「1月のお誕生日会」
秘密結社 路地裏珈琲
「1月のお誕生日会」
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「......は?」
美子の口から、空気と一緒に張り詰めていた何かが抜けてゆく音がした。
部屋でのんびり寛いで爪の手入れをしている最中に、可愛い妹分達が一大事だと騒ぎ立ててやってきたので、急いでラウンジに駆けつけてみれば、思っていたのと様子が違う。
暗闇を、無数の暖色LEDの豆電球たちがふわりと照らし、みんながテーブルに集っている。微笑みを浮かべた珈琲屋達の手にはコーヒーカップ、みんな揃いの蝶ネクタイなんかつけちゃって、タナカに至ってはどういう要件か鼻メガネで意気揚々と胸を張って見せた。
「なにこれ」
「言ったでしょう、一大事です、年に一度の一大事!!」
クラッカーがあっちこっちで盛大に弾けた。
彼女の心の準備が出来てしまわないうちに、見違える色男姿に整えられた男どもが、拍手と口笛の中、美子の手を取り輪に入れと促す。流石にここまでくれば、自分事に疎い美子だって察しがついたようだった。
「みーこ姉さん、お誕生日おめでとう!!」
これは、まんまとはめられた。よせやい!と、ほっぺを真っ赤に慌てふためく美子が、イトウに抱え上げられて、特等席に到着するなり、頭には花かんむりと銀テープのシャワー。すっかり照れて、両手に妹分達をぎゅうっと抱いた彼女の笑顔は、とても素朴でいて、年相応の艶やかさと柔和さに満ちていた。
次々運ばれてくる、ざくりと焼きあがった黄金色のアップルパイ、その最後の一つ、綺麗なまん丸を、スズキがどんと主役の席に献上する。そういえば、この間約束したような気がする。普通じゃ思い出にならないから、今度から誕生日が来るたびに、蝋燭を吹き消す代わりに特大のひとくちを食べさせることにしようって。誰の思いつきだったかまでは覚えて居ないけれど、茶寮のバックヤードで喋っていたような内容を、この顔ぶれで話している事がむず痒くも嬉しくて、あの時確かに美子は“いいねぇ”と返事を交わした。
さながら結婚式のファーストバイトみたいな、ナイフとフォークで切り分けられた巨大な一口を、彼女は促されるまま思いっきり頬張って笑う。
「うわ、スズキさんのひとくち容赦ない!!」
「仕方がないだろう、こいつ口でけぇんだから」
「ほらそれ、最近サトウさんみたいなこと言うよね!」
「はいはいはい、そんなことより僕みーこちゃんの今年の抱負聴きたいな〜」
「わたしもー!」
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君が生まれてきた日に、ありがとうを言わせてほしい。
君とその奇跡の日を迎えられることに、大喜びしたい。
君を形作る全ての昔話に、感謝を伝えて回ろう。
何度でも言うよ。
僕らは、君は、たった一度だけだから。
“誕生日おめでとう”
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〜みーこ姉さんへのプレゼント〜
みんなで選んだ真っ赤なマニキュア
黄金色の焼きたてまん丸アップルパイ
イチロウさんの書いた絵付きのメッセージカード
この一年が健やかなものでありますように☕️
※お誕生日会の内容は本編に反映されます。
可愛いマニキュアでお洒落してあげてくださいね🙂✨
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