先入観を与え、真実を見落としやすくするためだ。しかしーー彼女(?)の起こした事件に限っては口を塞ぐ手が間に合わない。「またか、またこんな……惨い真似を」
赤黒い海に浮かぶドレッサー。その台上には化粧が施された首が一つ。メイク道具は恐らくそこから下で。"綺麗になったじゃない、ワタシほどじゃないけど"とは下腹部に刻まれているメッセージ。
「現れてたまるものかよ」
子供の頃の夢とそれを諦めた理由を覚えていますか。
私はきっと、疲れてしまったんだと思う。元より解離している理想と現実をくっつけようとして。……それでも諦めきれず、胸の内側で燻り続けるのが子供の頃の夢のズルいところ。私、もう少し頑張ってみようと思って!今までしたことないこと色々試してみたんです。断捨離とか。
なにぶん人を捨てるのは初めての経験ですから、至らなかったのでしょう。呼び出されるだなんてドキドキしてきました。それで、どうすればよかったんですか?私がおよめさんになるには
私は大の甘党で。気づけば虫歯だらけになっていて。治療が済むまでは我慢するように、とお医者様に指導されていましたから。従っていたんですが、どうにも腹の虫の居所が優れない。そんな折に出会ったんです、他人の不幸と言う名のシロップに。
今では絞り方のコツを掴みましてね。隠し味ってあるでしょう?ケーキに少量の塩を混ぜて甘味を引き立たせるように、救い、傷を癒し、打ち解けあってから絶望に落とすようにしてるんです。
その甲斐もあって血糖値は下がり、孤児院の運営費は潤沢になり、そしてーー入れ歯は金製になりました。イイコ、揃ってますよ。
君のとこにはサンタ来ないの?羨ましいなあ。いや、皮肉じゃなくてね。煙突のない私の家には毎年、お願いの手紙を出したり、靴下の用意をしていなくてもプレゼントが届くんだ。但しブラックサンタから。もう子供って歳でもないのにね。
彼に目をつけられる条件。そう、悪い子とされる心当たりがないのもあって、大変迷惑していて。今回は鬱憤を晴らすべく、ある実験をしてみることにした。それはサンタからプレゼントを貰えるいいこを靴下に加工・用意しておき、パラドックスを引き起こし、プレゼントできなくするというものでーーどうかした?
君は僕にとっての光だ、なんて。キザなセリフでご機嫌とりしたって、笑い返してくれないことは疾うの昔に知っている。そう、動かなくなった君を秘密の部屋に招いた時から。……つくづく思うよ、女性の嗅覚は大したものだと!この部屋から出た後、君たちは決まって口にする。「誰と逢っていたの?」
それに対して、僕はこう返したくなる。「燃えるような恋人と」死蝋の匂いから女を嗅ぎ当てた雌犬たちへ。
「ここでは私の出番はなさそうね」「だって、お似合いじゃない。皆して」「囚人服」
初めてコーディネートを任された時、彼女は感動のあまり涙を流したという。それは自らが磨いてきた実力を認められたため、ではない。ようやく装着者と服飾とのミスマッチを正せる権利を得た為である。
「様々な事情があるのでしょう」「そうと知りつつ許せないのが拘りというもので」「往来は顔を上げて歩けなかった」「山羊頭の人間が跋扈しているように見えたから」「ちぐはぐで、悪魔的なセンス」
初めてコーディネートを任された時、彼女は凶行に及んだ。日頃から持ち歩いている縫い針で。着替えを済ませた女性客と服飾とをひとつにしてしまったのである。引きちぎられた更衣室のカーテンは、もはや何も遮らない。泣き声も「お似合いですよ」も。
「オニィちゃん何歳?んならウチには入れられないな。酒しか置いてないからね」
特に理由はないんだ。……あるんだろうけどはっきりと言葉にできない。そんな、年頃の衝動に突き動かされて。知らない街へ行こうとして、果ての見えない道を歩いていた僕はある店に行き着いた。その戸を叩こうとしたところ、店主と思しき人物からかけられたのが先程の言葉。店主はペンキの臭いを漂わせながらこう付け加えた。「帰る家があるなら看板には従うなよ」
ーー看板?そういえば、道から外れた場所にあるこの店に行き着いたのは、看板の案内によるところが大きい。それに従うなとはどういう意味なのか。興味を引かれた僕は注意に従わなかった。そして、直ぐに後悔することになる。
何と形容したらいいんだろう。その窪地は車の墓場だった。中には運転手のものと見られる白骨が転がっていて。恐怖のあまり動けなくなった僕を衝撃音が自由にした。……大破した車が増えている。
「本業だけでやっていけたらいいんだけどね。小銭稼ぎをしなくちゃならないのが現状で。倉庫から酒を出してくるとか適当な理由をつけて、車に細工をしてやればこのとおり。客がまばらにしか来ないからこそ為せる技だな、笑えねえ」「さて、俺が死体の胸ぐらをあさって財布を抜き取るところを見られちまったわけだが」「“どう“する」
「お気に召したようでなりよりです、ミスター。実はそちらのチェアはあなたが取材にいらっしゃると聞いて用意したもので。差し支えなければ連れて帰ってあげてください、その子も喜ぶことでしょう。何せ慣れ親しんだ我が家なのですから!」
「顔色が変わりましたね、やはりあなたの真の目的は原材料が何か暴くこと。当たりはつけているんでしょう?先ほどお話した我が社のモットーを答えとさせていただきます」
「“お客さまひとりひとりに最適な雑貨を。原材料調達に妥協はしません”初恋の人の髪で編んだ人形から、憎いアイツの頭骨箸置きまで」
「バッドカンパニー」
「おぉ痛(イテ)、見ろよ血が出てる。鼻の下伸ばしちゃいないだろ?怪我をしたんだ、誰かさんがぶつかってきたせいで。気がつかなかったなんて言い訳は通用しねェ。気にしなかったんだよ、アンタはな」
「車は修理中か、だから駅に向かってるんだ。いやはや、酷い目に遭った。傷口は燃えるように熱いのに、他はどんどん冷たくなっていって。なんとか持ち直し、強い信念を以って追いかけてきたが。見も向きもしやがらねェんだ、今だって遭っている」
「ーーなあ、なあってば!」「アンタ、何ともないのかい。首とか、腰から下とか。酷い有様だよ、随分と怨みを買っているんだね。お節介かもしれないが、然るべき場所へ行った方がいい」
「ええ、そのつもりです。仕事が仕事ですからね。いずれは地獄へ」
「嫌いなものは何?って聞かれたら真っ先に思い浮かべるのが誕生日。大切に扱われれば扱われるだけ、歳を重ねたくならないの。そうでしょジーンリッチ(私たち)」
誰かが言った。「時代錯誤も甚だしい」安楽死を権利の一つとして認めていないこの国では、優しい他殺こそが苦痛多き生からの救済だと考えられている。
「僅かにでも苦痛を与えればリンチが待っているハードワーク。割りに合わない」と殺しを請け負わない殺し屋も。
釣り合わぬ需要と供給。癒されない渇きの果てに。目をつけられたのがジーンリッチ、遺伝子操作された子どもたちとそれを生み出す技術で。ジーンリッチとして生を受けた彼女らは、一定の年齢を迎えると親殺しせざるを得ない。
「好きなもの?もちろん、パパよ!……ついでにママも」
あの人たちの曇りなき眼は蛇のそれに似ていて、とても逆らう気が起きなかった。いずれお前の役に立つからと用意された課題の山は、片付けても片付けてもキリがなかった。「言えばできる子」本名を差し置き私をそう呼ぶあの人たちが、期待のあまり暴走して、オーバーワークを課していたのだと気づいたのはごく最近のこと。息苦しくって生き苦しくって仕方なかった。
ーーだからだろうか、心惹かれたのは。「いずれ何の役に立つんだ」私の無粋な問いかけに「わからない。けれど、好きなことをしていると呼吸が楽になるんだ。だから、少なくとも現在(いま)は役に立っている。アタシを生かしてくれている」と返した彼女に。趣味を教え、与えてくれた彼女にーー
「……夢を、見ていた。貴女がまだ動いていた時のこと」
いずれ氷の魔女と呼ばれる女は、まるで心を許した相手であるのかように冷凍庫に体重を預けた。
あっという間のことでした。"見知った人物"が豹変して、辺りの動くもの全て切りつけて、そしてーー(何かに反射した姿でも見たのでしょう)己すら動くものと見做したのは。辛くも生き延びた私は自らの使命を悟りました。「伝えねば」「我慢は毒である、と」「私ならば救える、と」
"見知った人物"をはじめとする凶悪犯罪者たち。彼らの多くは過去に親から虐待を受けていたりと、不満を覚えていても我慢せざるを得なかった人々で。その箍(たが)は消耗しきって、何てことはない拍子で外れるほど緩んでいる。トンネル工事を大いに助けたダイナマイトが戦争の道具とされたように、爆弾は巻き込むものを選べない。彼らが望まぬ殺しをせずに済むように、我慢を止めさせるのが自らの使命。そう信じて刃物を握った女が居た。
「ちょっと痛むでしょうけど、我慢してくださいね」
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