第9話
よるをおよぐ / 西島尊大
第9話
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『早朝の電話』
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電話の相手は、少し気怠そうな声であった。
『私、朝が苦手なのよ…。ところで、驚いたわ。まさか、私が熱愛パパラッチした相手が親子になるとは思わなかった』
「俺も驚いたさ。君がかの有名カメラマン、エルだったなんて。写真を残しておけば良かったな」
『冗談。…私、やっぱりもう色が見えないの。素敵な写真が撮れないから、潔くカメラマンをやめることにしたわ』
「惜しい宝を無くしたな…」
結局、エルに納得のいくヒナの写真は撮ることができず、写真集の話は消えた。
『ヒナの色が全く見えなかった。あんなに真っ直ぐなはずの子なのに、無機質みたいに見えてしまったの。私はもうダメよ』
眠そうな彼女に申し訳なく、二言三言ほど言葉を交わした後に、スメラギは電話を切った…。
「でも、あなたのおかげね」
エルは、隣に横たわる彼女に語りかける。
「この目を捨てたおかげで、私はもう、色に惑わされないですむわ」
エルは自身の両目を覆う包帯を、そっと優しく撫でた。
…シーツに横たわるヒナが起きていることにすら、彼女はもう気づけない。ヒナは無言で、寝たふりを続けた。
(あなたは本当は、何も失ってなんかなかったのにね)
その言葉をヒナが口にできなかったのは、彼女の中に、小さくもどろどろとした熱い感情が渦巻いていたからであった。
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#ちゃバン
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