「林檎売りの文化財」(ダンデ/はこまて)
秘密結社 路地裏珈琲
「林檎売りの文化財」(ダンデ/はこまて)
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トコトコ、ポクポクと、彼女は足音のパーカッションがお気に入りのようだった。午後の気だるい空気が漂う石畳を、大きめのツバ広帽子を乗っけた林檎売りの少女、ダンデが行き来する。こんな冬に陽炎かと目を疑う通行人、彼らの目は狂っていない。だって、彼女はリトグラフ...世界中、彼女は色んな街で暮らしてる。
さっき猫と一緒に転がる林檎を追いかけて、通りを横切ったのが、民家で寝ていた彼女。
今、住人にひとつ林檎を売ったのは、街の美術館から連れ出して来た彼女。
そしてずっと、林檎をひとつ売るたびに、浮かない顔で空を見上げるのが、彼女。
「どうしたの?」
「お父さんが、林檎は罪深い知恵の果実だって、言ってたから。わたし達がこれを、お小遣いを稼いだり、おしゃべりのきっかけとして売ってしまったら......あの人達は、知らずに罪を被ってしまうのかな」
「でも、さっきも美味しそうに齧ってた。それは、お父さんの昔話かも。お父さんは、冗談が大好きだったよ」
「誰が最初に、林檎は罪だと決めたのかな」
「初めて林檎を食べた人は、この“真っ赤”が、怖くなかったのかな」
「林檎は一体、どんな味なんだろうね」
同じ思考の渦に巻かれて、ダンデ達は、そっと、ひとつずつその果実を手にして、互いを見つめ牽制する。乾いた風に、喉もカラカラだ。
青い匂い、艶やかな素肌、ひんやり冷たく心地よい。
食べちゃダメ。
この、ドクドクと胸が脈打つ感覚は、一体どこから、何故湧いた?
一口だけ。
誘惑に負けて噛り付いて、小さな口を満たし滴った果汁に、ケホケホと彼女の喉はむせて鳴る。初めて出会う甘酸っぱさに、喜びと驚きが混ざり合って、未知の美味しさに目が潤むけれど、喉に絡んだ糖蜜は焼け付くように、咳を誘って苛んだ。
ついに見かねた大きな手のひらが、背中を優しくさすって、果実は無言で取り上げられ、その罪悪感に小さな背中がしゅんと丸まって、やっとそれで我に返った。ああ、やってしまった。
「そうやって、良し悪しは味わいながら見つけて行くのさ」
「...フリード」
「ダンデは今、このひと口で少しだけ人間に成った。おめでとう」
彼女たちは今日、ひとつの解にたどり着いた。
林檎は、林檎でなくても良かったのだ。そう、初めてだらけのこの世界には、”林檎“は何処にでも隠れている。知ることを、罪ではなく幸せと定義しようと、ヒソヒソ話す彼女たちに、離れた所から指をくわえて見ていた少年、彼が駆け寄り、ひとつ林檎をねだったら、観衆は次々と追随して林檎を買い求めたのだった。
「......俺はよっぽど、味見を待ってる奴らの方が罪深いと思うけどね」
飛ぶように売れて、空っぽになるカゴと、降って重なる硬貨の音。罪の音色を聴きながら、小さな歯型のついた林檎を、フリードがもう一度かじった。
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ダンデちゃんは”私“同士が寄り合うと、すぐ会議がまっちゃう。
お小遣い1000¥を手に入れました。
※各自お部屋で記帳をお願いいたします。
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